20 【商工都市ローナ】
引き続き、説明回が続きます。。(っ﹏-) .。
目に入るのは、宿の室内。
そして、視界に浮かぶ【商工都市ローナ】の文字。
「……よし」
思わず、そう独り言ちる。
無事、意図通りに、ローナに取っていた宿にログインできた。
まずは、ひとつ目の懸念をクリア、だね。
宿の部屋は、しばらくの期間の幅を持たせて確保しておいたんだけど、それが功を奏したようだ。
ゲーム内時間は、夜。
照明の光の無い、静かな室内。
床のテクスチャに落ちる、窓から差し込む銀色の月光だけが、眩しく輝いている。
ユメちゃんが話しかけてくる事は無い。
腰の【絶夢・失光】は、依然として、沈黙を保っているよ。
ちょっと寂しいね。
さて、窓に近寄って外を確認してみる。
ローナの街並みは、【魔光灯】でオレンジに照らされ、いつも通り賑わっていた。
一方で、宿を取り囲む人は、今日はわりあい少ないようだ。
もしかすると、僕が『【払暁の騎士団】に加入した』という風に誤解されているのかな?
そのせいで、(宿に張り込んでも意味がないと思って)人が減ったのかもしれないね。
というのも、昨日、オルゼットさんたちと転移した所も野次馬プレイヤーたちに見られていたハズだからね。
もしそうだとすれば、だけど……、なんだか、ブロックした後なのに、ますますオルゼットさんたちに頼りきりだ。
これはもう、彼らに足を向けて寝られないね。
このお礼も、昨日渡したアイテムで賄えたりしないかな?
……なんてね。
さて、僕は逸る気持ちで【絶夢・失光】の詳細画面を確認しようとし。
そうして開いたメインメニューの通知欄に、アイコンが点滅していることに気づいたのだった。
*
結論から言うと。
ユメちゃんは『蘇生できる』みたいだ。
そして、時間制限も、回数制限も、無い。
僕は、まずは、ほーっと一息、胸をなで下ろす。
昨日からずっと逸っていた気持ちに、ようやく幾分の余裕ができた気がする。
要するに、『気にせず、ゆっくりと考えて差し支えない』という事だからね。
僕は、ベッドに腰かけ、室内操作用のコンソールから、照明を点ける。
ぼうっと点ったスタンドライト状の【魔光灯】のおかげで、部屋の中が落ち着いた雰囲気に照らし出される(ファンタジー世界なんだけど、この辺は結構割り切っているらしく、室内はそこそこ現代っぽい感じだよ)。
……さて。
話を戻すと、ユメちゃんは蘇生できる。……のだが、蘇生するためには、条件があるらしい。
まあ、これも結論から言ってしまえば、『【失光】状態を修復する事』が、その条件である。
……うん。オルゼットさんの予想は、全部当たっていたね。
改めて、ランキング上位クランの長なだけあって、流石の洞察力だ。
ちなみに、どうやって僕がこれらの情報を知ったのかというと――。
先ほど点滅していた通知欄を開き。
そこにあった『新しいチュートリアルが解放されました』という項目をタップ。
それにより【絶夢・失光】の詳細画面に飛ばされて、一緒にチュートリアル画面が自動で開き、そこに書かれていた。
……この、【絶夢・失光】の詳細画面を見ないとチュートリアルが出ないという仕様。
たぶんこれ、戦闘中とかにチュートリアル画面が出ちゃったりしてしまわないように、という親切な配慮だよね。
うーん、まあ、ゲームシステムにケチをつけるワケじゃないんだけどさ。
昨日、あれだけ不安に思っていたことの答えが、全部書いてあって、正直、肩透かしだよ。
なんというか、全然、心配しなくて良かったみたいだ。
……うん、とはいえ、悪い方向に倒れなかっただけありがたいね。僕はそう思い直す。
さて、再び話を戻すと、じゃあどうやって【失光】状態を直すのか?
残念ながら、その方法についてだけは、書いていなかったのだよね。
『自分で考えましょう』ということらしい。なかなかスパルタなゲームだ。
しかしだね、ゲーム側がそう来るなら、こちらにだって、『インターネット』という強い味方がいるのである。
僕自身、ネタバレはそんなに気にしないタイプなのもあるけど、それよりも、ユメちゃんの蘇生方法を考えたいのだ。そんな気持ちで、僕は躊躇いなくブラウザを起動した。
で、昨日オルゼットさんが教えてくれた、【失光】に似た破損状態の表示の例。
――【破損】【断障】【失能】。
順当にいけば、きっと『失光』も、同じような感じで直せるのではないか?
