23 【魔術都市エゼクト】
あけましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いします。
年明け初更新、すみませんが、1話だけとなります♪
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0882 名無し
初心者ちゃん、IDもオンライン状態も非表示になっちゃってるじゃん
あーあ
お前らがいじめるからさあ
0883 名無し
俺ブロックされた
0884 名無し
誰か入れ知恵したか?
払暁?
0885 名無し
うちのクラン、申請送ってたやつ全員ブロックされてて笑った
フレンドなれた奴いる?
0886 名無し
脅しすぎたか
0887 名無し
決別の請託な
0888 名無し
治安わる
0889 名無し
決別の請託
0890 名無し
決別の請託
0891 名無し
どうでもええやろ……
0892 名無し
この程度の脅しで屈するようじゃPOじゃやってけねえからな
ブロックは良い傾向だ
さてどうなるかな
0893 名無し
結局払暁に加入したで良いわけ? 誰か見てないの?
0894 名無し
してないんじゃないかなあ
0895 名無し
クラン入っちゃったか?
もうログイン地点じゃ追えないな うーん……
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「……おぉ……っと」
扉を出た途端、思わずそんな声が漏れてしまった。
というのも、眼前に広がるのは、――荘厳と言って余りある景色だったのだ。
――【魔術都市エゼクト】。
その文言が、視界にスッと現れ、消える。
それを横目に、改めて景色をまじまじと眺める。
まず、ぱっと目に入るのが、――ダークブルーの宵闇と、夜霧に煙った夜空。
そして、それを背景に、黒々、悠然と佇む、あまりにも巨大な大樹のシルエットだ。
その大樹に寄り添うように、これまた巨大な城が聳えており。
城からは数々の尖塔が林立し、そして、それらの窓から疎らにオレンジ色の明かりが零れている。
……ええと。攻略サイトを見た時の記憶によると。
【エゼクト】は、NPCの研究機関である【魔術学院】が所在しているのだと書いてあったよ。
とすれば、あの巨大なお城が【魔術学院】なのだろうか? ……そんな気がするけど、うーん、にしても、だいぶデカいよ。
さて、それら大樹と城の麓に広がるのは、城壁に囲まれた、石造りの欧風の街並みだ(ちょっとローナに似た雰囲気があるよ)。でも、ぱっと見の印象でさえ、ローナと比べても、めちゃくちゃ広いって事がわかる。
僕が今居るのは、それらの街並みを俯瞰できる、これまた巨大な尖塔だ。下方を覗いてみると、どうやら街中に建てられた聖堂の上層っぽい(この小高い場所に【精霊の扉】があるのってさ、メタ的なコトを言っちゃうと、たぶん、転移してきた人にこの景色を見せたいからだよね~。粋な計らいだよ)。
ちなみに、大樹は、オルゼットさんたち【払暁の騎士団】の拠点で見た【天樹の若枝】とは、また違う趣きのモノである。具体的には、【天樹の若枝】が『普通の広葉樹』と言った感じであるとすれば、【エゼクト】の大樹はどこか、『柳』を思わせる雰囲気だ。
具体的には、――ねじくれて天に伸び、先は枝垂れた感じに頭を擡げる幹や枝は、……言い方はちょっと俗だけども、『盆栽』といった雰囲気があって。幹にしても、白く滑らかな幹と、黒茶の幹とが寄り添い絡み合っている、――そんな状態。
そして、その枝垂れた枝葉が、都市全体、……全天にわたって、空から覆い被さるように垂れ下がっており、それらが夜風にサワサワとそよいでいる。
今、ゲーム内時間が夜であることから、その全容はほとんど濃紺の闇に隠れているものの……。
宙には点々と、装飾付きの大きな【魔光灯】が浮遊しており、それらの光に照らされた部分だけが青々と鮮やかに浮かび上がる。そして、風が起こるたびに、枝から離れた葉が、チラチラと幻想的に舞い散るのだった――。
………。
……ええと。
正直、どんな景色だろう? とか、全然考えていなかったし、期待もしていなかったのだよね。
でも逆に、そのおかげかな? 不意に眼前に立ち顕れた景色。
