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 白石たちは車でS:TARの会社ビルへ向かった。

 会社へ入り、二人は受付へ行く。

「警察の者ですが、秘書の清水さんと少しお話ししたいのですが」

 片桐が受付の女性にそう言うと、「かしこまりました」と彼女は言って電話を掛けた。

 しばらくして、エレベーターから秘書の清水がやって来た。

「こんにちは。お話というのは?」と、清水が訊いた。

「あの、事件についてお話したいので、副社長じゃなかった、社長の木下さんと副社長の水田さんを呼んでいただけますか?」

 片桐が清水にそうお願いする。

「……はい。分かりました」と、彼女は頷く。

「それから、ここじゃなくて、どこか会議室でお話しできます?」

 片桐がそう提案すると、「分かりました。それじゃあ、四階へ」と清水は言い、エレベーターの方へ歩いた。片桐たちは彼女の後に続く。

 それから、三人はエレベーターで四階へ向かう。

 四階に到着し、清水が廊下を歩きながら空いている会議室を探す。ほとんどの部屋が会議中の様であったが、奥の部屋が一つ空いていた。

「こちらへどうぞ」

 清水はそう言って、その部屋の電気をつけた。

「失礼します」と片桐は言って、そこへ入る。白石も後から部屋に入る。

「今、二人に電話してみるので、少々お待ちください」

 それから、清水はそう言って持っていたスマホで電話を掛けた。

「す、す、すみません。ちょ、ちょ、ちょっと、お、お、お、手洗いに……」

 白石は彼女にそう言って、その部屋を出る。エレベーター横にトイレがあった。白石はトイレへ入った。トイレに入り、掃除用具入れを覗く。

「ああ、やっぱり……」

 そこには、()()()()()()()()

 その後、白石は階段で三階へ上がり、トイレへ行く。それから、五階のトイレにも行く。どちらのトイレにも梯子が一台あった。

 会議室に戻り、白石は片桐に耳打ちする。

「え、本当かい!?」

 案の定、片桐はそれに驚いていた。

「う、うん」と、白石は頷く。

「そうか……やっぱりか」と、片桐はにやりと笑う。

 そして、清水が電話を終えたようで、「今から二人が参ります」と、彼女は言った。

「ありがとうございます」と、片桐は清水にお礼する。

「お待たせしました」

 少しして、社長の木下と副社長の水田がやって来た。

「すみません、お忙しい中……」と、片桐が彼らに謝辞を述べる。それから、「事件の概要が分かったので、お話をしに来たわけです」と、彼は言った。

「え? 犯人が分かったんですか!?」

 すぐに清水が訊いた。

「犯人はと言うと……実はまだなんです」と、片桐は正直に言う。

「まだ?」と、清水が訊き返す。

「ええ……。でも、この中にいるんです!」

 片桐がそう言うと、「この中に!?」と、水田が驚いて言う。

「はい。今からこの事件がどう起きたかについてお話しするんですが、()ではなく、()()がお話します」

 片桐はそう言うと、三人は白石を見る。

 それから、「どうぞ」と、片桐が白石に促す。

 はいと白石が返事をし、おもむろに口を開いた。

「ま、ま、まず、お、お、お断りをし、し、しますと、ぼ、ぼ、僕はき、き、吃音症(きつおんしょう)です。お聴き、ぐ、ぐ、苦しいかもし、し、しれませんが、ど、ど、どうぞす、す、少しのあ、あ、間、お、お、お付き合いく、く、下さい」

 白石は、どもりながらそう前置きをして話しを進める。

 秘書の清水ら三人は頷きながら白石の話を聞こうとする。

「ま、ま、まず、こ、こ、この事件をぼ、ぼ、僕たちは、さ、さ、最初、み、み、密室じ、じ、事件だとお、お、思ってい、い、いました。け、け、けれど、じ、じ、実際はそ、そ、そうじゃな、な、なかった!」

 三人は黙って白石の話を聞く。

「そ、そ、それは、しゃ、しゃ、社長で、で、デスクのし、し、下にあ、あ、ありました。と、と、扉がです」

「扉!?」と、清水が驚く。「うそ!?」

「ほ、ほ、本当です。そ、そ、そこをし、し、調べれば、す、す、すぐにみ、み、見つけられます。そ、そ、そのし、し、下はか、か、階段にな、な、なってい、い、いました。ご、ご、五階からさ、さ、三階までお、お、降りられるよ、よ、ようにな、な、なってい、い、いました」

