02 【絶夢】
それから先は地獄だった。
色々省略するが、要は次のような状況である。
一撃で倒される。
セーブポイントで復活。
また倒される。
復活。
倒される。
………。
何十、いや、何百回繰り返しただろう?
やがて僕は気がついた。
フィールドのある一角にドラゴンを誘導すると、挙動がおかしくなることに。
ガクン、とドラゴンのグラフィックが数センチほど沈んだかと思うと、すぐに戻る。
そして、『540』のダメージ。
そのうえ、一瞬だけ、僕へのターゲットが切れ、ドラゴンが僕を見失うのだ。
光明が見えた、と思った。
というのも、僕が攻撃して与えるダメージは、たったの『1』。
それに加えて、毒を与える武器をたまたま持っていたので、それを駆使して秒間『10』ダメージずつ与えていた。
こんなんじゃ、永遠に倒せない! と思っていたところに、『540』という数字はまさに救いの御手、蜘蛛の糸である。
そして、ドラゴンが新しくターゲットを視界に入れた時にする行動は、2パターン。
1つ、咆哮。これは距離を取ってさえいれば隙だらけだ。
もう1つ、突進。これも割と動作はゆったりなのだが、まぁ僕のステータスが低いので、逃げ切ることができないことも多く。
しかして、咆哮と突進の後、ドラゴンはしばらくターゲットの位置に応じて移動する。
というワケで、ここから先は、ご想像にお任せしたい。
『540』のダメージを与えて削れる体力ゲージは、『ミリメートル』といった具合だ。とにかく、本当に大変だった。
しかし、僕は成し遂げたのだ。
ズウウン……という大きな音と共に、【天貫く塔の黒龍】の体躯が地面に横たわり、それきり動かなくなった。僕は勝ったのだ!
なお、ずるいという人もいるだろう。要は『裏技』ということだからね。
でも、これだけは言わせてほしい。
――僕だって必死だったんだよ!
………。
さて、長く回想に耽ってしまった。
改めて僕は、目の前にあるドロップアイテムに意識を戻す。
まずは、アイテムを見境なく拾ってインベントリに格納していく。
色々なアイテムを捨てたりしながら、なんとか全て格納できた。
ちなみに、普通は、ドロップアイテムはパーティーの頭数で山分けになるらしい。
『らしい』というのは、僕はこれまでまだパーティーというものを組んだことが無いから、わからないのである。
そして、この魔物は、拡張パーティー――つまり、ふたつのパーティー合同で組んだ、十二人のパーティーで挑む多人数用のボスらしい。
ドロップアイテムは占めて36個。
となれば、普通は一人につき、三個もらえる程度となる。
なお、このとき、どのアイテムがもらえるか? は、運ゲーらしい。自分が入手できるアイテムは自分の視界に表示されるとのことだ。
しかし僕はこの魔物を一人で倒したので、それらのアイテムが全部僕の視界に表示された、というワケだ。
なんだかすごくリッチな気分。
しかも、である。
今しがた、ブラウザーウィンドウを開いて調べてみたところ、なんと、どうやらこのダンジョンは未発見のダンジョンらしい。
出てくる魔物のレベルも130前後ということで、攻略サイトを見ても、このレベルの敵は、現状で最高峰である。
これは、なんだか大変期待ができそうだ。
我知らず、胸が高鳴ってしまう。
よし、とひとりごち、僕は遂にインベントリに目を落とした。
どれどれ……。
アイテム欄をスクロールしていくと。
「おお……」
思わず声が漏れる。
なかなかすごいラインナップである。というのも……。
■名称: 【絶夢】
・種類: 【武具】
・等級: 【神話級】
・区分: 直剣
・攻撃力: 斬…1315/闇…481/氷…236/睡眠…43
・付帯効果: 攻撃対象に高確率で【付徴:絶夢】状態を付与する。/特定モーションの攻撃時【付与:夢幻の残滓】を自動発動する。/装備中、装備者に称号【絶夢の主】を付与する。
■名称: 【黒龍騎士団の徽章】
・種類: 【魔術具】
・等級: 【伝説級】
・付帯効果: 知能…240加算/【魔術具】によるステータス上昇量を大きく増加する。/【黒龍】系魔術の効果を大きく高める。/【黒龍】系技能の効果を大きく高める。/登録中、登録者に称号【黒龍に連なる者】を付与する。
・術式負荷: 800
■名称: 【???】
・種類: 【魔術具】
・等級: 【伝説級】
・区分: 要鑑定アイテム。
などなど……なんだかよくわからないが、すごそうな効果や数字、文字がたくさん並んでいるのである。
『要鑑定アイテム』というのも幾つかあって、これは、どこかで『鑑定』というアクションをしないといけないのだろうと推測する。
はぁ、それにしても。こんなに文字が書いてあるアイテムを見るのは初めてだ。
社会人になって、ゲームから離れがちになってしまったものの、僕もやはりゲーマーの端くれ。
改めて、これだけたくさんの効果や数字のある珍しそうなアイテムに、思わず顔が綻んでしまう。
ほくほくとした気持ちで、改めてインベントリの確認に戻る。
上から順にみていってもらちが開かないので、レアリティ順にソートしてみることにする。
すると……。どうやら、36個のアイテムのうち、12個は素材アイテムのようだ(素材だとしてもレアリティは相当高い)。そして、残り24個のアイテムは、次のような内訳だった。
【神話級】アイテムが2つ。
【伝説級】アイテムが5つ。
【秘宝級】アイテムが8つ。
【宝物級】アイテムが4つ。
【祝福級】アイテムが5つ。
どれも見たことが無いレアリティだ。
ブラウザーウィンドウで開いた攻略サイト片手に確認すると、どうやら現在このゲームで確認されている最高レアリティが【伝説級】であり、次いで 【秘宝級】、【宝物級】、……となっているらしい。
そしてなんと、【神話級】というランクは、そもそも攻略サイトに載っていなかった。
「マジか……」
未発見のレアリティのアイテムが、なんと2つも。
たぶん、……相当すごいことだろう。
さらに調べると、どうやら複数パーティー前提のボスからのドロップアイテムには、抽選枠というものがあるらしい。
どうやら、本当にレアなドロップアイテムは、その枠からしか出土せず、そしてその枠も、パーティ全体のドロップのうち、多くても3枠ほどしかないらしい。そしてその枠の中からレアドロップが選ばれる確率も、最高レアの場合は一万分の一とかなのだという(とはいえMMOなので、多数のプレイヤーが抽選することにより、それなりに出土はするもよう)。
この【神話級】アイテムは、この最高レアのアイテムなのだろうか……?
色々とわからない事がたくさん出てきてしまった。
まぁ、追い追い色々調べていけば良いだろう。
僕は、気まぐれに、【絶夢】を実体化してみる。
それは、細身の、美しい長剣だった。
グリップと鞘に繊細な飾りがあり、どうやら魔術が刻まれているようである。
刀身は吸い込まれるような白銀。わずかに冷気のような靄を漂わせている。夕日にかざすと、鮮やかに陽光を反射し、キラキラととても美麗である。
これは、早く使ってみたいといわざるを得ない。