9. これにて成敗、ですわ!
書きたいことが書けている幸せ…!
「――――この紋章が目に入らぬか!」
私が儀式剣を天高く掲げると、剣身に刻まれた三つ葉葵の紋章が白く輝きだす。
その場の空気が一変し、誰もが息をのむ。
「あ、あれは王家の三つ葉葵……!!」
「もしやあの女、王女の――」
男たちが動揺の声を上げる最中
「――――――――鎮まれ!!」
カクペルが声を張る。
その鋭い一喝に、場の全員がびくりと肩を震わせた。
「こちらにおわす御方をどなたと心得る! 畏れ多くも次代の女王陛下、ルキエラ・ミシェル・マリア・イエローゲート殿下にあらせられるぞ!」
「……お嬢が、あのルキエラ王女……?」
ルスケンがぽつりと声を漏らす。
「一同、殿下の御前である――頭が高い! 控えおろう!」
「は、はは~っ!」
私の前に、ヨナランとその使用人、貸金業者たち、そしてルスケンが跪いた。
「――――そこな男よ、名は?」
私は貸金業者のリーダー格の男に声をかける。
「は、はっ。クローザー・ストリートのサミュエル・ケジントンと申します」
「ケジントン、貴公の悪行、私の耳にも届いております。闇金を営み、有力者の弱みを握って組織的犯罪を行う、ウェスマウンソーの癌であると……さらには交渉が決裂した相手に銃を向け、口封じを図るなど卑怯千万ですわ!」
「し、しかしそれは……」
「お黙りなさい! 貴公らの悪事、私がしかと見届けました。あとは当局の判断を待ちなさい」
「~ッ、はは……っ!」
ケジントンが頭を下げたのを見た後、次に私はヨナランのほうを向いた。
「ドクター・ヤコブ・ヨナラン」
「っ、はいっ」
ヨナランは震えながら顔を上げた。
「貴公とは幼少よりの縁……誠に残念でなりませんわ」
「……申し訳、ありません」
「大義のために手を汚し、年若き兄妹を傷つけた。それが、わが王家の栄誉を穢すのみならず、崇高なる医の道、すなわち仁道をも毀損する所業であるとは、理解しているのでしょうね?」
「……承知しております」
「力なき外国人の足元を見、金をむしり取るに留まらず、その手段として自らの患者をあえて命の危険にさらすなど……! その思惑はなんであれ、残忍酷薄であることに変わりはありませんわ!」
「おっしゃる通りでございます……!」
ヨナランが声を押し殺し涙を流し始める。
「涙を流すほど反省したのならば、次は行動で示しなさい」
私は堂々と宣言する。
「リンデマン兄妹への謝罪と、過剰に受け取った治療費の返還、賠償。そしてマクリナ嬢の治療と社会復帰に全力を尽くすこと。そして、王家の沙汰を待ち、適正な裁きを受けること。よいですわね」
「はは……っ!」
ヨナランはぐっと頭を垂れた。
――――――――そして数十分後。
当局の人間がヨナラン邸に入り、ケジントンらのグループとヨナランは連行されていった。
***
翌日。
私とカクペル、ルスケンはほぼ夜通し当局の取り調べを受け(なお私とカクペルの身元はばれていない。出立前、修道院の方に偽の身分証をつくってもらっていてよかった)、ようやく解放されたのは夜中の3時だった。
ルスケンのほうは大立ち回りを演じたからか、もっと長く取り調べに時間がかかっているようだった。
私とカクペルは30分ほど当局の玄関口で彼を待っていたが、流石に睡魔が限界に来ていたので、「明朝病室に伺う」という書置きをルスケンに渡してもらうよう守衛に頼んでから、近くの空いていた宿に泊まり仮眠をとった。
そして現在、朝の9時。
医療院の面会開始時間ちょうどだ。
私たちはマクリナの部屋の扉をノックし、返答を確認してから入室する。
そこに待っていたのは、すっかり顔色が良くなったマクリナと、こちらにむかって恭しく跪いているルスケンの姿だった。
私は笑いながらフランクに語りかける。
「あらルスケン、どうなさいましたの? そんなあらたまって」
「お嬢、いえ、殿下。この度は私と妹を助けていただき、誠にありがとうございました。……そして、数々の非礼、どうかお許しください」
「王女様……」
私はふたりに視線が合うようにしゃがみ込み、ルスケンとマクリナ、それぞれの肩に手を置いた。
「もう、なんだか寂しいですわ。昨日はあんなに楽しくおしゃべりができましたのに」
「ですが……」
「私、嬉しかったのですよ? 対等に話せる、はじめてのお友達ができたのですもの」
私はルスケンににこりと微笑む。
「だって素敵ではありませんか? 私が貴方を『ルスケン』とあだ名で呼び、貴方が私を『お嬢』と呼んでくださるこの関係。……もしよろしければ、今後ともずっと、そういうお友達でいていただけませんか」
カクペルがルスケンの背を軽く叩く。
「君のその話し方、まったく柄じゃないぞ」
「……!」
ルスケンの頬がほのかに紅潮する。
彼は数秒の思慮のうち、意を決したように口を開いた。
「……ったく、頑張って慣れねえ敬語使ってたのによ」
立ち上がり、照れ隠しで頭をかく。
「そうだな、お前の言う通りだぜカクペル。お嬢にシスターが似合わねえ通り、俺もお行儀よくするなんて似合わねえ」
「マクリナもそう思うだろ?」とルスケンが尋ねると、マクリナは困ったように兄を見上げた。
「お兄ちゃんったら、すぐ調子に乗るんだから……でも、ありがとうございます。ええと――」
「貴女も今まで通り『お姉さん』でいいんですのよ」
「っ、はい、お姉さん! その、私を治してくれたことも、本当にありがとうございました……!!」
「ほほ、どういたしまして。しかし私は病を模倣した呪いを解呪したのみ。本来あなたを侵していた病魔を治したのはドクター・ヨナランで間違いありませんわ」
ヨナランの名を聞き、マクリナが目を伏せた。
私は彼女を諭すように続ける。
「彼はたしかに悪に手を染めましたが……感謝すべきことには感謝を。そして、彼には償いとして貴女への十全なバックアップを命じましたから、たくましくそれを利用してくださいな。貴女が大学に入学すること、私も楽しみにしておりますわ」
「……! はいっ!」
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首都ウェスマウンソーという名前は
ウェス(ト):西
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というわけです