「社長室に、そんな仕掛けが……」

 副社長の水田が呟くように言う。

「はい。お、お、おそらくは、は、犯人はそ、そ、そのも、も、もうひ、ひ、一つのと、と、扉からで、で、出入りし、し、したとか、か、考えられます」

 白石がそう言うと、「どうしてです?」と、秘書の清水が訊いた。

「そ、そ、それは、か、か、階段にしゃ、しゃ、社長室のか、か、鍵があ、あ、あったんです」

「え? それってもしかして、無くなっていた社長の鍵ですか?」と、清水が目を丸くする。

「そ、そ、そうです」と、白石は答える。「い、い、今、か、か、鑑識にそ、そ、そのか、か、鍵をま、ま、回してい、い、いると、と、ところです」

 それから、「そうなんです」と、片桐が横から口を挟む。「指紋を今、鑑定しているところで……もしその鍵に指紋が残っていれば、犯人はどなたかすぐに分かるでしょう」

 片桐がそう言うと、「はあ、なるほど」と、清水が頷く。

「はい。あ、あ、あとも、も、もう一つ」と、白石は話を続ける。「か、か、階段にこ、こ、紺色のハ、ハ、ハンカチもお、お、落ちてい、い、いました」

「ハンカチが?」と、水田が訊き返す。

「はい」と、白石は頷く。

「ハンカチって……あ! もしかして、木下社長のじゃ?」

 それから、清水が思い出して言った。

「え? 俺の?」と、木下社長が言う。

「だって、こないだハンカチがないとか言っていませんでしたっけ?」

 清水が木下社長にそう言うと、「あー、そんなこと言ったっけ……」と、彼は苦笑いする。

「違いました……?」と、清水が首を傾げる。

「そう言えば、そんなことを言ったような……」

「ハンカチって石原社長から貰ったものじゃないです? 誕生日に?」

 それから、清水が思い出すように言う。

「そう言えば、貰ったと思うけど」と、木下社長は呟く。

「私は社長からピンク色のハンカチを貰いましたよ」と、清水は言う。それから、「水田くんは?」と、彼女が水田にも訊いた。

「僕は水色ですよ。水田だけにね」と、水田は笑って言う。

「俺のは黒だったような……」

 それから、木下が思い出すように言う。

「そうでしたっけ? 石原社長は確か()()()()()()()でしたよ」と、清水は思い出したように言う。

「なるほど」と、片桐が頷く。「それぞれの方が、石原社長から誕生日にハンカチをプレゼントされていたんですね。なんかいいですね」と、彼はにやりと笑って言う。

「そ、そ、そのか、か、鍵やハ、ハ、ハンカチにし、し、し、指紋が残ってい、い、いれば、そ、そ、そのじ、じ、人物がは、は、犯人というわ、わ、訳です」と、白石が言った。

「つ、つ、次に、は、は、犯人がど、ど、どのようにし、し、してしゃ、しゃ、社長をこ、こ、殺したかにつ、つ、ついてです……」

 白石はそう言って、話を続ける。

「じ、じ、事件と、と、当日、は、は、犯人はしゃ、しゃ、社長に、は、は、話があるとい、い、言ってしゃ、しゃ、社長をしゃ、しゃ、社長室へよ、よ、呼んだんです。お、お、おそらくは、は、犯人はしゃ、しゃ、社長室のま、ま、前でま、ま、待っていた。しゃ、しゃ、社長がそ、そ、そこへや、や、やって来て、ふ、ふ、二人はへ、へ、部屋へは、は、入った。は、は、入ってすぐ、しゃ、しゃ、社長をさ、さ、殺害した。そ、そ、それから、は、は、犯人はしゃ、しゃ、社長室のか、か、鍵をう、う、奪い、そ、そ、そのへ、へ、部屋のか、か、鍵をし、し、閉めた。そ、そ、それから、ご、ご、五階からさ、さ、三階のど、ど、どこかへお、お、降りも、も、もう一つのと、と、扉には、は、梯子をか、か、掛けてそ、そ、そこからう、う、上への、の、昇り、しゃ、しゃ、社長室へも、も、戻った。も、も、戻ったり、り、理由はきょ、きょ、凶器のか、か、回収と、と、と、扉につ、つ、ついたじ、じ、自身のし、し、指紋をふ、ふ、拭き取るた、た、ためです。そ、そ、それをし、し、し終えたあ、あ、後、は、は、犯人はも、も、もうい、い、一度、も、も、もうひ、ひ、一つのと、と、扉からお、お、降り、し、し、下へお、お、降りた。し、し、しかしお、お、降りた時に、か、か、鍵とハ、ハ、ハンカチがお、お、落ちてし、し、しまった。は、は、犯人はそ、そ、それにき、き、気付かずにお、お、降りてし、し、しまった。は、は、梯子をも、も、元にも、も、戻してか、か、会社を出た。きょ、きょ、凶器はう、う、裏庭のく、く、草むらにす、す、捨ててそ、そ、そこからは、は、離れてい、い、いった……とい、い、いうのがぼ、ぼ、僕のす、す、推理です」

 白石が話し終わると、清水ら三人はポカンとした顔をしていた。

「それで? 犯人はこの中の誰です?」

 少しして、木下社長が白石に訊いた。

 再び白石が口を開く。

「さ、さ、最初にもい、い、言いましたが、は、は、犯人はと、と特定で、で、できてません。で、で、ですが、こ、こ、紺色のハ、ハ、ハンカチのも、も、持ち主がは、は、犯人かと……」

「そのハンカチを見れば、分かるんじゃないです?」

 それから、水田がそう言った。

「そうだわ」と、清水は頷く。

「そ、そ、それじゃあ……」

 白石はそう言い、「か、か、片桐くん」と、片桐を呼ぶ。

 片桐は白石の方を見る。

「も、も、申し訳ないけれど、そ、そ、そのハ、ハ、ハンカチをは、は、拝借して来てくれないかな?」

 それから、白石がそう片桐にお願いする。

 片桐は一度、渋い顔をしたが、すぐに「分かった」と言って、その部屋を出た。それから、二十分ほどして、彼が戻って来た。

「はい」と、片桐が袋を差し出す。袋の中に紺色のハンカチが入っていた。

「ありがとう」

 白石は片桐にお礼を言って、その袋の中身を取り出す。そのハンカチを三人に見せた。

「あ、これ!」

 と言ったのは清水だった。「木下社長の持っていたものに似ているわ!」

「社長のものですか?」

 それから、水田が木下社長に訊いた。

 木下はそのハンカチをよく見た。それから、彼は口を開いた。

「間違いなくこれは……私の物です」

「ということは?」と、片桐が訊く。

「……そうです。私です」と、木下社長が言った。

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