cos 20x 例'
講義後半、有馬たちは医務室の区画へと移動させられた。
白を基調としたクリーンな室内。天井には薄い照明があり、病院の一室のようだった。
壁際にはいくつもの診断椅子が並び、それぞれにコードが取り付けられた透明なヘッドギアが備えられていた。
「これから脳波を測定し、自分の能力がどの周波数に対応しているか確認してもらう。まず私の脳波から始めよう」
そう言って教授は機器を手に取った。彼も、能力者というわけか。
「私はcos108x……知識や直感にまつわる分野の向上であり、世界を理解することには長けているが、世界を変化させる力はない」
「なんでcosなんですか?超能力の脳波って、虚数ですよね。sinじゃないんですか?」
とある男が手を挙げて尋ねた。
「測定できるのは実数のみなのだよ。弱い-iをかけて吸収を見ている。
これは、自分に合わない、他人の演算子を使うようなものだから、多少気分が悪くなる可能性はある」
その言葉にリリスは眉をひそめ、ヘッドギアをじっと睨んだ。
「では0番隊、リリス少尉から」
リリスがヘッドギアをつける。ゆったりと波打つグラフが確認できた。
「……cos25x。サイコメトリーI型。物体の過去を読み取る能力だ」
次は一ノ瀬が呼ばれ、検査が始まった。彼女の波は、波ではなく直線だった。
「ほう、この波形は特徴的だ。なんだったか覚えているか?ではリリス」
「えっと、cos0x」
「その通りだ。この場合はxの値に関わらず角度部分が0で、cosは常に1になる」
だから波うたない。
測定の順番が進み、ついに有馬が診断椅子に座る番が来た。
技師が手際よく、彼の頭部にヘッドギアを装着する。ガラスのような透明な装置が、ぴたりと額を覆った。
「有馬少尉、スキャン開始」
音声が響くと同時に、室内のモニターに波形が映し出されていく。
静かなcos波。だがすぐに複数の波が重なり合いながら現れた。
「これは……重ね合わせですか?」
技師が息を呑んだ。
教授が眉を上げる。
「有馬の波形については、次回の講義で扱う」
*
――薄暗い実験室。
ホログラムに浮かぶのは、滑らかな正規分布。
それを前に、誰かが口を開く。
「この脳波と理論モデル。99.9%の一致が確認できました。……つまり、あなたは――」
「違う……」
低く、かすれた声が返る。
「彼は∞だった……
だから、あなたは……0なのでしょう」
「違う、違う、違う……!」
叫び。
虚空に爪を立てるような言葉。
「あれは、嘘じゃない……!」




