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24 【看破】

本日も1話のみです!

 ガタガタと揺れながら、山中の街道を進んでいく馬車。

 それに合わせて、幌の中に吊るされた【魔光灯】のランタンと、それが(こぼ)すオレンジ色の光も揺れる。


 ……この揺れと効果音も、一応ゲームなので、……軽い()()()()()程度のものである。実際の馬車くらいに揺れる訳ではない。

 なので、今、馬車の中は静かなものだ。


 ちなみに、……目的地までは、所要時間として、だいたい30分くらい掛かるみたい。


 なんというか、定期便発着の待ち時間もだけどさ。

 色々なタイミングで謎に時間が掛かったりして、変な所でリアルなんだよね~、このゲーム。


 まあ、特別急いでいるという事でも無い。

 そんなワケで僕は、道中、景色を眺めながらのんびりと過ごす事にした。


 ……まぁ、幌の外はほとんど真っ暗闇なんだけどさ。



 そんな感じで、(もや)掛かった宵闇を、ぼーっと眺めていると。


 じーっ……。


 と、いつからか、こちらを見つめる視線を感じるようになっていた。


 視線の主は、……まぁ、言うまでも無く、もう一人の同行者である『すえこ』さんだよね……。


 思わず、【偽装】の継続状態を確認しちゃう僕。でも別に、効果時間は切れておらず、ちゃんと【偽装】状態が持続しているみたいなのだよね。


 うーん、なんだろう。ちょっと怖い。


 やりづらいというか、居ずまいに迷うというか。

 そんな居心地の悪い感じに()えかねて、僕が、ちらっと視線を向けると、……うわ。

 ばっちり、目が合ってしまった……。


 な、なんか、こっちをめっちゃ見てるよ~。


 僕は思わず、目を逸らす。


 沈黙と、馬車の揺れる音。


 ガタゴト、……。


 ………。

 ………。


 き、気まずい……。


 かなり気まずいよ!


 再びちらっと視線を向けてしまうと、すえこさんはずっとこちらを見つめたままだったようで、再び目が合ってしまい。


 そして、フワッ、とこちらに微笑みを寄越(よこ)したのだった。



「……初心者さんですよね。珍しいですね」


 そんな風に話しかけてくるすえこさんに、僕はと言えば、ちょっと警戒して身構えてしまう。


 まぁ、『珍しい』というのは、実際その通りではあるのだろう。

 というのも、僕は今、【偽装】している情報により、(はた)からはレベル45に見える状態だ(あんまりサバは読み過ぎないようにしたのだ。装備とのギャップで怪しまれちゃっても、という懸念があるからね)。


 対して、いま向かっている【常宵の口の補給拠点】は、――いや、なんならこの【霧の地】にしたって。

 お世辞にも『初心者向け』とは言えないような場所なのだよね……。


 具体的には……、出てくる魔物のレベルが70前後であり、フィールドにしても、常にフィールド効果【天候:エレトの静寂の霧】が、……と、まぁ、それは置いとくとして。


 とりあえず、すえこさんに対して、僕は少し身構えつつ……。


「そうなんですか?」


 と、適当にとぼけて返してみる。


 すると、すえこさんは、目深に被ったフードの奥でくすくすと笑った。


 ちなみに、すえこさんのアバターは、フードから見える範囲に限っても、とても可愛らしいね。


 瞳は、透き通るような青磁色(せいじいろ)

 少し吊り目がちの(まぶた)に、スッと伸びる眉。


 自然に整えた感じの黒髪の前髪と、色白の肌が、綺麗なコントラストを見せ。

 いまは、ランタンのオレンジの光が、髪と瞳にチラチラと反射している。


 すえこさんは、とぼけた僕の言に対しても、特段それをつついたりすることなく、軽い調子で続けた。


「はい。……ボク、この辺でよく金策してるんですけど、レベル40台の人はあんまり見たことなくて」


 ……すえこさん、女の子のアバターだけど、『ボク』という一人称なんだね。……まぁ、それも置いといて。


 やはり、45というレベルが、ロケーションに相応(ふさわ)しくなかったみたいだ。

 ちょっとサバ読みが足りなかったかな?


 そんな風に、若干後悔しつつ、僕はひとまず「なるほど」とだけ相槌を返しておく。

 まあ、まだ傷は浅い、……と信じたい所だよ。


 そんな僕に、すえこさんはこちらに向き直って、ニコニコ笑顔で続ける。


「あの、せっかく相席になったので、良ければお話でもどうかなって。初心者さんなのに、こんな所に居るなんて、どこに行かれるのかなーって気になったんですよね。……ボク、『すえこ』と言います」

「あ、僕は『ぴよ右衛門』です」


 僕が名乗ると、その響きがツボに入ったのか、すえこさんは「アハハッ!」と破顔した(笑顔も可愛らしいね。口の端にチラリと見える八重歯もチャーミング)。


 ちなみに、『ぴよ右衛門』というのは、【偽装】で表示しているウソのプレイヤー名だよ。

『ぴよ太郎』とか、『ぴよ次郎』とか、適当でいいかな? と思ったのだけど、あまりに安直(あんちょく)すぎると、それはそれで【偽装】しているとバレちゃいそうなので、……ちょっとだけ()()()()のだ。センスいいでしょ?

