表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/25

15

 それから、片桐がS:TARの会社に電話を掛けた。

「石原社長の自宅は、天王町(てんのうちょう)駅の近くらしい」

 電話を終えた片桐がそう言った。

「て、て、天王町か」と、白石は言う。

「行くんだな?」

 片桐がそう訊くと、白石は頷く。

「分かった」

 片桐はそう言うと、車を発進させた。彼は車を天王町駅へと走らせる。駅へ着き、そこから五分程車を走らせたところに、石原社長の自宅があった。

「ここだな」

 表札を見て、片桐が言う。石原社長の自宅はこぢんまりとした一軒家であった。

 白石も頷く。それから、片桐がインターフォンを鳴らす。少しして、「はい」と、女性の声がした。

「警察です。石原素生さんの奥様はいらっしゃいますか?」

 片桐がそう言うと、ややあって玄関の扉が開いた。

 出てきたのは、一人の男性だった。四十代くらいの眼鏡の男性である。

「何です?」と、彼が訊いた。

「私、警視庁捜査一課の片桐と申します」

 片桐が名乗った後、「こちら同じく白石です」と、彼は白石を紹介する。白石は彼にペコリと頭を下げる。

「警察が何の用だ?」と、その男が訊く。

「奥様は今、いらっしゃいますか?」と、片桐がその男に訊いた。

「奥様って、礼子(あやこ)さんのことかい? 素生のところの?」

「ええ、そうです」

「中にいるけど……」

「けど?」

「あ、いや……。立ち話もなんだし、まあ、入ってよ」

 男は言って、片桐たちを中へ入れる。

「おーい、礼子さん! 警察の人が二人も!」

 それから、その男が中にいる石原社長の奥さんに声を掛けた。

「はいはーい」と言って、黒髪のミディアムヘアの女性が玄関の方へやって来た。それから、彼女は「こんにちは」と二人に挨拶する。

「石原素生さんの奥様で宜しいですか?」と、片桐が彼女に訊く。

「はい、妻の礼子です」と、彼女はお辞儀をする。

「えーっと、こちらは?」

 それから、片桐が隣にいる男性について彼女に訊く。

「あー、こちらは主人のお兄さんの若生(わかお)さんです」と、彼女が笑顔で説明する。

「すみません、申し遅れました。石原若生です」と、その男性が名乗った。

「あ、あの!」

 それから、片桐が思い出すように言う。すぐに白石も思い出す。先程、緑川優花から聞いた話に出てきた人物であった。

「あの?」と、若生が怪訝な顔をする。

「あ、いえ、こちらの話です」

 片桐はそう言うと、「はあ」と、若生が頷く。

「あ、刑事さん。こちらへどうぞ」

 それから、礼子が二人をリビングへと案内する。

「こちらにお掛け下さい」と、彼女はダイニングの椅子に二人を勧める。それから、「あ、今、お茶を出しますね」と、彼女は言う。

「いえ、お構いなく」

 片桐は手を挙げて言う。

 礼子はすぐにキッチンへ行き、テキパキとお茶の用意をする。それから、「お待たせしました」と言って、彼女は二人の前に紅茶を出した。

「ありがとうございます」と、片桐はお礼をする。白石もお辞儀をする。

「それで? お話というのは?」

 礼子が二人の前の椅子に腰を掛けて訊いた。

「御主人が何者かに殺害された事件についてです」と、片桐は口を開く。それから、「事件のあった前日、奥様はどちらで何をされていましたか?」と、彼は訊いた。

「私? 私はこの家にいましたよ」と、彼女は答える。

「ご自宅に?」

「ええ。その日は平日ですから子どもたちは学校がありましたので、朝、二人の子を起こしてから朝食を食べさせて、二人が学校に行った後、洗濯や掃除なんかの家事をしておりました」

