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21 【神たる形代の模倣】

 ええとね、ごめん。言い訳をさせて欲しいんだけど(誰に? と、即座に脳内でツッコむけど……、まあ、自分に対しての言い訳だよ)。


 ユメちゃんを蘇生したい気持ちが無くなったワケじゃないのだ。

 単に、優先順位の問題なんだよね。


 平たく言ってしまえば、『蘇生するより先に、僕自身が強くならなきゃ』――てコトだ。


 現状、【絶夢】の修復方法を見つける目算が立たず。

 仮に、もし運良く方法を見つけたとして、たぶん、修復に掛かるコストも、とびきり高いと思われるワケで。

 更に運良く、もし修復して、ユメちゃんを蘇生できたとしても。僕が弱ければ、結局、彼女を守ることができないと思うのだよね。


 そうしたら、またセイルさんみたいな人に狙われた時、昨日と同じ事になってしまう(で、実際それは、全然あり得るってコトが身に染みてわかったよ)。


 ……ま、『ユメちゃんに、絶対に【神たる形代の模倣(イミテーション)】をさせない!』という方針で行動するなら、別に蘇生しても良い気はするけどね。

 とはいえ、修復の目算が立たない以上、そんな対策を考える事だって、単なる皮算用にしかならない。


 重ねてだけど、別に、ユメちゃんを蘇生したくないワケじゃないのだ(むしろ、早くまたあの癒し笑顔が見たいくらいだよ)。

 でも、そういった諸々(もろもろ)を鑑みて、今は優先順を変えた方が良いと思ったのだよね。


 ――と、ひとしきり考えたところで……。


「うーん、ていうか、そもそも……」


 思わず独り言が漏れる。


 そもそもさ、……考えてみれば。


 僕にユメちゃんを蘇生する資格なんて、なかったよ。


 ……あ、いや、『所詮NPCだよ』なーんて割り切った考え方もアリではあるけどね。

 でも、たとえNPCだとしても、女の子ひとりで、17人にの相手に立ち向かわせてしまった。そんな僕に、彼女を蘇生する資格なんてさ、ない……かも。


 なーんて、殊勝(しゅしょう)かもしれないけど、僕はそんな風に思ってしまったのだった。


 いや、まじめかっ! ――って突っ込まれそうだけどね。

 でも、たかがゲームとはいえ……。


 白い炎に飲み込まれていく、ユメちゃんの表情。

 逃げて、という言葉。


 それらを思い出すと、どこか、胸がズキッと痛むのだ。

 そして、こうも思う。


 ――もう、ユメちゃんを矢面(やおもて)に立たせるようなコトはしたくない。


 うーん、とはいえ。たぶん、そういう状況に陥ったら陥ったで、僕はまた、ユメちゃんに助けを求めちゃう気もするんだよね。悲しい事に。

 だからこそ、もう、そもそもそういう状況それ自体を招かないようにしたい。

 しなきゃいけない。


 ……そういう意味でも、やっぱり、まず先に、強くならないといけない。

 それも、できるならば……、彼女の隣に立てるくらい、いや――。


 ――『彼女を守れる』くらい。


 そんな程度にはならなきゃ、ね。


 ……あ、それから、僕らを袋叩きにしたセイルさんたち一同を、見返すぐらいにはなりたいかな(やり返さない事には、男としての矜持が立たないよ。……まあ、ユメちゃんを死地に向かわせた時点で、もう半分、折れかけてる矜持なんだけどさ……)


 そんな風に、色々と思いめぐらしながら。

 なんとなしに、【絶夢・失光】を鞘から抜き、照明の橙の光に(かざ)してみる。


「……ユメちゃん。待っててね」


 と、我知らず独り()ちた言葉が、室内の静寂に染み込んでいく。

 白銀の刀身が、チラリ、と優しく揺らいだ気がした。


 ……と、黄昏(たそがれ)たい気分もそこそこにしておいて。

 そんなワケで! 改めて、今後の僕の行動方針としては……。


 ――まずもって、強くなる事を目指す。


 で、そうして行動するのと並行して……。


 ――可能なら、ユメちゃんの蘇生の方法についても手掛かりを探す。


 そんな感じの方針でいこうかなって思うんだ。


 ……よし。

 そうと決まれば――。


 僕は、【絶夢・失光】を再び鞘に納め。

 そして、ベッドから身を起こし、改めてブラウザ画面に向かう。


 ――『強くなる』事。

 そのために必要な第一ステップとしては……、たぶん、『現状把握』だよね。


 とにかくまずは、このゲームについて、改めてちゃんと理解しておかなきゃ。


 自分のステータス。

 自分の持つアイテム。

 他、基礎的な内容について、諸々(もろもろ)の理解を深めていこう。


 そうして改めて、僕がなりたい理想――『ユメちゃんを守れるくらいに強くなる』を見据えれば、次に何をすれば良いのか? が、自ずと見えてくるハズ。


 と、いうコトで。

 今日は、情報収拾と、今後の方針検討の一日とすることにしようかな。


 知識不足により、良くない状況を招いてしまうのは、もうこりごりだからね。



 さて、攻略サイトを探し回り、視界に表示した時計も幾分回った頃。

 色々なトピックをざっくりと頭に入れていきながら、種々の知識をインプットしていくことで、……改めてふと、気づいたことがあった。まあ、全然、たいした事ではないのだけどね。


