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04 【剣士】

 翌日、再び労働を終えて帰宅した僕。

 コンビニ弁当を急いで胃に詰め込みながら、かたわらで攻略サイトで色々と覗いていた。


 昨日視界を流れていったログが気になったのである。

 なになに?


 『ワールドストーリー』とは、どうやら、このゲームのメインストーリーに相当するもののようだ。現在は、大きく5つほどのストーリーラインが進行していて、どうやら【昏王ヨドの方舟】もそのひとつらしい。しかし、この半年間、どのストーリーもあまり進行する兆しがなかったのだとか。


 そして、エリア【塔の地】。こちらは、昨日、新しく侵入可能となったエリアが発生したということなのだそうだ。サービスインから長らくのこと、マップの西の果ての更に先に、塔が林立する背景グラフィックがあり……どうやらそれが背景グラフィックでなく、実際に行けるエリアだったことが分かったとのこと。


 なかなか、ワクワクする話で、ご飯を食べながら、僕も早くログインしたくなってくる。


 ……と、そんな中で、ふと一抹の悪い思い付きが頭をよぎった。


 もしかして……、と、某大手掲示板のメインのスレッドを開く。

 そして、僕は震え上がった。


 --------

 0578 名無し

 なんだこれ。神話級?

 持ってるの初心者やん

 [画像]


 0579 名無し

 昏王の進展きた


 0580 名無し

 このNPCだれ?

 [画像]


 0581 名無し

 くさ AI生成のフェイク画像でしょ 解散


 0582 名無し

 AI判定通したがマジ画像っぽい。

 てか神話級って伝説越え? 環境変わるやん


 0583 名無し

 昨日全財産で環境装備作ってもうた おわりや

 はー くそげ


 0584 名無し

 こいつだれ?

 レベル32でなんで最高レア持てんの

 てか新NPC? めっちゃ可愛いな

 [画像] [画像] [画像]


 0585 名無し

 漁夫じゃない?


 0586 名無し

 たまたま見てたけどあの子武器から出てきてた

 神話級アイテムの付帯効果かな?

 たぶん固有AIだと思うけど普通に話してたね


 0587 名無し

 ほーん

 やるかーこいつ


 0588 名無し

 誰か捕まえて吐かせて来い

 生死問わない


 0589 名無し

 過激派こわ

 普通にフレなって訊いて来いよ まあ秘匿するならしゃーなしだが


 0590 名無し

 塔の地ヤベェ

 敵ばか強い 難易度おかしいやろ


 0591 名無し

 塔の地の情報はようして

 ダンジョン何個? 最低4個ないと半年もたないぞ

 --------


 予想通り、巷で大いに話題になっているようだ……。

 なんなら、捕まえて拷問じみたことをしかねない雰囲気の輩もちらほらと見える。

 背中に冷たいものが伝う。


 もしかすると、今日はもうログインしない方が良いかもしれない。


「はぁ、どうするかな」


 そう独りごちる。


 しかし、今日もログインするために早く帰って来たのだ。

 昨日せっかくゲームが楽しくなってきたところ、やはりログインしないのも物寂しい。

 悲しきゲーマーの(さが)。僕は今日も視界のVRアプリをタップするのだった。



 さて、ログインしてまず目に付いたのが、メニュー画面「フレンド」欄に表示された恐ろしい数の通知だ。


 数にして156件。

 そのすべてが無言、あるいは情報をくれとのメッセージ付きのものだった。


 掲示板に投稿された視界ショットに、僕のプレイヤー名が映り込んでいたのを思い出す。

 もしかして、その画像のプレイヤー名をたどり、そこからプレイヤーIDを特定したのだろうか?

 この宿屋の一室は個別エリアなので誰もいないのだが、ふと窓から外を見やると、宿の前には恐ろしい数の人だかりができていた。


「すごい人ね~」

「うわっ!?」


 驚いて飛び退(すさ)ると、いつの間にか隣にユメちゃんがいた。

 僕の大きな声に、ユメちゃんもびっくり顔でこちらをしげしげと見つめている。


「……ますたー? もしかして、わたしの顔、忘れちゃった?」


 小首をかしげるユメちゃん。白銀の髪が、サラリと頬に垂れる。

 今日も大変かわいらしい。


 かわいらしい仕草に癒されつつ、僕の跳ね上がった心臓の鼓動 (もちろんシミュレーションなのだが)もだんだんと落ち着いてくる。


「い、いや、ちょっとびっくりしただけだよ」僕は答えて、ふと、一つの疑問が頭をよぎる。「もしかして、ずっとこの部屋にいたの?」


 ユメちゃんは、ぴょんとベッドの上に座り、部屋の片隅に立てかけられた【絶夢】を見やる。


「ますたーが居ない時は、さすがに戻るわよ? さっき、ますたーが戻ってきたから出てきたの」

「そ、そうなんだ……」


 へえ、僕が呼び出しとかしなくても、勝手に出てくるんだ。

 あれ、でも、それって僕がいない間もずっと待っていてくれたということだろうか?