 彼女は話を続ける。

「それから、お昼はお家でご飯を済ませて、その後一時間程、本を読んでいました。それから、午後、近所のスーパーへ買い物に行って、帰って来てから少し仮眠を取りました。三十分くらいですかね。そしたら、ちょうど娘が帰って来て、十分後に息子も帰ってきました。ちょうど三時頃です。二人におやつを出して、それから私は夜ご飯の準備をしました。夕飯を食べたのは、夜七時頃でした。ご飯を食べた後、お風呂をやって、子どもたちをお風呂に入らせました。二人が入った後、私もお風呂に入って、出てから洗い物をして……。そうそう、二人の宿題を見ました。それから、子どもたちを寝かせて、その後、私はテレビを観ながら主人が帰って来るのを待ってました。けど……」

 彼女はそう言って黙ってしまう。

「結局、その日は帰ってこなかったんですね……」

 片桐が呟くように言う。

「ええ……」と、礼子は落胆したように言う。

「なるほど……」

「つ、つ、つまり」

 それから、白石が口を開いた。「お、お、奥様は、そ、そ、その日、か、か、買い物以外に、そ、そ、外へで、で、出てないというこ、こ、ことですね?」

「はい、そうです」と、礼子は頷く。

「因みに何ですけど」と、片桐が言う。「奥さんは、ご主人の素生さんを憎んでいた……ということはありませんか?」

「憎む? 主人を?」

 礼子は呆れたように言う。「そんなことないわよ」

「そうですか……。それじゃあ、()()()()()()()?」と、片桐がにやりと笑って訊く。

「え? ……愛人!?」

 礼子は目を丸くして言う。「あの人に()()なんていたんですか!?」

 それから、彼女は驚いて言った。

「もし、もし愛人がいたとしたら?」

 片桐がそう訊くと、「そんなの憎むに決まってるでしょ! だって、悔しいじゃない!!」と、礼子は大声で言う。

「そうですか……実は」と、片桐は口を開く。「御主人には、愛人がいらしたそうです」

 片桐は声を潜めて言った。

「え? うそ……」

 礼子は落胆した声で言う。「本当ですか?」

「本当です」と、片桐は彼女の目を真剣に見て言った。

「そんな……」

「初めてお知りになりましたか?」

 片桐がそう訊くと、「ええ……、今知ったわ」と、彼女は言った。

「そうですか……。てっきり、奥様は御存じなのかと……」

 それから、片桐がそう言うと、「え? どうして?」と、彼女が訊く。

 すぐに片桐が口を開く。

「いや、我々の推理ですけどね……。奥様が『愛人』について知っていて、彼女のことを憎いと思っていたんじゃないかって思ったんです。だから、あなたは()()()()()()と思った。が、あなたは待てよと踏みとどまった。『愛人』ではなく、『ご主人』を殺害してしまえば、二人がくっつくこともなくなるし、二人の関係も経つことが出来る! だから、ご主人を殺害したのではないかと……」

 片桐がそう話した後、奥さんが彼を見て口を開いた。

「……馬鹿じゃないの!? 私は主人を愛していたのよ! なのに主人を殺す? そんな訳ないでしょ!! それに、愛人の話は今さっき聞いたばかりよ。だから、愛人のことが気になって殺したなんて話はおかしいの! もしよ、もしわたしがもっと前に愛人がいたことを知っていたなら、『主人』じゃなくて、その『愛人』を殺していたわ!!」

 奥さんは喚くように言った。

 彼女の言うことは、その通りだなと白石は思った。

「そうですか……」

 それから、片桐が口を開いた。「すみません。どうやらこちらの勘違いだったようです……」と、片桐は謝る。

「もう帰ってください!」

 それから、奥さんがテーブルを叩いて言った。

「ちょ、ちょっと礼子さん!」

 礼子の隣に座る若生が慌てて言う。

「す、す、すみません」

 白石も謝り、椅子から立ち上がる。「し、し、失礼しました」

 そう言って、白石はリビングから出る。その後、すぐに「失礼しました」と片桐も言って、その家を出て行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