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 その喫茶店を出て、白石たちは車に戻った。

「これで一応全員から話は聞けた訳だな」と、片桐は言う。

「そ、そ、そうだね」と、白石は頷く。

「犯人は、この六人の中の誰かで間違いないだろうな」

「そ、そ、そうだと思う」

「誰が犯人だと思う?」

 それから、片桐がそう訊いた。

「うーん……」と、白石が黙って考える。しかし、まだ誰が犯人か見当が付いていなかった。

「ま、ま、まだわ、わ、分からないよ」

 白石が正直にそう言うと、「まだ?」と、片桐が訊き返した。

「う、うん」

「どうして?」

「だ、だ、だって、ま、ま、まだ、み、み、密室のな、な、謎がと、と、解けてな、な、ないからさ……」と、白石は言う。

「あー、あの密室な……」と、片桐は考える。それから、「本当は密室じゃなかった、とかだったりな」と、彼は言って笑う。

「い、い、いや。き、き、君もみ、み、見ただろ? あ、あ、あのへ、へ、部屋はみ、み、密室だったよ」と、白石は言う。

「だよなあ……。清水さんじゃないとしたら、別人か?」

「そ、そ、そのか、か、可能性はある」

「会社関係者で言うなら、副社長の木下さんと社員の水田さんの二人になる。……って、もしかして、本当は清水さんじゃなくて()()()()だったんじゃ?」

「み、み、水田さんが?」

「そう!」

「ど、ど、どうして?」

 白石がそう訊くと、片桐が話し始めた。

「水田さんと秘書の清水さんは、付き合ってるって言ったね。実は、()()()()()()()()()()()()()()()()んだよ! それで、ある時、水田さんがそれに気付いた。さらに、水田さんは社長に愛人がいることにも気付いた! 清水さんと付き合っていた水田さんは、社長を殺したいほどの恨みを持つようになった。そこで、社長殺しについて考えた。思いついたのが、この前、俺が思いついたトリックだ!」

「く、く、クローゼットにか、か、隠れてたってや、や、やつだね」と、白石は言う。

「そう。どうだ?」

「で、で、でも、じ、じ、事件前夜、み、み、水田さんはしゃ、しゃ、社長とし、し、清水さんとい、い、一緒にの、の、飲んでい、い、いたよね? そ、そ、それに、そ、そ、その後、ふ、ふ、副社長さんによ、よ、呼ばれて、しゃ、しゃ、社長はせ、せ、席をは、は、離れたって……」

「そうだな」

「ど、ど、どうやって、み、み、水田さんはしゃ、しゃ、社長をよ、よ、呼び出したんだ?」

 白石がそう訊くと、「おそらく」と、片桐は言って話を続ける。

()()()()()()()()()だ」

「わ、わ、別れた後?」

「そう。水田さんはその後、会社に戻ったんだ。午後十時頃。会社には、社長と副社長がいて、二人は仕事のトラブルの対処をしていた。彼はそれが終わるのを待っていたんだ。いや、トラブルの対処中にメールでも送ったんだろう。『お話があります。社長室で待ってます』とか書いてな」

「ほう。で、で、でも、み、み、水田さんはしゃ、しゃ、社長室へはど、ど、どうやっては、は、入ったの? か、か、鍵はも、も、持ってい、い、いないでしょ?」と、白石は訊く。

「それは、()()()()()()()()()んだ!」と、片桐はにやりと笑って言う。「社長が席を外した後でね」

「ああ、そ、そ、そうか!」と、白石は合点する。

「そう。だから、入ることは出来た。そして、トラブルを対処し終えた社長は社長室へ行った。けれど、そこに水田さんの姿がない。さらに、扉の鍵が開いていたんだよ。不思議に思った社長は中へ入った。そしたら……」

 片桐はそう言った後、一度話を止めた。

「そ、そ、そしたら?」と、白石は訊き返す。

 ややあって、片桐は口を開く。

「後は……前に話した通りだ」と、片桐は言った。

 彼の言いたいことはおそらくこうだろう。水田さんはクローゼットから出てきて、社長を殺害した、と。

「な、な、なるほど……」と、白石は頷く。

 確かにその通りかもしれないと白石は思った。

 けれど、白石は何か引っかかっていた。

 本当にこんな単純なトリックなのだろうか。何か見逃していないだろうか。

 犯人は、水田さんで間違いないのだろうか。石原社長と清水さんは本当に恋愛関係にあったのか。片桐の憶測に過ぎないのではないか。だとしたら、別人か。一体、誰が犯人なのか。

 考えれば、考えるほど白石は混乱した。

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