表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/23

8. 騎士団、襲来

モヤモヤする展開が続くゥー!


 「夜分遅くに失礼する、ご主人」


 低く、どこか嫌味の混じった声。


 修道服に簡素な鎧を纏った者たち。


 (聖光輪騎士団――!)


 彼らは堂々とした態度で食堂に入り込んできた。


 その中で先頭に立っていた男――銀髪をなでつけ冷たい笑みを浮かべる男が、優雅な所作でカウンターへと歩み寄る。


 「さて、今夜も寄らせてもらったよ」


 「イリヤ・ニコラエヴィチ様……」


 宿の主人の顔が一気に曇る。


 イリヤと呼ばれた男は私たちに目を向けることなく、カウンターに手をついた。


 「ビールを頼む」


 「は、はい……」


 主人はお代をもらうこともなく、急いでビールを騎士たちの人数分、すなわち3杯準備した。


 ビールを一気に飲み干したイリヤは「ふぅ」と満足げに声を漏らしてから、誰に聞かせるでもなくつぶやく。


 「相変わらずここは良い宿屋だ。雰囲気もいいし、何より酒がうまい」


 「ありがとうございます……」


 「このような場所は長く続けてもらわねばなるまいな」


 「諸君らもそう思うだろう?」という言葉に、彼の後ろに控えている騎士二人が「イエス、サー」と返答をする。


 「そのために我々も日夜警護に励んでいる。近年、この近辺の治安は残念ながら悪化の一途をたどっているのでな。しかし……いかんせん、そのためにも金の問題というのはどうしてもついて回ってくるのだ」


 「は、はぁ」


 「そういうわけだ」


 イリヤが主人に手のひらを差し出す。


 「何度も誠に申し訳ないが、警護料を頂きたい」


 その瞬間、主人の手が震えた。


 「……はい」


 主人は小さな袋を取り出し、イリヤに手渡す。

 袋の口からその中身がのぞき見えた。どうやら銀貨が十数枚入っているようだ。


 ルスケンの表情が曇る。


 「みかじめ料ってやつか」


 彼のつぶやきにも気づかず、イリヤは袋を確かめると満足そうに微笑んだ。


 「ご協力感謝する……ところで、そこの旅人さんたちは?」


 ようやくこちらに視線を向けたイリヤの目が、私たちをじっくりとなめるように見た。


 そして、彼の視線がカクペルに止まる。


 「……おや?」


 ニヤリ、と唇が不気味な弧を描く。


 「これはこれは……覚えめでたき我らが同僚(おとうと)、カクペル・エルズワースではないか」


 「…………」


 カクペルは黙ってイリヤを睨んでいる。


 「しかし意外だな、修道服すら纏わず場末の宿屋にいるなど。まさか、クビにでもなったか? それは残念だ。かつての神童、最年少騎士の誉が泣こう」


 挑発するような言葉。


 カクペルは微動だにせず、冷静な声で答えた。


 「卿よ、そのような言は慎め」


 「ほう、まだ己が私の上官であると勘違いをしているか? ――私は昨年、卿と同じ第一級騎士への叙任を受けた」


 「……!」


 信じられない、という顔をするカクペル。

 

 気持ちはわかる。かつて自分を虐げていた人間が栄達の道を歩むなど、考えたくもないことだろう。


 「イリヤ……」


 「イリヤ・ニコラエヴィチだ。卿も北方の人間なら、父称まで含めた名で呼ぶことが敬意を表すと知っているだろう?」


 「……っ」


 年上の同僚には敬意を示せ、ということだろうか。


 「まあ安心しろ。卿が騎士団を去れど、その穴は同僚たる私が完璧に埋めてやる」


 「……私は、暇を出されてなどいない」


 カクペルが絞り出すように声を上げる。


 「私は今、この修道女の護衛をしている」


 「ほう?」


 イリヤの視線が私に向けられる。

 カクペルもまた、私を見ながら言葉を続ける。


 「彼女は殿下のご友人。安全に修道院まで送り届けるよう命を受けている」


 「……殿下?」


 私は笑みを浮かべながら、あえて余裕を見せた。

 私の記憶が正しければ、王女としてこの騎士の前に姿を現したことはない。だから彼は私こそが王女ルキエラであるとは気づいていないはずだ。


 「そういうことですわ。ブラザー・カクペルは、私の身を守るために旅を共にしてくださっていますの」


 「へぇ……」


 イリヤは興味なさそうに、再び宿の主人に視線を戻した。


 「さて、それでは今夜はここでお暇しようか」


 そして、イリヤたちは踵を返し、宿を出て行った。


 扉が閉まる。


 宿の中には静寂が戻った。


 「…………」


 私は宿の主人の顔を見る。


 彼女は震える手でカウンターを吹いていた。


 「……すみませんね、旅人さん。余計なところを見せちまったね」


 「いえ……」


 ルスケンがため息をついた。


 「なあバアちゃん、もしや奴らからずっと金を取られてんのか」


 主人はしばらく黙った後、小さく頷いた。


 「……孫が、いるんだよ。まだ若くてね……あの人たちの作業場に……」


 私たちは顔を見合わせた。


 「まさか、拘束されているのですか?」


 主人が沈黙でもってそれを肯定する。


 「そんな……ひどいですわ」


 「…………騎士団の名を貶める所業だ」


 カクペルの拳が膝の上でぎゅっと握られる。


 「もはや公儀の沙汰など待てません。私が直接彼らの詰め所に赴き――」


 「やめて!」


 主人が悲痛な叫びをあげる。


 「……金さえ払えば、いつかは帰してくれるはずさ」


 「しかし……」


 「だから、お願いだから余計なことはしないでおくれ」


 主人の声は震えていた。


 「…………承知しました」

第一章の金貸しとかこの話のイリヤとかみたいな悪役のムーブを書くのが楽しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