21
「「別の扉!?」」
白石たちはハモるように驚く。
「はい。あ、でも、扉というより小窓というか……」と、緑川は言う。
「こ、こ、小窓?」と、白石は言う。それから、「も、も、もしかして、あ、あ、あの画のう、う、裏とか?」と、白石は訊く。
「いえ」
「そ、そ、それじゃあ、ほ、ほ、本棚のう、う、裏?」
「いいえ」
それから、白石はタンスの裏やクローゼットの奥などと聞いてみたが、違うと彼女は言う。
「それじゃあ……どこにそんなのあるんです?」
それから、片桐が諦めてそう訊いた。
「床です」と、彼女は答える。
「ゆ、ゆ、床!?」と、白石は驚く。
「床か……」と、片桐は呟く。
「か、か、片桐くん」
それから、白石が片桐を呼ぶ。
「ああ、その小窓というやつを探しに行こうじゃないか!」
片桐はにやりと笑う。うん、と白石は頷く。
それからすぐに片桐は立ち上がり、そこを出て行く。その後、白石も立ち上がり、緑川を見る。
「み、み、緑川さん、ありがとうございます」
白石がそうお礼を言うと、「話ってもう終わりですか?」と、緑川は訊く。
「はい」
「あ、あの……」と、緑川が咄嗟に口を開く。
「は、はい?」と、白石は彼女を見る。
「関係ないかもしれないですけど、社長室のあの絵画の裏に、実は……金庫があるんです!」と、彼女は言った。
「き、き、金庫?」と、白石は驚く。
「ええ。社長から聞いた話ですが、その金庫の中にはルビーやサファイア、ダイヤモンドなどの『星形の宝石』が入っているそうです……」と、緑川は言った。
「す、す、スターですか?」
白石がそう訊くと、「そうみたいです」と、緑川は嬉しそうに言う。
「なんでも、石原社長は星形のものが好きだったんだとか……」と、緑川は言って笑う。
なるほどと、白石は思った。それから、会社名が星を意味する”STAR"と関係あるのかもしれないなとも思った。
「そ、そ、そうなんですか。わ、わ、分かりました。……し、し、失礼します」
それから、白石はそう言って彼女に頭を下げ、すぐにその店を出た。
白石が助手席に乗ると、すぐに片桐は車を走らせる。向かうはS:TARの会社ビルである。
十分ほどして、そこへ着いた。
白石たちはその会社へ入るなり、受付の女性に再度、社長室を見せてもらいたい旨を伝えると、すぐにオーケーしてくれた。
早速、二人はエレベーターで六階へ行く。
六階に着き、白石たちが社長室の方へ歩く。そこに一人の男性がいた。
「あ、刑事さん!」と、彼は二人に気付いて言った。
副社長、いや現社長の木下さんである。
「どうかされましたか?」と、片桐が彼に訊く。
「いや、この部屋をどうしようかなと思ってね……」と、木下は言う。「片づけようにもね……」
つい最近、社長になった木下さん。元社長である石原さんが亡くなり、この社長室もこれからは彼の物になる。しかし、まだ事件の捜査中ということもあり、しばらくは使えない上、片づけたくても片づけられないことで落ち着かないのだという。
「なるほど」と、片桐は頷く。
「ところで、お二人はどうなさったのです?」
それから、木下社長が二人に訊く。
「ああ、えーっと、ちょっとこの部屋をもう一度調べたくて。構いませんか?」
片桐が木下社長にそう訊くと、「ええ、いいですよ」と、彼はにっこり笑って言った。
「ありがとうございます」
彼にお礼を言って、片桐はその部屋の中へ入る。白石も目礼して、中へ入った。
それから、木下社長はすぐにエレベーターの方へ行った。
白石はゴッホのひまわりの画の前に立つ。
「か、か、片桐くん」と、白石が声を掛ける。
「何?」と訊いて、片桐は白石の方を見る。
「ちょ、ちょ、ちょっとみ、み、見て欲しいものがあ、あ、ある」
白石はそう言って、その壁の画を外してみせる。
「おい! 何してるんだよ……って、え?」
白石がその絵画を外すと、その裏にはシルバーの金庫があった。それは壁に埋め込まれていた。
「金庫!? こんなところに!」と、片桐が驚く。
聞いてはいたが、白石も実際にそれを見て驚いた。
「さ、さ、さっき、み、み、緑川さんがい、い、言っていたんだ!」と、白石は言う。
それから、白石は金庫の中身の話をする。
「星型の宝石か……。星は英語でスター……。もしや、会社名と何か関係があるのかね?」
それから、片桐がそう言った。
「た、た、多分。そ、そ、そうかもし、し、しれないね」と、白石は言う。
「ふーん……って、それより俺らが探してるのは小窓だよ! 床って言ってたな……」と、片桐が思い出すように言った。
「うん」と、白石は頷く。すぐに白石はその画を元へ戻した。
