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-i  作者: リョーシリキガク
3章 講義・試験編

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26/51

cos 26x 幻影

「じゃあ、お姉ちゃん!学校行ってくるね!」


 朝。

 弟は大きなカバンを背負って、玄関で元気に手を振っていた。


「えぇ、気をつけてね」


 町は、まだ穏やかだった。

 高原の空気は澄み、木造の家々には薪の匂いが漂い、朝の鐘が小さく鳴っていた。


 ──それから、数時間も経たないうちに、空は赤く染まった。


 風が変わり、音が消えた。

 山の向こうに見えた煙は、あっという間に町を包み込んだ。


「あ……あ……ああ……っ」


 喉を裂くような悲鳴が響く中、倒壊した壁の隙間から、小さな手が伸びていた。

 ──かすかに、声が聞こえた。


「ねぇ、ちゃん……あ、あ…………」


 愛してる、ありがとう、ではなかった。


 熱い。


 それが、弟の最後の言葉だった。


 焼けつくような苦痛だけが、最後に彼の口を突いて出た。


 瞬間、光が走った。

 轟音とともに、爆風が街ごと吹き飛んだ。


 リリスの視界が白に塗り潰され、音が一気に消えた。


 身体が宙を舞う。地面がない。空もない。

 何もかもが止まったように感じられた。


 でも──たった一つ、確かに見えたものがあった。


 瓦礫の向こう、煙の先。

 燃え上がる町の奥で、立ち尽くしていた“何か”。


 赤い外套のような人の影。

 燃える空の中で、こちらに手を伸ばしていた。


 ──指を、差して、笑っていた。


 誰だ。なぜ。


 次の瞬間、意識が闇に落ちた。



 薬品とアルコールの匂い。

 静かに鳴るモニターの電子音。


 最初に見たのは、真っ白な天井。視界がぼやけ、まぶしい光が滲んで広がる。喉は焼けるように乾き、声を出そうとしても空気しか出なかった。


 少し身体を動かしただけで、全身が痛みにきしむ。筋肉が軋み、肺が焦げついたように熱をもった。


 視線を巡らせると、ベッドの脇に黒い制服の男が立っていた。

 袖には軍章──黒地に銀のライン。プロハンターだった。


 リリスは、かすれた声で尋ねた。


「……みんな、は……?」


 頭がぼんやりしていたが、男は以下のことを説明したと、はっきり覚えている。


 生存者は私一人。

 故郷を滅ぼしたのは最強の悪魔にして人類最大の敵、ビクトル。

 そして脳波の解析結果を見せ、私が物体に触れることで、過去の痕跡を読むサイコメトリーを持つため、調査部門での勤務を義務付けられる可能性が高いと。

 しかし、私の振幅の大きさなら、前線……つまりプロハンターとしての適性もある。0からの再出発を望むか?と聞いた。


 リリスはディスプレイを見つめた。

 脳波など見えなくても、自分の中で何かが焼きついていることを、彼女は知っていた。


 燃え落ちた町。

 崩れた校舎。

 弟の声、伸ばされた手。

 そして──指を差していた、あの“影”。


 リリスは、唇をゆっくりと動かした。

 声は掠れていたが、意思はぶれなかった。


「……軍に入ります。必ず、ビクトルを殺す」

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