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それから、秘書の清水が水田という社員に連絡してくれた。
「五分後に来るそうです」と、彼女は言った。
「分かりました。ありがとうございます」と、兵頭部長はお辞儀をする。白石たちも彼女にペコリと頭を下げる。
それから少しして、会議室の扉をノックする音がした。
「どうぞ」と、清水が言う。
「失礼いたします」と、若い眼鏡の男性がそこへ入って来た。
「水田さんですか?」と、兵頭部長が彼に訊く。
「はい、水田です」と、彼が返事をする。
「水田さん、お忙しい中、すみませんね」
「いえ」
「一つお聞きしたいことがありましてね」と、兵頭部長が言う。
「何ですか?」
「ああ、その前に、お掛けになってください」と、兵頭部長は空いている椅子に水田を勧めた。
失礼しますと彼は言って、部長の正面の席に腰を掛ける。
「お聞きしたいのは、石原社長のことです。水田さんは、社長を憎んでいたことはありませんか?」
兵頭部長が早速そう訊くと、水田は目を丸くした。
「憎む!?」
「ええ」
「いえ、僕は全く社長を憎んでなどいません!」と、水田はきっぱりと言う。
「そうですか」と、兵頭部長は頷く。
「では、石原社長が殺害された時、水田さんはどこで何をされていましたか?」
兵頭部長は彼をまじまじと見て訊いた。
「昨日の夜は、社長と清水さんと僕とで飲みに行ってました」と、水田は答えた。
「三人でですか?」
「はい」
「それって、何時頃ですか?」と、兵頭部長が訊く。
「夜九時頃です」
「何時くらいまで飲んでいたんです?」
「十時くらいまでだったかと……」と、水田は言う。
「なるほど」
「そう言えば」
それから、清水さんが口を開く。「九時半くらいに社長のスマホに電話が掛かってきたんです。社長はその電話に出てました。副社長からだったそうです」と、彼女が言った。
「副社長さんから?」と、兵頭部長が訊き返す。
「そう仰っておりました」と、清水が言う。
「木下さん、その頃、石原社長にお電話をされましたか?」
それから、兵頭部長は木下副社長に訊いた。
「しました」と、彼は答える。「一件、仕事のことで社長にお話がありまして……」
「なるほど。因みに、木下さんはその時間、どちらにいらしたんです?」
それから、片桐がそう訊いた。
「私はその時、会社におりましたよ。ちょうど仕事をしていました」と、副社長は答えた。
「何時頃までお仕事されていましたか?」
「ええっと、夜十時を過ぎたくらいまでだったかと思います」
「あの」
再び、清水が口を開く。
「さっき、九時半ぐらいに社長に電話があった話をしたと思うんですけど、その後、社長が『副社長に呼ばれて会社に戻らないと』って言って、お店を出て行ったんです」
「え? そうなんですか?」
兵頭部長が副社長の木下を睨むようにして訊いた。
「ああ、そうです。電話で社長を呼びました。それも、仕事の件なんですが、ちょっと緊急を要する問題があったので、すぐに来てもらうように言ったんです」
木下副社長は淡々と話した。
「なるほど。その後はどうです?」と、兵頭部長が訊く。
「その後、三十分くらいでしょうか。社長とそのトラブルを対処して、なんとか解決しましたよ。終わったのが、十時半頃だったような……」
木下副社長は思い出すように言う。
「その後は?」
再び兵頭部長がそう訊いた。
「その後は、社長も私も帰りましたよ」と、木下副社長は言った。
「そうですか……」と、兵頭部長は呟く。
それからしばらくの間、全員が黙ってしまう。
「……分かりました」
兵頭部長はそう言い、立ち上がる。
「皆様、お忙しい中、お時間頂きありがとうございます。引き続き捜査をしてまいりますので、どうぞよろしくお願いします」
兵頭部長はそう言い、敬礼する。白石たちもその後、彼に倣って敬礼した。
「よろしくお願い致します」と木下副社長が言って、ペコリと頭を下げる。よろしくお願いしますと、清水や水田も同じようにした。
「では、失礼致します」
兵頭部長はそう言って、その会議室を出る。それから、白石や片桐もそこを出た。
「あ、入り口まで送ります!」
その後すぐに清水がそう言って、彼らの後を追った。