 僕は、手元の仮想インターフェースをいじる手を休め、顎に手を当てる。


 ユメちゃんが人間の姿となるための技能、――【神たる形代の模倣(イミテーション)】。

 今更なんだけどさ。これって、結構うまくバランスが取られているのかもしれないね。


 えっと、何が、って言うのが……。

 ちょっとドライな言い方にはなっちゃうんだけど、【神たる形代の模倣(イミテーション)】したNPCの『運用』という観点での話になる。


 言葉を選ばずに言えば……、まあ、【神たる形代の模倣(イミテーション)】したNPCは、だいぶん、『運用に気を遣う必要がある』気がするね。


 例えば、ユメちゃんを連れていると……、フィールドやダンジョンにおいて、普段から、彼女が戦闘不能となってしまわないように立ち回る必要があるよね。


 他にも、調べる中で知ったのだけど、未踏破のダンジョンの仕様として……。

 誰かが最奥のボスを倒して『踏破済みの状態』とするまで、未踏破ダンジョンは、システムコマンドで脱出する事ができない、という仕様らしいのだ(まさに、僕がおととい、【天貫く塔】で体験したアレだね……あ、でも歩いて外に出るのはできるみたいで。そういう意味だと【天貫く塔】はまた別かもしれないけど……)。というコトで、未踏破ダンジョンの攻略は、ほとんど全滅を前提として進めるのが一般的なやり方みたい。

 で、こういう場面では、ユメちゃんみたいなNPCは、よっぽどの勝算が無い限り、連れて行きたくないよね……。


 あとは、(これも調べていく中で知ったのだが)クラン対抗イベントを始めとして、対人戦がメインとなっているイベントなんかでも、アイテムの消耗や破損はそのままだったりするらしい(そうでないイベントもあるみたいだけどね)。

 対人試合なんかでも、『相手を全滅させること』が勝利条件だったりする事があるみたいだね(もちろん、『降伏する』という選択肢もありそうだけど)。


 そして、前提として、【神たる形代の模倣(イミテーション)】したNPCを蘇生するには、【失光】状態を()()()()()()()()()。――つまるところ、戦闘不能となってしまうたびに、【失光】の修復コストが必要となる、という寸法だ。


 でさ、調べた範囲では、ひとつ下の等級である【伝説級(レジェンダリ・ランク)】の【武具】でさえ、直すには恐ろしいほどのゲーム内通貨と、素材が要るらしいよ。だとすれば、いわんや、【神話級(テイル・ランク)】の【絶夢】における修復コストはきっと、『推して知るべし!』なんてくらいのものだろうね。


 というコトで、これらを総じて考えるに、【神たる形代の模倣(イミテーション)】したNPCは、修復コストまで勘定に入れると、『かなり慎重な運用をする必要がある』……ってワケだ。


 どうにも、ユメちゃん、『だいぶ強すぎる!』……なーんて、昨日は思ったのだけどね……。


 でも、運用という観点を含めれば、なるほど、ちゃんとバランスが取られているかもしれない。

 世の中、そんなにうまい話はないってコトだねー、うん。


「はあ……」と、溜め息が漏れる。


 現実は厳しい。

 厳しいけど、……この辺も、まずは棚上げしつつ、追い追い考えていかなきゃいけない所だね。



「フー……」


 長く溜め息を()き。

 空中の画面から視線を離し、僕は、視線を窓の外に向ける。


 相変わらずのローナの風景も、どこか、少しずつ賑わいを失っている。


 ――のは、ある種当然ではある。

 えーとね、視界の時計がさ……。だいぶん、良い時間を示しているのだよね……。


「はぁ……、やばいかも……」


 昨日の今日で、また夜更かしをしてしまった(ちょっと、目がしょぼしょぼする気がする。VRだからそんなことは無いんだけどさ)。


 いい加減、明日もまた仕事に差し(さわ)っちゃうかも。うう、嫌だ……。


 でも、でもさーっ。なんというか、夜更かしして、今日の充実を取り戻したくなっちゃう、……みたいなコト、みんなは無いかな? これって、あるあるだよね?(……って、僕は誰に言っているんだろうね? 最近、脳内の独り言が激しいよ)


 ……しかしまあ。収穫という収穫が、全く無いワケでもなく。

 というのも、ようやく、直近の段取りも、僕の中でなんとなく固まってきたのである(ちょっとだけ、達成感があるよ)。


 具体的には、……っとと、まあ、実際に行動を始めるのは明日にするとしてね。

 僕は、ブラウザ画面を閉じ、代わりにワールドマップを開く。

 そして、幾らかスクロールしたのち、グレーを基調とした色に塗られたエリアの、とあるポイントに目的地マーカーをセットした。


 ポイント名、【雪牢の地】開拓拠点【第一開拓都市ザント】。


 直近目指すは、このグレーのエリア、――【雪牢の地】としよう。

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