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4. ティーハウスにて

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 ティーハウスの窓辺。

 運ばれてきた紅茶に私は角砂糖を2つ落とした。

 小さなスプーンでゆっくりとかき混ぜると、琥珀色の液体に白い塊がゆらゆらと消えていく。

 その様子を一通り眺めてから、私はカップに口をつけた。


 「さて、それではこれからの旅程を確認いたしましょう」

 

 テーブルの上には私が持ち出した、羊皮紙でできた大判の地図が広げられている。

 この国、ミトレウス王国全土を描いた地図だ。

 隊商や伝令などが使用するような詳細な情報が記されているそれには、私がかなり前から計画し少しずつ追加していった旅の行程が細かく書き込まれている。


 「まずは街道門を出て、アルヴィゴ街道を一路南へ」

 

 私は指で地図をなぞる。アルヴィゴ街道はウェスマウンソーに続くいくつかの街道のなかでも随一の規模を誇る、いうなればミトレウスの大動脈である。


 「目指すは街道の終着地、南海の港湾都市・コトソールですわ」


 トントン、と海に面した大都市に指を止めた。

 ウェスマウンソーからはかなりの距離がある都市だ。

 私の体力や立ち寄りたい場所、一つの場所にとどまっているであろう時間を考慮した結果、私の計算上コトソールに到着するまでには3か月ほどかかる予定である。


 「コトソールは我が国の重要な交易拠点。国内外の人、モノ、情報が集積する土地でございますね。旅の本懐を考えれば、よい目的地であるかと」


 「でしょう? それに街道沿いには多くの宿場町がありますから旅慣れしていない私でも比較的無理なく歩みを進めることができるでしょうし」


 コトソールへの旅路の途中にある、街道から枝分かれした細い道から続く小規模な町や村々にも指をさしていく。


 「余裕があれば周辺の町村にも足を延ばし、様々な場所の民の暮らしを見たいですわ」


 紅茶の湯気が立ち上る中、私は地図を見つめながら旅への期待を膨らませた。


 綺麗な花畑が有名な村、この国一番の大学領、海外領からの移民が多く暮らす新興都市……ああ、行ってみたい場所が多すぎますわ!


 私がきゃいきゃいと地図を見ながらはしゃいでいると、ティーハウスの給仕さんもお仕事の合間に近づいてきて、ここが故郷であるとか、どこどこの特産品がおいしいだとかなどのお話をしてくれた。


 給仕さんが仕事に戻った時、こんなにはしゃいでいたらそろそろカクペルに怒られてしまうかしらと、ちらりと彼のほうを見た。

 

 しかし彼はどこか心ここにあらずという感じで、ぼーっと窓の外を眺めている。


 「……カクペル? 体調がすぐれませんか?」

 「あ、ああ。いえ、失礼いたしました。……少し、考え事をしておりました」

 「考え事?」

 

 カクペルが思考に耽って人の話を、それも主君たる私の話を聞かないなんて。

 彼は少しためらう素振りを見せながら、慎重に口を開いた。


 「先ほどの男……ルスク・リンデマンの件なのですが」

 「ルスケンの?」


 カクペルが私に向き直る。

 

 「リンデマンが今この街にいるのは、少々妙ではありませんか?」


 私は軽く首を傾げた。


 「妙? それはどういうことかしら?」


 「ルスク・リンデマンは現在、東方の諸国家が資源をめぐって争う激戦地で活動していると聞いておりました。それがなぜ今、平和なウェスマウンソーに?」


 ルスク・リンデマン――「狂熊の手(グリズリー・ハンズ)」の異名を持つ無双の傭兵。

 彼の名は戦場において伝説とされていた。その場に彼がいれば、戦いの趨勢が変わるとまで言われるほど。 

 戦いに明け暮れる彼が、こんな穏やかな街にいる理由とは?


 「確かに気になりますわね」


 「彼の動きはイレギュラーと言わざるを得ません。ともすれば、首都にはまだ伝わっていない安全上の懸念がどこかで発生しているやも――」

 「カクペルたら、考えすぎですわよ」


 彼の眉間に指をあて、寄ったしわを伸ばすようにぐりぐりする。


 「万が一そうであったとするならば、むしろ私は行かなければなりませんわ」


 そうならば、城の中ではわからない重大事案が今実際にこの王国で発生しているという証左になる。

 王女として、次代の女王として、知らないで過ごしているわけにはいかない。


 「しかしシスター」


 「それに、なにかあれば貴方が守ってくださるでしょう?」


 「……~っ」


 カクペルの頬がかすかに赤くなる。

 

 (それでもカクペルに任せきりなのはよくないですわね。……さきほど暴漢と相対した時、私は、魔法を使おうという発想が出せませんでした)


 父やカクペルを説得するときには自信満々に「私には魔法がある」と豪語してきたのにこの体たらくだ。

 武芸や護身術も一応教え込まれてはいるものの、私に実戦経験はない。

 その結果、いざというときに体がすくんでしまった。


 (私もむしろカクペルを守ることができるほど強くならなければ……!)


 私がそんなことを考えている間に、カクペルは一度咳払いをしてから、ふたたびいつものポーカーフェイスに表情を戻した。


 「各地の状況について、ここで我々が話し合いをしていてもわかることはないでしょう。私としては、各地のことを知る隊商や傭兵ギルド、そしてリンデマン本人に話を聞き、情報を集めることが得策かと存じますが、いかがいたしましょうか」


 「良案ですわ! もとより街道門を出るのは明朝と決めていたのです。もうそろそろ盛り場に人が集まってくる頃合いでしょうから、情報取集にはもってこいですわ!」


 私は残りの紅茶をすべて飲み、思い切り立ち上がった。


 「それでは行きましょう。傭兵ギルドへ!」



少し短めですが、場所移動を考えるとここがきりがいいかなと。

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― 新着の感想 ―
ルスケンがいよいよ‥‥といったところですね! ワクワクします。
とても読みやすく面白かったです。痛快な物語が期待できる始まりで一気に引き込まれました。 伝説の傭兵ルスケンがどういう形でルキエラのお供をするのようになるのか、続きが楽しみです。
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