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電子部品メーカーのS:TARの会社社長が何者かに殺害された。
第一発見者の秘書の女性の話によれば、社長は社長室で殺害され、部屋には鍵が掛かっていたと言う。いわゆる「密室」の社長室で起きた殺人事件。
この事件に挑むのは、吃音症の刑事・白石澄人とお喋りだがアホな刑事・片桐真慈である!
対照的な二人の刑事たち。
二人は無事にこの事件を解決できるのか?
「一昨日、横浜市保土ヶ谷区の女性宅に窃盗が入った事件の犯人が捕まった。犯人は二十五歳の無職の男だった。今月に入って窃盗事件は四件。その四件とも同じ奴の仕業らしい……」
その日、警視総監の和田が朝礼でそう話をする。
白石澄人は、彼の話を真剣に聞いていた。
一か月ほど前から当たっていた事件の話である。犯人は高齢女性の家を片っ端から狙っていたのだ。無事に捕まったのかと、白石はホッとする。
「二十五の無職か……」
隣に座っている片桐真慈が呟くように言った。白石の同僚である。
「お、お、お金にこ、こ、困っていたんじゃ、じゃ、じゃないかな?」
白石がどもりながら言うと、「若気の至りってやつじゃないか?」と、片桐はあくびをしながら言う。
「若気の至り」とは少々違うのではないかと白石は思った。
それから、朝礼が終わり、各々がそれぞれの部署へ移動する。
正午になり、白石たちは食堂でお昼を食べることにした。
「いらっしゃい。今日は何にする?」
食堂のおばちゃんが笑顔で白石に訊く。
「か、か、か……」
白石は注文をする時、どもってしまう。
「唐揚げ定食? それとも、かつ丼?」と、おばちゃんが助け舟を出してくれる。
「か、か、唐揚げて、て、定食で……」
ようやく白石はその言葉が出た。
それから、「唐揚げね!」と、おばちゃんが笑顔で対応してくれる。
「いらっしゃい」
その後、おばちゃんは後ろにいる片桐に声を掛ける。
「カツカレー、大盛りで」と、彼は淀みなく答える。
「はいよー」と、おばちゃんは返事する。
それから数分して、「はい、お待たせ。唐揚げ定食とカツカレー大盛りね」とおばちゃんは言って、二人分の料理を提供してくれた。
「どうも」と片桐は言って、空いている席を探す。白石もその後に続いた。
「いただきます」と片桐は手を合わせて、早速、カツカレーを一口食べる。
「うん、うまい」と、彼はにこりと笑う。
白石もその後に手を合わせ、唐揚げを一口頬張る。
「おいしい」
その唐揚げは衣がサクサクしていて、お肉はジューシーだった。さらに、ニンニクや醤油の風味も感じられてとても美味しい。警察署の食堂とはいえ、お店レベルのクオリティーだなと思い、白石は嬉しくなる。
「……しかし、最近は窃盗事件ばっかだよな」
ふと、カツカレーを食べながら片桐が口を開いた。
「そ、そ、そうだね」と、白石は頷く。
「なんかさ、もっとワクワクするような事件はないのかな?」
それから、片桐がそう言った。
「わ、わ、ワクワク?」
「そう。なんかこう……例えば、とある館で連続殺人が起きたとか、事件は密室で起きたみたいな?」
彼の発言に白石は思わず目を丸くする。
「そ、そ、そんなの、しょ、しょ、小説みたいじゃないか!」と、白石は言う。
「あ、そうそう。まさに小説みたいな事件と言うかね」と、片桐はにやりと笑って言う。
「いやいや、そ、そ、そんなじ、じ、事件が、と、と、当然、お、お、起きるはずないって」
白石は彼を心配するように言う。
「えー、そうかな? そんなんつまらないじゃないか……一刑事としてさ。ぶっちゃけそういう事件に関与してみたいって俺は思うんだよ……」と、片桐は真面目に言う。それから、「それに関して、白石、お前はどう思う?」と、彼は訊く。
「ぼ、ぼ、僕は」と、白石は考える。それから、「ふ、ふ、普通のじ、じ、事件で、じゅ、じゅ、十分満足」と白石は答えた。
「そうかい」
片桐はそう言い、黙々とカツカレーを食べた。
白石も唐揚げ定食を食べる。