 ……いいよね?


 ……ゴホン。そうそう、一応補足すると、プレイヤー名には読み仮名が振れるのだけど、これは『ぴよえもん』と読むよ。……うん、どうでもいいね。


 すえこさんは、まだちょっとツボに入っているみたい。

 うーん……。


「それで、ンフッ、…………すみません。それで、ぴよ右衛門さんは、どうしてこんな所まで?」

「……あー。ちょっと、【雪牢の地】に、……ええっと」


 言い(よど)む僕の様子を見て、すえこさんは、ニコッと笑い、言葉を引き継ぐ。


()()()()()ワケですか?」


 ドキリ、とする。


 ()()()()()()()


 僕は警戒レベルを高める。そんな僕を見つめたまま、すえこさんは続ける。


「場所は、()()と、アクセスから考えると【ザント】? ……ってことは、【氷封の遺跡】かなぁ……?」

「……!」

「……お、()()()ですね~」


 僕の答えを待たず、確信を持った表情で頷く彼女。


 そして、それは確かに図星(ずぼし)なのだった。


 改めて、僕がなぜ【雪牢の地】に行こうと思っていたのか?


 それは、『【雪牢の地】に所在する【氷封の遺跡】というダンジョンに引きこもるため』なのである。


 ちなみに目的は、『強くなる』ことだよ。要は、なんてことはない、レベル上げである。

 で、なぜ【氷封の遺跡】なのか? ……とか、細かい点は一旦置いとくとして。


 ともあれ、図星(ずぼし)である事を、すえこさんは、僕の表情から悟ったのだろうね。……うん、そろそろ、この感情モニター機能も切った方が良さそうだね。後でオフにしておこうっと……。


 僕は観念して息をつき、頬を掻く。


「フゥ、……ご明察ですね。仰る通り【氷封の遺跡】に行こうと思ってます」


 そう告げると、すえこさんは「うふふ」と無邪気に笑った。

 その笑顔には、とりわけ害意は無いように見えるのだけど、……まぁ、引き続き警戒するに越したことはないよね。


 で、すえこさんは、また次のように続けるのだ。


「たぶんですけど、ぴよ右衛門さんって、……()()()()()()()ですよね」

「あー……」


『例の初心者』、つまり、セイルさんがおととい言っていたように、『掲示板を賑わせている初心者』の意。


 まぁ、【氷封の遺跡】が目的地である事を言い当てられた事から、なんとなく察してはいたけど、これもバレてるね。


 状況から察するに、どうやらすえこさんには、僕の()()()()()()()()()()()()らしい。


 はぁ、……というコトでね。たぶんもう、隠しても無駄だし、全面的に認めてしまおう。


「ええ、仰る通りです。……あの、後学のためにお聞きしたいのですが、【看破】ですか?」


【看破】とは、【偽装】や【隠密】を見破る技能の事だよ。で、案の定……。


「はい」


 と、すえこさんはイタズラっぽい笑顔で肯定し、得意気にツラツラと喋り出す。


「勝手にアドバイスするとですね~。【偽装】って、【看破】とかで見破られた事に気づけないんです。なので、『カウンタースペル』を仕込んでおくと良いですよ。スペルが発動したかどうかで【看破】系の技能の対象となったかどうか、判断できますからね~」

「そうなんですね。今度試してみます……」


 まあ、うん……。勉強になるよ。


 ……ええとね、すえこさんの言う『カウンタースペル』とは、……自分(ないし特定の人やオブジェクトなど)を対象にして、特定の種類のアクションがなされた時に、自動で魔法が発動するように罠を仕掛けておく、というアクションの事である。


 で、これを使って、自分を対象にした【看破】(や、それに類する技能)の発動というアクションがなされた時に、適当な魔法が発動するようにしておけば――。魔法の発動有無により、自分に対して【看破】が試みられた事を察知できる、……というワケだね。


 ちなみに補足だけど、『カウンタースペル』に対抗する手段もいくつかあって。

 カウンター発動した魔法の対象を移すことで対抗する【囮人形】という【消費具】とか、カウンター発動を強制起動する【隠されし(まじな)いの誘発】という魔法があったりもするよ(これ、セイルさんの取り巻きが使っていた記憶があるね……。改めて彼ら、相当、抜かりないよ)。


 さて、ここでひとつ気になった点として……。


【看破】って、『発動』というアクションが必要な技能である。

 つまり、常時効果を発揮しているワケではない(たぐい)のものであるハズ。


 で、この馬車に乗ってから『【看破】を使用しました』みたいなログは出ていなかった気がするのだよね……。近くにいる人が技能を発動したら、普通、ログが出るものなのだけど。


 と、疑問に思ってすえこさんに訊いてみたら、それも別の【魔術具】でカバー、つまりログが見えないようにできるらしい。


 すえこさん、……抜け目ないね。

 ……というか、なんかちょっと、やり口が怖いよ~……。

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