03 【占有契約】
さて、ボスを倒したからか、システムコマンド【帰還の兆し】も使えるようになり、僕たちは無事に町の宿屋に戻ることができた。
『たち』と言ったのは……。
ええと、帰りの道中に、面白いことがあったのだ。
というのも、なんと、武器【絶夢】が人間になったのだ。
……うん。何をいっているのかわからないね。でも、事実なのだから仕方がない。
【絶夢】を片手に、宿屋に向けてのんびり街中を歩いている僕。
ふと、どこからか声が聞こえるのだ。
「……え、ねえ、ねえってば!!!」
「………」
「わたしを持ってるあなた!!」
「……え、僕?」
どうやら、僕が持っている【絶夢】から声が聞こえている。
その声は、少し幼い女の子の声に聞こえた。
「そう! あなたよ。聞こえてるのね?」
「あ、あぁ、聞こえてるよ。ええと、どなたかな?」
「わたし、あなたが持っている剣【絶夢】よ。でもね、他に名前があるの」
そういって、彼女は『ユメ』と名乗った。
彼女いわく、【絶夢】は、この世界を管理統括する神々の一柱たる【夢幻の使徒ゼヘル】により製造された、意思を持つ武器であるらしい。
……ええと、何をいっているのか全くわからないけどもね。
とにかく、神々により製造され、魂を吹き込まれた意思を持つ武器は、普通の武器とは違い、特殊な能力があるらしい。
その一つが、技能【神たる形代の模倣】である。
平たくいえば、人間の姿になれる。メタ的にいうと、NPCとなり、持ち主とパーティーを組めるようになるのだ(もちろん武器は僕が装備したままで、そのまま使える)。
ただし、意思を持つ武器が技能を使うことができるようになるためには、持ち主と『契約』することが必要なのだそうだ。
ええと、具体的には、レアな【武具】にのみ可能なシステムコマンド【占有契約】を実行することが必要となるらしい。これも要するに、メタ的には、レアアイテムの盗難防止のシステムである。そして、一度実行すると、解除はできなくなるとのこと(レアアイテムなんて初めて持ったから、そんなシステムがあるのを全然知らなかった)。
【絶夢】もとい、ユメちゃんは、そんなことを(いかにもファンタジーっぽい言い回しで)滔々と説明しながら、僕に【占有契約】の締結を迫るのだった。
正直色々聞いて困惑気味だし、一度実行すると解除できないとかで悩みどころだったのだが、ううむ、ここまで推しが強いと、さすがにこちらが折れてしまうね(現実でも女の子から契約の締結を迫られてみたいものだよね。ゲームじゃなければなあ。はあ……)。
まぁ、そんなワケで、宿屋に向かう途中の噴水広場の一角で、僕はユメちゃんと【占有契約】を締結したのだった。
といっても、【絶夢】を選択して出てくるふきだしメニューから【占有契約】を選ぶだけなんだけど。
コマンド実行されると、にわかに剣が光り出し、次の瞬間、僕の目の前に一人の女の子が立っていた。
白銀の髪。白い衣装。
ロリータ風のワンピースだ。肩にケープ。ところどころの金糸の飾り紋章が輝く。
背丈は、僕よりもいくぶん低い。華奢な手足が、スカートの裾から覗いている。
ストレートロングの髪型が包む、整った顔立ち。
髪と同じく、やはり白銀の睫毛が夕日をキラキラ反射して、とても綺麗だ。
形の良い、少し釣り目がちな目に、伏したまぶたの奥の瞳も白銀。それがまるで宝石のよう。
僕は思わず見とれてしまっていた。
「……あ、ええと」
我に返り、取り繕うように口を開く僕に、ユメちゃんはほんわりと微笑んだ。
「契約ありがとう。これからよろしくね、ご主人さま」
その微笑みに、ゲームのNPCだとわかっていつつも……ドキリとしてしまう。
仕方ないよね。この歳だけど、これまで女の子とちゃんと喋ったことも無いんだから。
ふと、気づくと、僕たちの周りに人だかりができている。
――なにあれ?
――NPCだよね?
――初めて見る!
――神話級、ってなんだろう?
そんな声が聞こえだし、わらわらと集まってくる人々。
中には、手をカメラのようにして視界キャプチャを撮っているプレイヤーもいる。
そんなこんなで、僕は急いでユメちゃんを連れ、宿屋に戻ったのだった。
――称号【絶夢の契約者】を入手した。
――称号【十傑:参】を入手した。
――ワールドストーリー【昏王ヨドの方舟】が進行しました。
――エリア【塔の地】が解放されます。
帰りしな、なにやらシステムアナウンスのような大きな音があり、そんなログが視界の端をスイスイっと流れていった。