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神童 才子 末は落ちこぼれ声優

中学生の頃、私は「アニメ〇〇の〇〇みたいな声だね」と褒められた。

人気アニメで、私も大好きなキャラクターだった。

それ以来…卒業文集の将来の夢は『声優』となった。


何気ない一言が、人の人生を変えることもある。

私の場合「~みたいな声だね」だった。


中高共に友達とかにも、

「絶対売れる」

「私が監督なら絶対採用する」

「才能はいかさなきゃ」

と背中を押してもらった。


高校生の頃

親戚の紹介で地元CMのナレーションもしたこともあった。


CMの会社の社長さんからは

「将来君が有名になったら、うちのCMも全国に知れ渡るかもしれないね~」

とか言われて、とても照れくさかった。


私の実家は東京まで電車で片道10時間以上かかる。

だから高校を卒業し寮がある声優の専門学校に入学した。


幼馴染からは

「なにかあったらいつでも言え。助けに行ってやるから」

と言われた。


「自衛隊に入隊したのに、助けにこれるわけがないよ」

と言ったら、すねていた。


しかし…

学校に来て、声もでないほど驚いた。

地元では天才と言われて…

私が一番だと思っていたけど、みんなの方がずっとすごかった。


さらに打ちのめされたのは

業界に入ると怪物クラスしかいない。

という事実。


オーディションに行っても、端役にもなかなか採用されない。

声優の世界は、俳優などと比べ、年齢があまり関係ない業界なので、

新旧交代が起きにくく、よっぽどの才能がない限り成り上がりが難しい。





さらに厳しかったのが

私が地方出身の声優だったということ。


これは大きなハンデだった。


一人暮らしの負担はあるし…都内出身の親同居の声優とはまったく違う…


そして声優の仕事の仕組み。

仕事は単発だけど、時間の拘束がある。


だからどこかで正社員をしながら、副業で声優をするのは難しい。


“本業”のはずの声優より、“副業”のアルバイトの方が収入になる。


そんな子がほとんどだった。


声優の仕事だけで純粋に生計を立てられる人は一握りだと私は思う。


そんな私にもチャンスがあった。


BL原作のアニメのヒロイン役に抜擢されたこと。

しかし原作になかったキャラなので、原作ファンから嫌わられた。

しかも途中でスポンサーが降りて、完結すらできなかった。

そんなこんなでプロフィールにも書けなかった。


27歳になって、私はある乙女ゲームが原作の嫌われ役の悪役令嬢役に抜擢された。

ただ…これは悪役令嬢役だけど、主人公というタイプのアニメではなく、

本当に嫌われ役の悪役令嬢役だった。


これまで11本とった。あと1本で私の仕事は完了だった。


その日はやけに暑い日だった。

熱中症になったらバイトにいけないし大変だと、

スポーツドリンクを買おうとし、財布を開けた瞬間

500円玉が転がった。

あわてて手を伸ばした、その瞬間――

「キィィィィッッ!!」

トラックのクラクションと金属音が、私の世界を塗りつぶした。


「あれ私の命…500円だったの?

最後…完了させたかった」


それが私の最後の言葉だった。


――――――――――――――――


「おい、聞こえるか。おい、君。おい、聞こえるか。おい」


「……うん。ここは… あなたは……」


そこにはただ暗闇の中に光の粒子があった。まばゆく、そしてどこか懐かしい。


「私かい? 私は神様だよ。これまた…ずいぶん不本意な最後だったようだね」


辺りを見渡しても一面の闇。静寂の中にただ光の粒子と、神様の声が響く。


私はひかれたのか…


「しまった…もう1本で終わりだったのに…」


そうつぶやくと


「あー気になるよね。でもね。君は地縛霊にはなれないのよ。次の任務があるからね」


と神様は言う。


「えっ次の任務って?」


「うーんとね君は…転生するんだよ。これから町娘としてね」


「転生? 町娘? 」


「そうそう。あっ。君のその手の赤い腕輪かな?それ外しておいたほうがいいよ…じゃ」


とそれだけ言って光は消えた。


◆ ◆ ◆


気が付くと、私は知らないベッドに横たわっていた。

雰囲気からして、中世ヨーロッパっぽい。どうやら転生は本当にしたらしい。


ズキン……


頭が痛い。記憶が、流れ込んでくる。


これは依り代だったマリーという人物の記憶。

胃の底が捻じ切れるような吐き気。自分の中で、誰かの「悲しみ」や「喜び」が脈打っている。


自分なのに、自分じゃない――その違和感が、皮膚の裏からじわじわと這い上がってくる。


自分の中に他人の記憶が入ってくる――これは、二日酔いの5倍は不快だった。


どうやらマリーは5年前に両親が他界し、いろいろな仕事を転々としていたみたい。


服装も容姿も、マリーのものに変わっていた。


しかしなぜだか……

ただひとつ、手首にはあの“赤いミサンガ”だけが残っていた。


巫女をしていた祖母から、もらった赤いミサンガ。


これはこっちまでもってこれたんだ。

なぜだか赤いミサンガは、とても大切にしないといけない気がした。


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