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25 【隠密】

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0499 名無し

典範が雪牢の地の標維持ボランティア活動から撤退した

終わりだよこのエリアw

今後もう、エリア内転移も無理になる どうすんだこれ……笑


0500 名無し

開拓初期に逆戻りか


0501 名無し

雪牢の地とかいう限界集落……。。。

物好きしかいねえ〜〜〜笑笑


0502 名無し

まあ典範頑張ってたよ

経緯しらんけど、城攻略は諦めるって判断かな


0503 名無し

エリア内転移さえ維持できないのはヤバいだろ笑


0504 名無し

標の維持コスト激重なのがなぁ……


0505 名無し

>504

さすがに維持コスト軽量化のイベントがどっかにあるんだろうけど、ノーヒントすぎてな


0506 名無し

城攻略全盛期は良かったよね 懐かしい


0507 名無し

>501

経験値効率は悪くはないんだがとにかくアクセスが終わってる

あと、ずっと吹雪いてて常に視界最悪なのが本当によくない


0508 名無し

ちょっと趣味エリアすぎる

まぁ城といい遺跡といい、まともなダンジョンがねえのよな

過疎もやむなし


0509 名無し

>499

ええ……エリア内転移不可マジか〜

帰れなくなるんだけど……(・ัω・ั)


0510 名無し

(´・ω・`)はあ~い ぶたのおなりよ〜

(´・ω・`)ここは寒いわね〜

(´・ω・`)………

(´・ω・`)………………さみしいわ……


0511 名無し

景色いいんだけどね 吹雪さえ止めば


0512 名無し

>509

今どこや 一応、失効までは一週間あるから大丈夫ではあるぞ

それまでに帰ってこい


0513 名無し

>512

猶予あるのね ありがとう

今は城いるけど、確かに人減ってきてるよ……(・ัω・ั)

--------



 さて、僕のじとっとした視線に気づかず、すえこさんは無邪気に続ける。


「あの、……ご存じですか? いま、SNSでぴよ右衛門さんの動画が上がってて、有名人になっちゃってますよ」

「あ、そうなんですか……」

「ええ。……始めたばっかりなのに、あんな人たちに絡まれちゃって、ほんとどんまいです!」


 と、眉をひそめて憤慨(ふんがい)するすえこさん。

 その様子には、純粋に、憤りと口惜しさとが見えて、裏がありそうな感じはあんまりしない。


「ええと、一応フォローしたくて。たぶんあの人たち、POの中でも相当ひどい部類ですよ……。ボク、POやって長いですけど、あんなの見たことないですので!」


 あ、この『PO』というのは、【パラドックス・オンライン】の略らしい。

 それで、フォローというのは、たぶん、『POに、セイルさんみたいな人たちは、そう多くないよ』と言いたいのかな~、きっと。


「はあ、そうなんですね……」

「はい。なので、あんまりPO嫌いにならないで欲しくて。……あ、でも、そういう意味だと、ぴよ右衛門さん。あんな事があっても、まだPOやってくれてるんだなって――」


 すえこさんは言葉を切り、しみじみ、といった感じで外の宵闇に目を向ける。


「――ちょっと、ホッとしたんです。えっと、いち、先輩プレイヤーとしての気持ちです。……ぴよ右衛門さん、なかなか胆力のある方なんですね~」

「は、はあ……」


 ……なるほどね。

 なんとなく、すえこさんの立ち位置はわかってきたよ。


 つまるところ、すえこさんって、結構このゲームが好きなんだろうね。


 で、SNSには僕の動画も出回っている、とのコト。

 その動画を見たすえこさんは、きっと、――初心者(すなわち僕)が、POに対して『嫌なゲーム』という印象だけ持って、このまま引退してしまうとしたら残念だ、と思ったのだね。


 それはそれとして、僕としては、カッコ悪いところが全世界に公開されているワケなので、気持ち的にはゲンナリって感じだけど……。

 まぁ、あの時、野次馬たちの中には、視界ショットやら動画やらを撮っているっぽいジェスチャーをしている人たちが、チラホラ混ざっていた。なので、薄々、動画が出回っている事は覚悟していたよ。