社長室の床には、黒と白のパズル型のカーペットが敷かれている。
「このカーペットの下だな」
「ぜ、ぜ、全部め、め、めくってみよう」
それから、白石たちは二人で手分けをして、そのパズルカーペットを一枚ずつ剥がしていく。しかし、すぐに緑川の言っていた「小窓」らしきものは見つからなかった。
その後も二人はどんどんとめくっていった。
「おい、あったぞ!!」
社長室の椅子の辺りにいた片桐が大声で言う。
「え? ほ、ほ、本当かい?」
白石はそう言って立ち上がり、片桐の所へ行く。椅子辺りのカーペットの下に、床下収納のような扉があった。
「ほ、ほ、本当だ!」
「開けるぞ!」
そう言って、片桐がその扉を開ける。
「え!?」
片桐はその下を見て驚いた。
その下には階段があった。
「か、か、階段!!」と、白石もビックリする。
「だな。ちょっと降りてみよう」
片桐はそう言うと、すぐにその階段を降り始める。
「え、あ、ちょっと……」
困惑しながらも片桐に続くように白石もその階段を降りる。白石が降りると、片桐が一度、立ち止まった。
「ど、ど、どうしたの?」と、白石は訊く。
「足元に、また小窓のようなものがあるんだ!」
「こ、こ、小窓?」
下を見ると、確かに「小窓」があった。「ほ、ほ、本当だ!」
その先にも階段は続いている。
「もう少し降りてみよう」
それから、片桐はそう言って、再び階段を降り始めた。白石もその後に続く。
「あれ? 何だろう?」
少しして、その階段に片桐が何かを見つけたらしい。「鍵だ!」と、彼は目を丸くして言う。
「か、か、鍵?」
白石は彼に近づいてそれを見る。確かにそれは、「鍵」のようであった。
「こ、こ、これって……」
「社長室の鍵じゃないか?」
片桐はにやりと笑う。それから、白石もそうだろうと思い、頷く。
「で、で、でも、ど、ど、どうしてこ、こ、こんなと、と、ところに?」
白石がそう言うと、おそらくと片桐が言う。
「犯人が落としたんだ!」
「そ、そ、そうか!」
「指紋が残っているかもしれない」と、片桐は言う。
「ああ……。で、で、でも、ふ、ふ、拭き取ったってこ、こ、ことは?」と、白石は言う。
「その可能性もあるな……。残ってたら、ラッキーだけど」
その後も、二人はその階段を降りる。しばらくすると、その階段も終わり、再び小窓が見えた。
「階段は、ここで終わりみたいだな……」と、片桐は言う。
「こ、こ、ここにもこ、こ、小窓があるね」
「そうだね。ここから下へ降りられるかな」
それから、片桐はそう言って、その小窓を開ける。その小窓が開き、そこから外へ出られそうだった。
「よし、ここから降りよう!」と、片桐はにやりと笑って言う。
「え?」
白石は困惑したが、すぐに片桐はその小窓からその下のフロアへ飛び降りた。
「白石、降りてこい!」
それから、片桐が白石に言う。
「え? こ、こ、こわいよ」
白石はその下へ降りるのを躊躇する。梯子か何かがあればいいのだが。
「大丈夫だよ! 平気だから降りてこい!」
彼は大声でそう言った。
白石は少し怖かったが、意を決し、そこから飛び降りた。降りてすぐ白石はそのフロアの床に尻餅をつく。
「痛たたた……」
少し痛かった。「は、は、梯子か何かないのかな……」それから、白石は呟くように言う。
「そんなの置いてないだろう」と、片桐は言う。
「そ、そ、そうかなぁ。そ、そ、それじゃあ、こ、こ、ここからは、ど、ど、どうやっては、は、入るんだい?」
白石がそう訊くと、「あ、そっか!」と、片桐は思い出したように言う。
「ど、ど、どこかにあるよ、き、き、きっと」と、白石は言う。
「そうだな。それよりさ、白石。それ、なんだ? その手に持っているのは?」
それから、片桐が白石を見て訊いた。
「ハ、ハ、ハンカチだよ。こ、こ、紺色の」
白石はそのハンカチを見せながら言う。
「それ、どこにあったんだ?」と、片桐が訊く。
「か、か、階段でひ、ひ、拾ったんだ」と、白石は言う。
「ほう。それも、犯人が落としたものかな?」
「そ、そ、そのか、か、可能性はあ、あ、あるね」
白石はにやりと笑う。
「それも指紋を確認しよう」
それから片桐はそう言って、ポケットからスマホを取り出し、鑑識に連絡する。
「さて、一旦、署に戻ろう」と、片桐が言う。
白石は頷いた。
「と、と、ところで、こ、こ、ここは何階なのかな?」
ふと、白石がそう言った。
「さあ?」と、片桐が首を傾げる。
それからちょうどそのフロアに若い男性社員が通りかかったので、片桐はその男性に訊いた。
「三階だって」と、片桐は言う。




