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9. 騎士団襲撃(上)

 深夜、月明かりの下を静かに歩く。


 私とルスケンは、夜の闇に紛れて騎士団の詰所の手前まで来ていた。



 「ここが、彼らの根城ですわね」


 私は囁くように言い、前方をにらむ。


 詰所の門は固く閉ざされ、見張りの騎士たちが定期的に巡回している。


 「気を抜くなよ。奴らは油断しているといえ、戦い慣れした連中だ」


 私は息をのみ、頷いた。






 ――前夜。


 夕食の後、私たちは部屋に戻り、先刻の出来事について考えていた。


 しばらくの沈黙ののち、私たちは自然に「これからどう動くか」を話し合い始めた。


 「オレたち旅人には関係ないっちゃあ関係ないが……こうして目の当たりにして、みすみす見逃すっていうのも気分が悪ぃ」


 私の向かいのベッドの上段に寝ころぶルスケンが、「バアちゃんには飯の恩があるしな」と続ける。


 「私もこの期に及んで騎士団の威を借りた彼らの横暴を見て見ぬふりすることなどできませんわ」


 私はぎゅっとこぶしを握る。


 「ここで動かなければ、私は王女失格です」


 「んじゃ、決まりだな」


 私はルスケンの言葉を待たず、彼が言おうとするだろう言葉を発する。


 「騎士団にお灸をすえます」


 ルスケンは獣のように歯を見せて笑った。




 一方。私とルスケンが話している間、カクペルはずっと押し黙っていた。


 (……彼は先ほど、『もはや公儀の沙汰は待てない』と言った。しかし……)


 そうは言っても、やはり気後れするのだろうか。


 カクペルはイリヤという因縁の相手とこれ以上関係を持ちたくないと、この横暴を見逃してきたのだ。


 私が彼に視線を投げかけたところ、彼は覚悟を決めたという感じで口を開いた。


 「……巻き込んでしまい、申し訳ないです」


 懸念は外れた。その瞳にもはや怯えはない。


 「この件は、私一人で片を付けます」


 それを聞いて私たちは数秒ぽかんとしてしまった。

 

 しかし


 「――何言ってんだ、水臭えぞ?」


 ルスケンがベッドから飛び降り、カクペルの肩に腕を回す。


 「リンデマン……」


 「これはもうオレたちの問題だ。ここで見逃せるかってんだ」


 「だいたいな」と彼は続ける。


 「お前はずっと水臭ぇんだよ。オレは『ルスケン』ってあだ名で呼べっつってんのに、いつまでも名字呼びしやがって。さみしいぜ」


 「む……」


 「仲間に壁つくんなよな」


 カクペルは数秒考えてから、申し訳なさそうに口を開いた。


 「いいのか……?」


 「あたぼうよ!」


 ルスケンはばしばしとカクペルの背をたたいた。


 「オレはマクリナのことで、お嬢だけじゃなくてお前にも恩を感じてるんだぜ。それに――」


 彼は目を細めニカっと笑う。


 「最高に面白れぇじゃねえか!」


 ルスケンは私のほうを見る。


 「お嬢、オレを旅に誘うときにお前さんは言ったな。『退屈はさせない』と。……ほんとうにそうだったな!」


 「……ええ!」


 私も自信をもって笑みを浮かべる。


 「ここまで来たら、いっそひと暴れして差し上げましょう!」


 私たちの様子を見て、カクペルはただ静かに、うやうやしく頭を下げた。


 




 ――そして現在。


 「行くぞ」


 私たち3人は作戦を立て、二手に分かれて行動していた。


 すなわち私とルスケンで裏から忍び込み、そしてカクペルは単独で動く。彼も今頃行動を開始しているはずだ。


 ルスケンが影に紛れ、単独で見回りをしている見張りへと静かに忍び寄る。


 「! 誰――――」


 見張りは言い終わることもなく、ルスケンのチョークスリーパーによって失神した。


 「たく、ヒヤヒヤしたぜ」


 ルスケンはすかさず見張りの衣類をはぎ取り、着こんでいく。


 「さすがは聖光輪騎士団だ。勘が鋭い――――」


 そしてそのまま、こちらに気づいたもう一人の見張りにも急速に間合いを詰め、アッパーを食らわせて気絶させる。


 「ちょうどいいや、お嬢もこれ着とけ」


 ルスケンに投げ渡された騎士団の衣類をいそいで修道服の上から着つつ、私は感嘆の声を上げる。


 「ルスケン、貴方すごいですわね」


 「オレぁこういうコソコソした動きのほうが得意だよ。徒手だし、武器を持った人間を真っ向から相手するよりかはな」


 「なるほど」


 ルスケンは襲撃の事前準備として、昼間に騎士団の詰め所を斥候してくれてもいた。


 「この部隊に所属しているのは約30名。意外とこじんまりとしてるな。3交代制で、10名が常に街道を警備目的でうろついてる。だから詰所にいるのは20名だ。短期決戦を目指すなら街道の奴らは無視していい」


 ルスケンは気絶している見張りの手足をロープで縛りながら話す。


 「見張りは残り2名。だがそいつらに構う必要はねぇ。オレたちは裏口から詰所に侵入して、隊長室から民間人の強制労働の証拠を奪取する」


 「強制労働……」


 昼間、彼から聞いた報告を思い出す。


 詰所のある騎士団の敷地の奥。そこでは、宿の主人の孫のように騎士団に無理やり連行されてきた民間人が農業や土木作業を強制的に行わされているという。


 「そんな怖い顔すんな」


 ルスケンが私の頭にポンと手を置く。


 「だからオレたちが来たんだろ?」


 「……ええ、そうですわね」


 「それに民間人のほうは今頃カクペルがなんとかしてるはずだ。オレたちも急ぐぞ」


***


 それから先は、騎士たちと鉢合わせることもなくスムーズに進んだ。


 「ねえ、本当にこちらであってますの?」


 建物を我が物顔で歩くルスケンに声をかける。

 私たちは3階建ての建物の階段を上がっていた。

 

 「ボスの部屋ってのは一番上にあるって相場が決まってんだよ」


 「まぁ」


 「冗談だよ冗談! 外から見りゃ、そこにある部屋がどんな性質か、どんな人間が使うもんかはある程度わかるからな」


 そして最上階に到着したとき。私たちはフロアの奥のほうからにぎやかな声を聴いた。


 慎重に近づき、明かりが漏れる部屋――隊長室から聞こえる音を拾う。




 「――卿らも飲め。今日は上等な酒が手に入った」


 「よいのですか隊長? 酒も女も、もし本部にばれたら……」


 「フフフ、ここには誓願だの何だのうるさい奴はおらんのだ。街道警備など、たまの息抜きがなければやってられん。だろう?」


 「ハハハ、左様でございますな」




 「……これが修道士様のやることかね」 


 ルスケンが小声でつぶやく。


 「堕落しきってますわね」


 「これで気持ちよく成敗できるってもんだ。お嬢、準備はいいか?」


 私は頷き、魔法を放つ準備をする。


 そして、ルスケンはドアを蹴破った。

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