 ……何はともあれ。


 とりあえず、話しぶりを聞いている限りでは、すえこさんに害意は無さそうだ。

 この人だったらちょっとは警戒を解いてもイイかもしれない(まぁ、セイルさんに、コロッと(だま)された僕の直感が、どこまで信じられるのか? というのはあるけどね……)。


 そんなふうに、数瞬のあいだ、すえこさんへの評価を内心で修正しつつ。

 僕は、頬を掻きながら、少しばかり補足してみる。


「――ええと、まぁ。とりあえずはですね、ユメちゃんを、……あ、たぶんその、出回っている? っていう動画にも映っていると思うんですけど、NPCの子が居まして……。その子を蘇生するまでは、最低限、続けたいなって思ってたんですすよね……」

「あぁ、なるほど。……そっか、あの子、まだ蘇生はできてないんですね~。…………あっ!!」


 すえこさんは、ふと思い出したように声を上げる。


「よく考えたら、ボクも怖いですよね! ……あの、警戒はされなくて大丈夫ですよ。ボクには、ぴよ右衛門さんをどうこうしたりするつもりは全然無くってですね……」


 すえこさんは、わたわたと取り繕う(感情モニターでコロコロ変わる表情が、結構おもしろいよ)。


「というのも、ボク、感心してたんです。なるほど! って」

「はぁ、感心ですか」

「はい。……何が、っていうのが……。ぴよ右衛門さん、……失礼ですけど、レベル32ですね?」

「……ええ」


 僕は肯定する。


 ……あー、ええと、32というのが。

 僕。実はね……。3日前に【天貫く塔の黒龍】を倒してからこのかた、レベルが上がっておらず、いまだに、レベル32のままなのだよね……。


 というのも。レベルアップに必要となる経験値は、戦闘での貢献度合いに応じて配分される。

 一昨日(おととい)の戦闘での経験値は、というと――。


【塔の地】での、【塔の君王の守護者】との戦闘での経験値は、ユメちゃんや、セイルさんたちと山分けだった。

 で、敵の【持続する天樹の恩恵】による自動回復分を加味すると、大部分がユメちゃんやセイルさんたちの貢献になってしまったみたい。


 それから、ノズさんたちとの戦闘は、……うん、全部、ユメちゃんの貢献だったね。


 そんな感じだったので、僕が得た経験値を総合しても、レベルアップには及ばなかったのだ。


 頭の片隅でそんな事を思い出しながら、……続くすえこさんの話に、僕は耳を傾ける。


「レベル32にしては、……って、上から目線ですみません! でも中々、レベルに見合わず、ぴよ右衛門さん、ちゃんと考えて行動されてるんだなって思ったんです。……あの、たぶん【精霊の標セレクタブル・テレポーテーション】ですよね? まずはそれで、【エゼクト】まで来たワケですよね」


 すえこさんは、人差し指を立てる。

 コートの袖から、チラリと、和っぽい、籠手のような装備が覗く。


「となると、もし仮に追手がいたとしても。……ぴよ右衛門さんを捕まえるには、【ローナ】から転移可能な場所を全部、ないしはヤマを張って見張る必要がある。でも、【ローナ】からの転移先って、100箇所以上あるじゃないですか」

「はぁ……」


 つらつらと語るすえこさん。

 ランタンが作る、フードの影。

 その奥に覗く青磁色の眼差しは、そこはかとなく、ちょっと楽しそうな色を帯びている。


 ……さっき、僕の目的地を言い当てたのもそうなんだけどさ。

 すえこさん、もしかしてこういうのを推理するのが好きなのかな……?


