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「え!?」
若生のその一言に、片桐はビックリする。
「ほ、ほ、本当ですか!?」
白石も目を丸くする。
「話によると、そうらしい」と、若生は言った。
「それって、誰から聞いたんです?」と、片桐が訊く。
「誰って、彼女からだよ」と、若生は答える。
「緑川さんですか?」
「そう」
それから、白石は二人の顔を思い出す。確かに二人の雰囲気は似ているなと思っていた。
「言われてみれば……」と、片桐が呟くように言う。
「ふ、ふ、雰囲気はに、に、似てる」と、白石も言った。
「だよね。それは俺も思った」
それから、若生が笑って言う。
「ああ、そうそう」
若生はまた何かを思い出したらしく口を開く。「この間、たまたま俺と素生で一緒に彼女のお店に行った時、その彼がいたんだよ」
「木下さんがですか?」と、片桐が訊く。
「そう。で、彼は一人で飲んでいたんだよ。その時、優花ちゃんと二人で楽しそうにお喋りしてたから仲良いなと思ってね。俺達がそこへ来た後、彼はすぐに帰っちゃったんだよ。彼が帰った後に、俺が優花ちゃんに話を聞いたら、『お兄ちゃん、なんです』って」
「なるほど」と、片桐は頷く。
「で、で、でも」
それから、白石が口を開く。「みょ、みょ、苗字が、ち、ち、違いませんか?」
「聞いた話によると、彼女、結婚して苗字が『緑川』になったんだとか……」
若生は思い出すように言う。
「そ、そ、そうでしたか」と、白石は頷く。
「結婚していたのに、素生さんと愛人関係にあったってことか……」
それから、片桐が呟くように言う。
「そうみたい。それも、可笑しな話だよな……」
若生はそう言って笑う。
「あれ? 素生さんは、そのことをご存知だったんでしょうか?」
それから、片桐がそう言った。
「知っていたとは思うよ」と、若生は言う。
「それじゃあ、緑川さんと副社長の木下さんがご兄妹だったってことは?」
「さあ……?」と、若生は首を傾げる。それから、若生さんは腕時計を見た。
「あ、もうこんな時間! 会社に戻らないと!」
若生さんはそう言って、立ち上がる。白石も腕時計を見ると、午後七時半であった。
「刑事さんたち、すみませんが、この辺で失礼させて頂いて……」
「ああ、こちらこそ貴重なお時間をどうもありがとうございます」
片桐はそう言って、ペコリと頭を下げる。白石もその後に頭を下げた。
「あ、そうだ」
それから、若生がポケットから名刺を取り出す。
「もし、また何か話があれば、この名刺の番号に連絡して」と彼は言って、片桐に名刺を差し出した。
「ありがとうございます。分かりました」
片桐はそう言って、若生から名刺を受け取る。
「それじゃあ」と若生は手を挙げて、その喫茶店を出て行った。




