7
早速、白石たちは社長室の中へ足を踏み入れる。
部屋の中は前に見た時と代わり映えはしていなかった。
白石たちは部屋の中を一通り調べてみた。
「凶器になるような物は無さそうだな……」
片桐が諦めたように呟いた。
「うん。た、た、多分、は、は、犯人がも、も、持ち出したんだ、だ、だろうね……」と、白石は言う。
「だよなあ……。まだ、どこかにあるのかな? それとも、犯人がまだ持っていたりして……」
片桐が想像でものを言う。
「も、も、もしそ、そ、その犯人がま、ま、まだも、も持ってい、い、いたとし、し、したら、ど、ど、どうなるとお、お、思う?」
それから、白石が片桐にそう訊く。
「どうって、最悪の場合は、また殺人が起きるんじゃないか?」
片桐は平気な顔で言う。
「そ、そ、そんなこ、こ、怖いことへ、へ、平気でい、い、言うなよ……」
それから、白石が呆れ顔で言う。
「怖いこと? そりゃあ、怖いだろう? 次、もしまた殺人が起きたらさ。だから、それを防ぐためにも警察や推理が必要になって来るんだろう?」
片桐はやや怒り気味にそう言った。
「あ、ああ……ま、ま、全くそ、そ、その通りだよ……」
白石は諦めたように言った。
「か、か、片桐くん」
「何?」
「こ、こ、このみ、み、密室については、な、な、何かわ、わ、分かったかい?」
それから、白石がそう片桐に訊いた。
「全くだ」と、片桐は即答する。それから、彼が口を開く。
「ここに、名探偵ポアロがいたら、すぐにそのトリックを見破るだろうけどね」
片桐がニヤニヤしながら言う。
名探偵ポアロとは、ミステリー作家・アガサ・クリスティの作品に出てくる探偵、エルキュール・ポアロのことである。片桐は名探偵ポアロが好きらしい。ポアロは事件に自分から首を突っ込み、「灰色の脳細胞」を用いて事件解決を目指すらしい。
「じ、じ、実際にはいないだろう……」
呆れ顔で白石は言う。
「い・た・らの話だ!」
「も、も、もしも話はや、や、止めてくれ!」
「ああ、すまん……。一体どのようにして社長を殺したのか? しかも、この密室で……。うーん、考えてはいるが、全くわからん! ねえ、やっぱりポアロみたいな名探偵が必要なんじゃないのか?」
片桐は白石を見て言う。
片桐は時々、可笑しなことを言う。彼はお喋りだが、実を言うと、アホである。
吃音の白石は片桐を尊敬していた。彼は頭の回転が速い上、良く喋るからである。白石は彼の様にスムーズに喋れたらと思っていた。けれど、彼の話を聞いても分かるが、訳の分からないことをいう時がある。それこそ、彼の本来の姿であり、正真正銘、彼は阿保である。
「白石、お前はどうだ?」
それから、片桐が白石に訊いた。
「ぼ、ぼ、僕もま、ま、まだわ、わ、分からないよ」
白石は正直に言う。「も、も、もう少しき、き、訊き込みがひ、ひ、必要じゃ、じゃ、じゃないかな?」
白石がそう言うと、「ああ、そうだな。あと、副社長と水田って男にも、話を聞いてみよう」と、片桐は言った。
「う、うん」
白石はゴッホのひまわりの画を見て頷いた。