 なんだかいじらしいね。


「そんなことより!」ユメちゃんが言葉を続ける。


「ますたー、今日はどこに行くの? どこか冒険に行くんでしょ? 楽しみ~!」

「ええと、そうだなぁ」


 ユメちゃんのほわほわした笑顔に、なんだか僕までほんわりとした気分になってくる。

 山のようなフレンド申請は……また今度でいいや。


「まずは、いつも通りデイリークエストの消化かなぁ」

「ふんふん?」


 そういえば、昨日はデイリークエスト途中であんなことになったので、疲れてそのままログアウトしてしまい、クエストが全然消化できていなかったのだった。デイリークエストは、初心者向けのわりに経験値がおいしくて……。


 って、そういえば。

 思い当たることがあって、メニュー画面を開く。


「あ、やっぱり!」


 昨日の【黒龍】を倒したことで、どうやら経験値がたくさん入っていて、レベルがいつの間にか32になっていた。


 どうやら、それにより、デイリークエストの内容も、難易度が高くなっている。

 まあ、その分経験値もさらにおいしいんだけどね。

 そして、なんと新エリア【塔の地】で消化できるクエストもいくつかあった。


「今日は【塔の地】に行ってみよっかな~」

「へー、【塔の地】ね! でも、魔物がすっごく手強(てごわ)いかもよ?」

「うーん」


 ユメちゃんが、NPCらしく、警告のようなことを言っている。

 でも、せっかく解放された新エリア。

 もしすぐ倒されちゃうとしても、やっぱり一目は見ておきたいよね。


 それに、昨日飛ばされたフィールドも、フィールド名に『塔』というキーワードが入っていた。

 もしかしたら新エリア【塔の地】にあるフィールドだったのかな? なんて、そんな可能性もあると思ったのだ。今日また【塔の地】に行ってみれば、もしかすると何かわかるかもしれない。


 ちなみに今僕が居るエリアは、最初の町、および王国の主な都市をいくつか含んでいる【風の地】だ。


 このゲームでは、フィールドはいくつかの『エリア』と呼ばれるいくつかの領域に分かれている。

 現在、開拓中となっているのは、【風の地】【雪牢の地】【鉄の地】【霧の地】、そして、昨日解放された【塔の地】。合わせて5つとなる。そして、それ以外の場所はまだプレイヤーが立ち入ったことが無く、地図上でも霧が掛かっていて真っ白なんだ。そして、全部でいくつあるのかもまったく知られていない状態。


 僕はまだ【風の地】にある初心者向けのフィールドしか行ったことがないので、おそらく現状の最高難易度だろう【塔の地】で太刀打ちできるかと言うと、怪しいところがあるわけだが……。


「まあ、ダメ元ってことで」

「はーい! じゃ、準備できたら教えてね」


 ユメちゃんはベッドを飛び降り、部屋に備え付けのドレッサーに近寄って、髪を撫でつけたりし始めた。

 はあ、癒されるなあ。


 さて、僕は僕で、準備の前に、一応ユメちゃんのステータスを覗いてみた(【占有契約】を結び【神たる形代の模倣(イミテーション)】したNPCについては、自分と同じようにステータス画面を確認できるようだ)。どれどれ……。


 レベル: 50

 スタイル: 【剣士(ソードマン)

 右手武具: 【絶夢の残影】

 左手武具: なし

 防具(頭部): なし

 防具(胴部): 【白銀剣士の麗装】 ※腰部兼装

 防具(腕部): 【白銀剣士の手甲】

 防具(腰部): 【白銀剣士の麗装】 ※胴部兼装

 防具(脚部): 【白銀剣士の足甲】

 防具(特殊1): なし

 防具(特殊2): なし

 魔術具(1): なし

 魔術具(2): なし

 ステータス:

   体力: 563

   精神力: 842

 ・・・


 ステータスは、詳細を開いてしまうと数字がたくさんあって把握が大変なので、まずはざっくりとだけ確認しておく。

 ふむふむ、レベルは50。スタイルは【剣士(ソードマン)】と。


 ステータス的には、どうやら彼女は近接系で、主に【技術】が高い数値となっている。

 どちらかと言うと、力というよりは技術で戦うイメージなのかな?

 このゲームは、戦っていくうちに、これまでのプレイに合わせてステータスも勝手に伸びていくシステムなのだが、僕もどちらかというと似たようなステータスだ。……と思ったものの、よく見ると【知識】もけっこう高い数字であることに気が付く。これは、魔術の威力や詠唱速度などに影響するステータスだ。


 少し興味が出てきて、『魔法』の欄を見てみると……。


「おお……?」


 なんだか仰々しい・恐ろしい感じの名前がたくさん羅列されていた。

 例えば【付与(エンチャント):夢幻の残滓】とか、【黒灰の腐食の霧】とか。効果の欄にも細かい文字が沢山書いており……うん、よくわからないや。とりあえず、なんとなくのイメージとしては魔法剣士のような感じかもしれない。ロリータ感のあるかわいらしい見た目からはあまり想像がつかないけど、それもまたギャップがあって良いね。


 ちなみに、『スタイル』というのは職業のようなものである。

剣士(ソードマン)】とは、文字通り、剣を使って、敵に接近して戦うようなイメージだ。

 僕も同じ【剣士(ソードマン)】なので、剣士二人のバディみたいな感じで相性良いかも。なんだかちょっとにやけてしまう。


 レベルは50ということで、僕よりもだいぶ高いのだが……。

【天貫く塔】での敵のレベルが130前後だったこともあって、少し肩透かしと感じるのは……贅沢かな?


「……あ」


 そっか、もしかすると、育成とかもできるのかも……?

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