オルゼットさんと同じく、まずは、そんな予想に則って調べてみる。
で、ブラウザ画面片手に、とりあえず攻略サイトを浚ってみると……。
これらの破損状態なのだけど、それぞれ直すのにたくさんの方法がありそうだ。
しかし、思うにそれらは結構似通っているみたい。
よくよく色々なケースに目を通した結果、ざっくり、次のような3つくらいに分類できそうだ。
1.技能を使う。
2.アイテムを使う。
3.ストーリーイベントをこなす。
こんなところだね。
僕は、ノートアプリを手元に開き、情報を書き込んだ。
忘れないようにしないとね。
で、それぞれ詳しく見ていくと。
まずは『1.技能を使う』については――。
【破損】であれば【修理】や、【鍛造】など。
【断障】であれば【刻印】や、【細工】など。
そんな感じで、『生産系』や『修復系』と呼ばれる類の技能が必要となるみたいだ(ちなみに、プレイヤーが使うか、NPCが使うか? の縛りは無いみたい。『NPCの鍛冶屋に持っていく』とかが基本となるのかな)。
ちなみに、技能にも『レベル』があるらしく。
高い等級の【武具】を修復するには、相応に、高いレベルの技能が求められる。
加えて、『素材アイテム』も修復には必要となるらしい(そしてこれも、修復するモノの等級に応じて、相応のものが必要となる)。
このあたり、必要となる素材アイテムや時間などのコストは、技能を使う時に画面が表示されて、そこを見る事でわかるらしいね(ということで、悲しいかな、僕はこれらの技能を持っていないのでわからないのだった……)。
さて、続いて『2.アイテムを使う』。
僕はノートを改行して、続きを書き込んでいく。
ええと、先ほどの1の手段が、いわば正攻法、つまり、真っ当に直す方法だとすると。
2の手段は、必要なコストを踏み倒して修復するような方法だ。
どういう事かと言うと……。
例えば、【破損】であれば【灼焔の息吹】【復元器】など。
【断障】であれば、【自己記述素子】【ヴェルマちゃんの万能修復パッチ】など(なんか、すごい名前だね)。
そんな感じで、破損状態を問答無用で修復できる【消費具】や【魔術具】がいくつか見つかっているみたい。
ちなみにこれらは結構価値が高い、珍しい品であり、プレイヤー間でも高値で取引されているらしい。まあ、ゲーム的な制約を無視して修復することができるから、そりゃそうだね(パッと考える限りでも、いくつか悪い使い方が思いつく。ゲーム側としても、おいそれと入手出来てしまうようにはできないだろう)。
で、これも言わずもがなではあるんだけど、【失光】状態を修復するようなアイテムは、攻略サイトには載っていなかったよ。まあ当たり前だね。
最後に……、『3.ストーリーイベントをこなす』。
ただ、これはかなり特殊なケースであって、普通は1か2みたい。
ある種の【武具】は、特別なストーリーイベントが用意されていて、そのイベントをこなすことで、直すことができる。そんなようなケースがあるのだとか。
攻略サイトで、そのケースの一覧をざっくり見ていくと――。
例えば、【魔術学院】と呼ばれる施設にいる研究者のNPCが請け負ってくれるイベント。
これは、【祝福級】の【魔術具】である【仮初めの魂の依り代】の【失能】状態を修復できる、といったものだね。
ええと、この【仮初めの魂の依り代】というアイテムは、一度使うと【失能】状態となってしまうものの、このイベントにより何度でも直して使えるみたい。ちなみに、その効果は『所持者が戦闘不能となってしまうタイミングで、一度だけ戦闘不能を回避できる』というものらしいよ(あんまり関係ないね)。
それから、他に目ぼしいものとしては、『【刻み師】をしているNPCの依頼で、お弟子さんの修練に協力する』というイベントがあるね。
これは、【刻印級】の【武具】や【魔術具】について、【断障】状態を直せるイベントで、【刻印級】でさえあれば、種類は問わないみたい。でも、直せるのはイベントの関係上、1回こっきりだ。
うーん、これらの例を踏まえて、【絶夢】について考えてみれば……。
現状、可能性が、あるともないともつかない、なんとも微妙な感じだね。
なんというか、3という可能性も全然あり得そうな感じだよ。
まあ、とりあえずは……。
1、もしくは2の線で考えてみつつ、3の可能性も頭の片隅に置いておくのが良さそうかな。
なんて、いまひとつ、結論が出たのか出てないのかわからないような感じに落ち着いたのだった……。
*
「はあ~、結構調べたなあ……」
ふと零れた独り言。
それが、部屋に満ちた静寂に浮かび、スッと消え入る。
窓の外は、まだまだ夜中だ。
僕は、グッと伸びをして、ベッドに後ろ向きに倒れ込む。そして、天井に手を差し伸べて、ふと思う。
やっぱり、ここまで調べておいて、なんではあるのだけども。
【絶夢・失光】を直すのは、しばらくは保留にしようと思う。




