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05 【精霊の扉】

 さて、宿の裏口から出て、たくさんの人だかりをうまく回避してきたものの、まだまだちらほらこちらの様子を伺っているプレイヤーがいる。

 うわさ話もザワザワ。


 ――あれ、神話級?

 ――初めてみたぞ。

 ――なんであいつが?

 ――あのNPC、めっちゃ可愛くない?

 ――あの、例の?


 そんな風に、周りのプレイヤーがざわめいている。


 それにしても、ここ――【商工都市ローナ】という名前の、ゲームを始めたら最初に降り立つ街だ――の普段の様子からは比べ物にならないくらい、人が多い。

 その多くは、僕と、僕の腰に提げた【絶夢】、そして隣を歩くユメちゃんを観察しているようだ。


 純粋に興味深そうな目、嫉妬のような目。たくさんの視線。


 皆、いまひとつ遠巻きに、様子を伺っているようだ。

 ……なんだろう。ただ物珍しいというだけでなく――どこか、互いを牽制し合うような動きを感じる。

 それはまるで、僕以外の何かを気にしているような……。


「ますたー?」


 ユメちゃんの声。いつの間にか立ち止まっていたようだ。

 振り向いたユメちゃんにそんな感覚もすぐに霧散する。


「どうしたの?」

「……なんでもないよ」

「そう? ……ふふ」


 ユメちゃんはふいに微笑んで――なんと僕の腕に手を回した。


「あええっ!?」

「あんまりボーっとしない! ……んふ」


 おお……、これが世に言う『カノジョ』というやつなのかな?

 年齢イコール彼女ナシときている僕。

 初めての感覚に、嬉しいやら、恥ずかしいやらで赤面してしまう(体内のナノマシンがモニターするヘルスケア情報から類推された感情の動きが、アバターへ反映されるのだ)。


 ……まあ、ユメちゃんはNPCなんだけどね。あはは。


 ちなみに、宿を出るときに一度、目立つのを避けるため、ユメちゃんに『いったん人間化を解除してほしい』と言ったのだが、イヤだとのことことで却下されてしまった。

 ……AIっていっても、なかなか個性があるんだね。


 当のユメちゃんは大変ご満悦な様子なので、まあいいか。

 目が合うと、こちらにニコリと笑いかけてくれる。

 うーん、やっぱりかわいいね。


 さて、周りからは度々、【神話級】というフレーズも耳に入ってくる。

 良く知らなかったのだが、ログインする前に眺めていた攻略サイトの情報によると、どうやら【目利き】という技能を持っていれば、他人が装備しているアイテムの情報を見ることができるらしく、それにより【絶夢】が新しいレアリティであることがばれたのだろうと今は想像している。


 正直、僕のレベルでは、隠れるといったこともままならないだろうと踏んだこともあり、堂々と表通りを歩いてしまうことにしたのだが……(裏通りの方が怖そうだしね)。

 しかし、こちらはこちらでなかなかままならないのは変わらず、じろじろと見られ続ける道中なのであった。


 はぁ、と僕は内心溜め息をついた。


 某掲示板でも話題になっていたし、【神話級】は良いとして、ユメちゃんみたいなNPCもやっぱり珍しいものなのかな?

 昨日のユメちゃんの話によると、『神々により製造され、魂を吹き込まれた、意思を持つ武器』は、人間の姿になれるのだという。

 そんな話であれば、例えば【絶夢】の他にも、『意思を持つ武器』が出回っていそうなものなのだが……。

 もしかすると、実はそんなこともなくて、【絶夢】がその最初の一本なのだろうか?