その威容に僕は、年甲斐もなく、少し感動してしまったよ。
なんというか、【塔の地】に足を踏み入れた時とは、また違った形で感動的だね。
まぁ、昨今のVRゲームでは『美麗なグラフィック!』なんて売り文句、全然普通というか、当たり前というか、なんなら、ゲームとして最低条件だ! といった風潮ではあるのだけどね……。
でも、思わぬサプライズ的な美麗グラフィックに、僕は思わず数秒くらい見とれてしまった。
そういえば、このゲーム、結構景色も凝っているらしいのだったよ。
……で、見とれてしまったのは良いのだけど、すぐに僕は本来の目的を思い出し、我に返る。
というのも、後続の人たちも続々と転移してきているのだよね。その状況を見て、僕はそそくさとその場を後にした。
今はとにかく、なるべく目立ちたくないからね……。
というか、はっきり言ってしまえば、僕は【エゼクト】に全く用は無いのである。
ここにも、たぶんいろんなコンテンツがあるハズなんだけどね……。
でも、悲しいけど、今は全部スルーさせてもらうよ。ごめんね。
………。
……うん。にしても、スルーするにはちょっともったいないくらいの良い景色だった。
ちなみに、僕と同じように景色に見惚れていたり、歓声を挙げていたりする人もいて、ちょっとだけ親近感を抱いたり。
少し、後ろ髪を引かれる気持ちもあるよ。
でも、また今度。ユメちゃんを蘇生できたら。そして、僕もそれなりに強くなれたら。
そしたら、今度は、デートとして一緒に来たいかもなー。
……なんてね。
*
さて、聖堂から出て、市街をどんどん下っていき。
馬車の定期便の受付は、街の中ほどにある【冒険者ギルド・エゼクト支部】が兼ねているみたい。僕は、【冒険者ギルド】まで【隠密】と【偽装】を維持したままお忍びした。
ちなみに、【冒険者ギルド】とは、このゲームで(大抵の)プレイヤーが所属する互助組合である。
ギルドに『冒険者』として登録する事で、依頼を斡旋してもらったり(ゲーム的には、クエストの受注だね)、『冒険者』限定のサービスを利用したりできる。一応僕も、このゲームを始めた初日に、ギルドに『冒険者登録』をしたので、諸々の機能は使えるようになっているよ。ちなみに、デイリークエストとかも、ここで報告できる。
で、攻略サイトによると、……まぁ、流石に【冒険者ギルド】の施設内で【隠密】を使うのはヤバいっぽい。【偽装】はまだマシなので(といっても、『バレなきゃ大丈夫で、【隠密】に比べてバレづらい』、……というくらいの意味だ)、僕は【隠密】を解除して、その代わりに【偽装】の看破率を下げる【消費具】を使った。あと、全身を覆う、ダークグレーのフード付きローブを装備して、装備も見えづらくしてみたよ。
それから、馬車の使い方。
これはわりかし簡単だ。
支部に入ると、正面に受付嬢のNPCさんがいるので、話しかける。すると――。
「【冒険者ギルド・エゼクト支部】にようこそ!」
というセリフと共に、ギルドのサービスメニュー画面を提示してくれる。
そこから『馬車の定期便』を選ぶと、目的地が一覧表示されるのだ。
で、その中から目的地をひとつ選び、……続けていくつか説明事項の画面をタップして進むと、定期便の発着をしばらく待機する形となる。
僕は、一覧から『【霧の地】>【常宵の口の補給拠点】』を選択。
これは、【雪牢の地】のギリギリ手前に位置する小規模拠点だ。
続いて、所要時間がどうとか、盗賊や魔物との遭遇リスクが云々とか、万一の場合の補償とか……。
そんな感じで、諸々説明の表示が出るのだけど、ざっと頭に入れて、受付完了。
晴れて、ニコニコ笑顔の受付嬢さんから、乗車券となるカードを受領した(このカード、一応【魔術具】らしい。なんだか近代的だね)。
ちなみに、目的地一覧には、全然行ったことのない選択肢もたくさん並んでいたよ。
この点は、【精霊の標】と同様みたい。……つまり、他のプレイヤーによって解放されている場所は、自由に行き放題なんだよね。
一応、このゲーム、各プレイヤー毎に進められる個別ストーリーというのがあるのだけど、地点移動に関しては、個別ストーリーの進行状況は関係ないのである。親切でありがたいよ。
……とまあ、そんな感じで、無事、用も済んだ。
