『落ちこぼれ声優は異世界でなにを語るのか?』
私は作家。
異世界転生や並行世界などの作品を多く手掛けている。
日課の執筆を終え、のんびりしていると、
仲良くしている編集者から、
「異世界転生して帰ってきたという方がいるので、会ってみませんか?」
とメッセージが来た。
この手のメッセージはよく来るが、
あまり相手はしていない。
妄想のたぐいが多いからだ。
ただ連絡をしてきたのが、
仲良くしている編集者というところが、
妙に気になった。
まぁいい。
たまには銀座にある獅子の店でも行って、
ビールでも飲みながら、楽しむか。
待ち合わせをしていると、編集者は一人の女性と共に現れた。
緊張しているのか、すこし挙動不審だ。
私達はさっそく店に行き、ビールと名物のソーセージとポテトを注文する。
この界隈でも老舗の店で、雰囲気もいいし、ビールも進む。
店はサラリーマンで繁盛していた。
彼女の声はとてもキレイだった。
そして、多重人格者のような不思議な雰囲気を持っていた。
彼女の話は、私が聞いたどの話よりも、リアルだった。
特に祖母の霊的な話などは、間違いなく、知っている人間の言葉だった。
私は直感的に、これは物語にしないといけないなと思った。
酔いを醒ませるために、プリンアラモードを人数分注文し、話の詳細を聞きこむ。
しかしプリンアラモードは美味い。
気が付けば、3時間も話を聞いていた。
「これは面白い作品がかける」
そう私は編集者に言った。
すると編集者がこう言ってきた。
「実は作品化するにあたって条件が一つあるのです」
「えっ。条件…魂とか勘弁してくださいよ」
と私。
すると彼女が、すこし戸惑いながら、
「もし……。
アニメ化の打診が来たら、
私をヒロインにすることを条件に、
して欲しいのです」
と言ってきた。
「それは面白い。
しかし……。
通るものなのでしょうか?」
と私は編集者に話を振った。
「すこし異例ではありますが、
私も関与していることですので、
それで通します。
あとは先生さえよければ」
「私は全然だいじょぶ。
いや。
これは彼女しかいないよ」
そういった。
彼女から緊張の色が消えた。
「先生。もう1杯づつ飲みませんか?」
と彼女は言ってきた。
「ではこの作品のヒロイン決定を祝って乾杯」
と私は言った。
彼女は満面の笑みだった。
これはすごいのを託された。
私はそう感じた。
…
それから私は集中し1週間ほどで作品を書き上げた。
編集にメールをしOKがでた。
タイトルは
『落ちこぼれ声優は異世界でなにを語るのか?』
ほどなくして、ライトノベル化した。
口コミで話題となり、コミカライズもされた。
そして1年半後にアニメ化の話が来た。
私は当初の予定通り、声優のことを伝えた。
先方に話しはもうついていたらしく、揉めることなく話は進んだ。
そして今、
私は彼女が声をあてている現場を見ている。
尋常じゃない声の世界観に、身動きが取れなかった。
異世界での経験は、彼女に何を与えたのか?
彼女はこの世界に何を与えようとしているのか?
それが……
奇跡のはじまりだった。
―――完――――
そして彼女……
いや、
あなたの物語がはじまる―――
END
※本作は完結しておりますが、反響やご好評をいただければ、続編やスピンオフも考えております。




