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-i  作者: リョーシリキガク
2章 氷の悪魔編

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12/19

cos 12x フーリエ演算子

しんしんと降り積もる雪の中を、一台の車が進んでいた。


「異常気象ですね」


 車内で有馬がつぶやいた。


「あぁ、本来ならこの町は春の陽気のはずだ」


 そう隣で答えた銀髪の青年は奏。0番隊の隊員だ。


 2人は悪魔討伐のため、廃坑へと向かっていた。

 パイロキネシス──炎の能力者が行方不明となり、0番隊の出番となったからだ。


 敵は“フクロウ型の悪魔”であり、高い聴覚を持つとされる。

 そこで音を操る奏となら、楽に実戦の経験を積める、までは良いのだが。


 問題が一つ。


 有馬は助手席で、両手で白いものを握りしめた。

 再利用型のカイロだ。奏が渡して来たくせに、いざ開けようとすると「違うし! 開けちゃダメ!」だの、「べ、別にお前にあげたわけじゃないし」などと言い始める。


「能力、もう一回確認しとこうぜ」


「あ、はい」


 有馬が頷くと、奏は会話を待ってましたとばかりにハキハキ喋った。


「別にお前のことが知りたいとかじゃないけど? まぁ、一応ね!」


 なんだこの人。リリスのときも思ったけど、この隊、ツンデレ多すぎないか?


 有馬は内ポケットから、自身の銀色の懐中時計を取り出す。複数能力の場合は、この形になるらしい。

 中には細かな歯車が収まっていた。


「能力は治癒──ただし自分にしか使えません。あとはテレキネシスと、完全記憶。それから、“量子エッジ投影”です」


「最後のだけ、意味わかんない。何それ」


「量子状態の情報をエッジ状に展開して、物理的に空間を切断する……という理屈の技術です。

刃のような力場を作って“切る”ことができます」


「はーん?」


 有馬は苦笑した。面白い方だ。

 そしてその直後、車が急停止する。ブレーキ音が、山道に響いた。


「えっ、なんですか?」

「感じた。空気が揺れてる」


 奏を見ると、銀髪がわずかにかかった片耳にはイヤーカフをつけていた。

 銀細工のような繊細な装飾が施されており、中央に(ナブラ)の紋が刻まれている。

 指で軽く叩くと、演算子が淡く光る。


「ナブラ演算子。発動」


《∇ e^ix = i・e^ix 》


「この音、何かが鳴ってる。悪魔が近くにいる」


 彼の表情は真剣だった。


「……使い方、わかるよな? 演算子を起動して」


 有馬は頷いた。


 演算子、能力の発動に必須の制御装置。

 懐中時計型の、銀の演算子にそっと意識を集中する。

 たったそれだけのことで、空気が変わった気がした。演算子に触れる指先が微かに脈打つ。


「はじめて?」


「……はい、実戦では」


「アドバイスは……力は出そうとしないこと。自分の中に流れてる波を、演算子に通して、世界に広げる感じ」


 目を閉じ、息を整える。


 “波”のイメージ――見えない力が、手のひらを通して世界に伸びていくような。

 確かに何かが“重なりあった”。


「フーリエ演算子。起動」


《ℱ{e^ix} = δ (ω - 1) 》


 重力に逆って、有馬の周囲の雪がふわりと浮き上がった。


「まぁまぁやるね」


 奏はそう言って車を降りた。

 その背中を追いながら、有馬は演算子に刻まれたfを見た。

 フーリエ変換 f^(ξ)。波の分解こそ、超能力の本質である。

e^ixをフーリエ変換するとδ (ω - 1)となり、デルタ関数という有名な超関数になります。後々関係して来ますので、興味が湧きましたらぜひ、デルタ関数の概形を見てみてください!

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