僕は、そそくさとギルドを後にし。しばらく裏路地とかでコソコソしながら待機することにする。
*
さて、裏路地で巡回に怯えつつ、定刻を迎え。
ようやく僕は、馬車に乗り込み、【エゼクト】を発つことができた。
正直、エゼクトの衛兵巡回ルートを回避しつつの行軍に加えて、【冒険者ギルド】施設内での受付作業は、かなり緊張感があった。
というのも、エゼクトは、普通の街と違い、【ドローン】と呼ばれる系統の【魔術具】が、衛兵と同じように巡回しているから、……お忍びはかなり難易度が高いのだよね。
とはいえ、これでようやく、まずは一安心。
「ふぅー……」
僕は、溜め息を付く。
ガタゴト揺れる馬車の中。
幌付きの荷台に設えられた腰掛けに深く凭れ、僕は、御者の背中越しに、外の景色に視線を向ける。
あ、ちなみに通常、御者台には『御者』としてNPCのキャラクターが配備されているのだけど。
【魔術都市エゼクト】を中心として走る各所の街道、そこを往来する定期便の馬車においては、御者のNPCは不在、らしい(一応、ここ以外にも、同じ運用になっている所はあるみたいだ)。
どういう事かと言うと、御者の代わりとして、……ええと、【汎用自律人形/制御下:制御命令・御者】という【刻印級】の【魔術具】が使われているのだよね。
というコトで。今、幌の中から見える御者台には、木っぽい質感の素材でできたマネキンが座っているよ。
一応、御者っぽい服装はしており、顔もけっこうしっかりと造形されている。
ちょっと不気味だけど、……でも、髪型はきちんと整っているし、目もちゃんとついている。手入れも行き届いていそう。
……あ、それともうひとつ。
馬車は他プレイヤーと『相乗り』なのだ。
つまり、目的地が同じ人とは一緒の馬車に乗る事となる。
なので僕は、引き続き【偽装】のみしている状態だよ。
ちょっと心許ないけども、これはまぁ、仕方ないね。
で、同乗者はというと、……運の良い事に、僕の他に1人だけ。
幌の中で、僕から対角線の位置に座っている、小柄な人影。
その頭上に表示された文字を読むと……。
――レベル78。
――プレイヤー名、『すえこ』。
外見としては、……防寒装備だろうか? ふわふわモコモコ、とした黒のフード付きコートを纏い、フードを目深に被っている。
馬車の揺れ具合により、たまに横顔が少しだけ見えて。……顔立ちからすると、どうやら女性アバターみたいだ。
すえこさんは、馬車の隅っこで、メニューを操作しているのか、空中をスイスイといじっている。
特段、こちらに構う様子は無いので、……僕としてはありがたい限りだよ。
以下、ご興味ある方向け、どうでも良い設定開示シリーズ第二弾です♪
今後、この設定が本作に登場する予定はありませんので、読み飛ばして頂いて差し支えありません。
■【ヴェルマちゃんの万能修復パッチ】(20話で言及)の設定
【ヴェルマちゃんの万能修復パッチ】は、【刻印級】以上の等級のアイテムで見られる破損状態【断障】を修復する【消費具】。
前提として、【刻印級】以上のアイテムが持つ特殊効果のうち、【魔術】由来の特殊効果は、基本的に【刻印】と呼ばれる素子からなる『魔力回路』により発現する。
【断障】状態とは、この【刻印】が破損・汚損等で正常に導通せず動作不良を起こしている状態を指す呼称(15話参照)。
【ヴェルマちゃんの万能修復パッチ】は、シート状のアイテムであり、アイテムを『使用』することで、正常に導通しなくなっている原因部分を覆うようにパッチが張り付き、原因部分を含めた『魔力回路』を再度導通できるようにすることで【断障】状態を修復する。したがって、この修復パッチによる修復は、対象アイテムを完全に修復するものではなく、あくまで応急的な処置をするに留まる程度のもの。
例えば、修復パッチ自体に影響を与えるような方法で、当該の修復済みアイテムを再度破損させることが可能(火属性系の魔法を使って燃やす、など)。ちなみに、この点(ないし、他の破損状態にも類似の要素がありますが……)は、対人環境においても考慮事項の一つとして検討される事がある。というのも、このアイテムはそこそこ安い(それでも数百万通貨程度の相場)ので、対人戦で使われるケースが多いため。