 そんな事を考える僕を他所(よそ)に、眉を寄せ、身を乗り出すすえこさん。


「……で、ちゃんと【隠密】とか【偽装】も使ってる。となると、見張るには、ヤマを張るとしたって、まともに【看破】系が使える頭数をそれなりに揃えなきゃならないですよね。それって、『列強(エニュメレイテッド)』級とか大規模クランとかが出てくるか、……あるいは掲示板とかで大規模に(つの)るかしないといけないですけど――」すえこさんは、額に人差し指を当てる。「――それってかなり難しいです。人を動かすのってお金が掛かりますからね。……思うにぴよ右衛門さん、その点、考慮して移動手段を選んでますよね?」

「……ええ、うーん、……まあ、はい」


 うーん、【精霊の標セレクタブル・テレポーテーション】については、短時間で別エリアに行く場合は、ほとんど必須なので。

 正直、買い被りな所がある気もするけども。……まぁ、一応考慮はしていたので、(おおむ)ね合ってはいるよ。


 すえこさんは、僕の相槌に、満足気に頷いて続ける。


「で、目的は、『ダンジョンに引きこもる』事。……ダンジョンの内部って、()()()()()()領域ですからね。もし()()されても、ダンジョンから出てこなければ良いワケです。……そんな思考で、合っていますか?」

「…………はい、ご明察です」

「……えへへ」


 僕の『ご明察』宣言に、照れるすえこさん。


 ……あ、『インスタンス領域』について、ちょっと説明するとね(……自分のためのおさらいだよ!)。


『インスタンス領域』とは、全体マップとは独立して生成される『限られた人しか入れない領域』の事だよ。

 具体例としては、ダンジョンだとか、宿の部屋の中だとか、イベントエリアだとかが該当する。


 どういったものか、詳しく説明すると……。


 普段、僕らプレイヤーがいる街やフィールドなど、全体マップは、『共通領域』と呼ばれ、ゲーム内の全プレイヤーで、ただひとつのマップを共有している。


 対して、『インスタンス領域』は、プレイヤー毎、またはパーティー毎、といった単位で、複数生成される領域である。


 ええとね、簡単な例として、ダンジョンの場合。


 POにおいては、ダンジョンって、『入場可能な人数の制限』があるのだよね。


 普通のダンジョンなら6名。

 拡張(エクステンデッド)なら12名。

 三次拡張トリプルエクステンデッドなら18名。


 ……といった具合に、ダンジョンの規模に応じて、入場可能な人数は増えていくのだけど。

 いずれにしても、()()()()()()()()()()()()のである。


 で、そうなると、――例えば、あるパーティーがダンジョンに入場した時、後から来た別のパーティーは入場できないのか?

 順番待ちとかするの?


 ……そんな疑問が沸くのだけど、実は、そういう事は無いのである。


 どういう事かというと、この場合、別のパーティーは、――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 そんな具合になっているのだ。


 この、個別で生成される領域や、こういった特性を持つマップそれ自体の事を、スラング的に『インスタンス領域』と言うのだよね。


 で、重要なポイントとして。


 インスタンス領域として生成された個別のマップにおいては、部外者が、外部から内部に対して何某(なにがし)かをしようとしても、()()()()()()()()のである。


 というコトで、『インスタンス領域』であるダンジョンという場所は、部外者による()()、つまりしつこい付きまとい行為があったとしても、ある程度対応できるロケーションなのだよね。


 で、すえこさんの確認としては……。


 これら一連の点も加味して、『ダンジョンへ引きこもろう!』という方針を立てていたのだよね? という意味の確認であり、それはまさしく仰る通りなので、『ご明察』というワケなのだった。


 さて、すえこさんは、イジイジと前髪をちねりながら続ける。


「……引きこもり先は、不人気エリア筆頭(ひっとう)の【雪牢の地】。その中でも【氷封の遺跡】は、屈指(くっし)の不人気ダンジョンですからね。いま、人気のコンテンツ群が分布する、いわゆる人気エリアからの、物理的なアクセスも最悪! ……というコトで、現状、モノ好きしか行かないポイントです」

「はい。つまり――」


 すえこさんは、ニコッと笑い、僕の言葉を引き継いだ。


「――引きこもるには最適、ですね!」


 えー。と、いうコトで。


 僕の計画は全部、すえこさんに、言うなれば『看破』されていたようだ。


 なんというか、がーん、……って感じだね~。あはは~……。

典範・・・【神秘の典範】というクランです。クランランキングは2千位台の中ごろ。

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