 様々なことをぐるぐる考えながら進んでいくと、やがて、街の中心にある広場が見えてくる。

 目指すは、その更に中央にある【精霊の扉】だ。


 *


【精霊の扉】とは、主要な町や地点に大抵存在している、システムコマンド【精霊の標セレクタブル・テレポーテーション】を利用することができるオブジェクトのことをいう。


【商工都市ローナ】においては、【精霊の扉】はこの中央広場に存在するのである。


 世界観としては――『精霊』という存在が作り上げた古代の巨大なシステムにより、その機能の一部として【転移】という権能が使える。プレイヤーは、神々の代行者として、各地の主要なポイントに【標】と呼ばれる目印を設置し、既存の【標】と接続することで通路を開通する――ということらしいのだけど……。うん、よくわからないね。


 まあとにかく、開通したポイントへ誰でも自由に転移することが可能となるオブジェクト、ということだ。

 で、これから向かう【塔の地】も、先行したトッププレイヤー達により、既に【標】が設置され、転移可能ポイントとして解放されているのだとか。

 ありがたい限りである。


 広場の真ん中。

 そこに……なんというか、『ミニ神殿』といった(おもむ)きの建屋があって、魔術的な装飾の施された両開きの扉が真ん中に配置されている。


 辺りは賑やかにプレイヤーが往き交っているのだが、眺めていれば、この扉【精霊の扉】を利用する人が大半であることもわかることだろう。今もしっかり数人の待機列ができている。


 さて、数人のプレイヤーが順番待ちをしていたところ、僕たちはその最後尾についた。

 インベントリを眺めながらぼーっと待っていると、ふと最後尾のプレイヤーがこちらを振り向いた。


 そして、振り向くだに「うおっ!?」と言いながら、ぎょっと目を剥くではないか。

 そのまま、そのプレイヤーは、ササッ、と道を空けた。


 ……ええと、どうしたのかな?


 更に前のプレイヤーも、背後でなにがしか起きていることに気づいたようで、やはりこちらを振り向き、「うわ」と声を上げ、どうぞ、というようなジェスチャーをしながら、やはり道を譲ってくれる。


 ……なんだろう?

 避けられているのかな。ちょっと傷つくかも……。


「あ、ありがとうございます……?」


 釈然としない気持ちながら、まあ譲ってくれるみたいなので、その親切(?)に甘えることとする。

 うーん、プレイヤーたちの愛想笑いが意味深だ。


 そう首を捻りつつ、僕たちは扉の前まで来る。

 視界に表示されるウィンドウ。『【精霊の扉】を使用する』を選択すると、いくつかの選択肢が表示される。


 ええと、確か行き先は、『【塔の地】>【柱臨む畔の前線拠点】』と……。


 操作を終えると、自動的に扉が手前に開き、テレポートするための光る境界面が露わになった。

 僕たちはそのまま境界面に足を踏み入れ、【塔の地】へとテレポートする。


 ――システムコマンド【精霊の標セレクタブル・テレポーテーション】を実行しました。


 *


 --------

 0294 名無し

 うわー ユニークNPCだこれ

 最悪……

 [画像]


 0295 名無し

 は?


 0260 名無し

 え?


 0261 名無し

 あ? マジか

 やりやがった


 0262 名無し

 はああああああああ!!!

 このクソ運営!!!!


 0263 名無し

 最悪すぎる

 え てことは自動的に武器もユニークか?


 0264 名無し

 おいおいおいおい

 性懲りもなく……


 0265 名無し

 ええ……

 前回のアレ忘れたんか?


 0266 名無し

 武器もユニークだあー

 称号ついてる 【十傑:参】ってことは、たぶん全部で10本あるっぽい

 [画像] [画像]


 0267 名無し

 おーい おーいよりによって初心者ちゃんやんけ

 まーた引退するぞこれは……


 0268 名無し

 ラッキーマン引退するとどうなるんだっけ?


 0269 名無し

 >>268

 別のNPCお付きに変わる。前回そうなった

 たしか3か月インしないとその判定されるはず


 0270 名無し

 >>269

 サンクス

 まー 初心者にはメンタル勝負だな

 うらやましすぎるからこっちとしては引退して欲しいけども

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