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12 【白焔の大奔流】

 そこからは、集中砲火だった。


 拘束されたユメちゃんは、集中砲火の渦中にあった。

 地に伏した格好で、鎖で縛られて動けないでいるユメちゃん。


 そんな彼女に向けて、石つぶてやナイフ、矢やボルト、色とりどりの魔法といった、ありとあらゆる遠距離攻撃が周囲から放たれ続ける。


「指数500、平均63!」

「指数800、98ダメ! 物理オーケー!」


 土埃やエフェクトが大量に立ち起こり、もはや、ユメちゃんがどうなっているのか、こちらからは全くわからない。

 ただ、ときおり「痛っ」とか、短い(うめ)き声が上がり、それがかすかに耳に届く。


 セイルさんと安城さんはといえば、攻撃は取り巻きに任せ、ただこちらを冷たく観察するのみだ。


 猛烈に沸き上がる、黒い感情。


「おまえらあああ――ッ!!」


 僕は、思わずそう叫んでいた。


 たぶん、この人たちは――、コイツらは、ユメちゃんに加減した攻撃を仕掛けることにより、彼女のステータスや耐性を確認している。

 そして、取り巻きの、おそらく【大罪人】の状態にあるプレイヤーたちにそれらを任せ、自らは手を下すことはしない。

 それにより、彼らの『無辜(むこ)のプレイヤー』という立場は守られる。


 こんなことがあっていいのか?

 こんな、ルールを悪用するような行為が許されていいのか。


 許されていいのだ。

 そういうゲームなのだ。いま眼前の光景が成立していること自体が、そのような行為が『許されている』ということの証左なのである。


「基本属性OK、特殊属性いくぞー」

「デバフ掛け直せ!」


 では、僕はどうすれば良い?

 状況を、どうすれば打開できる?


 変えられない。


 僕がいくら叫んでも、変えられない。

 もがいても、変えられない。なぜか?


 たぶん、僕が弱いから。

 ひとえに、このゲームにおいて、僕が弱いからだ。


 僕は、未だに()()()()()()()()()()()()()のだ。


 ――【領域:精霊王の勅令】、すなわち、システムコマンド実行禁止。

 ――【沈黙】、すなわち、魔法詠唱禁止。

 ――【部位欠損:右腕部】【部位欠損:左腕部】、すなわち、アイテム使用大幅制限。

 ――【太陽の審判の鎖】、すなわち、行動不可。


 僕に付与された、あらゆる状態異常(バッドステータス)

 効果時間のある状態異常(バッドステータス)も、その残秒数がゼロになったとたん、間髪を置かずに次の拘束がかけられてしまう。


 文字通り――本当に文字通り、僕は何もできない。


 僕が弱いから、僕はこの状態異常(バッドステータス)を打破できない。

 そもそも、僕が弱いから、僕がこの状況を招いてしまったのだ。


 それでも思う。


 助けないと。

 何か助ける方法はないか?

 何か、この状況を打破する方法はないか?


 そして、再認識する。


 打破する方法は、ない。

 僕には、何もできない。


 音声入力でインベントリを何度も探ってみるが、すべての選択肢がグレーとなっている。

 システムコマンドも、ロックされている。


 いつしか周囲に集まっている野次馬プレイヤーたち。

 視界ショットや動画を撮る者たちこそ()れど、助けに入るプレイヤーはいない。


 モニターされた感情によって、知らぬ間に、アバターの目尻に涙のエフェクトが浮かぶ。


「耐性確認おわり!」

「おし、次行くぞ、体制整えろ!」


 ログアウト、しよう。

 一度ログアウトして、対策をゆっくり考えるのだ。

 ユメちゃんがゲーム内に残ってしまう可能性もあるが、それとて受け入れるしかない。


 思考が黒く塗りつぶされる中、ログアウトの単語を口にしようとした矢先――。


「行動確認始めるぞ、拘束解除しろ!」


 そんな言葉が発せられ――ユメちゃんを縛っていた鎖が、フッと消えた。

 土埃が収まり、その中から、ユメちゃんがよろよろと立ち上がる。


「ううっ……」


 呻き声。

 ボロボロの装備。

 その体力は、3割を残すばかりだ。

 表情は伺えない。


 そんな彼女に、敵方から何かが投げつけられた。


 パリン、バシャ。

 効果音と共に、赤い液体がユメちゃんに掛かり――彼女のMPが回復した。


 つまり、投げつけられたのは、MP(マナ・ポイント)回復ポーションだ。


 ――Q、何をする気だ?

 ――A、たぶん、『行動確認』。つまり、AIの挙動や、魔法、技能を見るつもりなのだ。


 そんな思考がよぎる中、ユメちゃんが自身のMPの回復を認識する。

 そして、ユメちゃんが敵方を見据え、吼えた。


「ぅぅぅぅああああああああッッッッ!!!!」


 ――ユメが技能【鬨の咆哮】を発動しました。

 ――ユメが魔法【夢幻の祝福ゴッドブレス・オブザファンタズム】を発動しました。

 ――ユメが魔法【強化(リインフォースメント):致命攻撃確率強化・剛弐】を発動しました。

 ――ユメが魔法【強化(リインフォースメント):状態異常付与確率強化・剛壱】を発動しました。

 ――ユメが魔法【付与(エンチャント):夢幻の顕現】を発動しました。

 ――ユメが魔法【絶夢の理法】を発動しました。


 ひとしきりの強化の後、ユメちゃんは目を見開いて、身をかがめ――。


「――へあッ!?」


 敵方から、呆けた声が漏れる。

 その声を漏らした敵対プレイヤーの、唖然とした顔――。


 ――が、宙を舞っていた。


「やべえッ!」

「【咆哮(ハウル)】ッ!!」


咆哮(ハウル)】の半透明なエフェクトが、安城さんから放たれる。

 ユメちゃんが片手を振るい、――そのエフェクトが手甲(ガントレット)に弾かれて消滅する。


「クソッ、効かねえ!!」

「【灼焔の】――あぐッ」


 別方向から魔法を詠唱していたプレイヤーの体に、三本の赤い線が刻まれる。

 斬撃ヒット時のエフェクトだ。

 (くずお)れる体躯(アバター)


 剣を振り抜いた姿勢のユメちゃん。

 その獰猛に見開かれた目が、近くの短剣持ちのプレイヤーを捉え。


 再び彼女の姿が消え――次の瞬間、そのプレイヤーの頭部が【絶夢の残影】の白刃に貫かれていた。


「全員戻れえッ!」


 セイルさんの合図とともに、残りの5人が流れるようにセイルさんの周囲に集まる。


 轟音と共に、ユメちゃんの攻撃が防がれる。

 立ちふさがるのは、やはり安城さん。そして、もう一人の大盾持ちプレイヤーが補佐的に立ち、セイルさんたち数名を守る体勢だ。


 ――セイルが魔法【太陽の庇護の光壁】を使用しました。


 敵方プレイヤーたちが、ドーム状の光に覆われる。

 力任せに振り抜くユメちゃんの攻撃も、鈍い音と共に光壁に防がれた。


 セイルさんが、傍らのプレイヤーからの耳打ちに応じ、周囲に目を走らせる。

 そして何かに気づいた様子で、苦々しい顔で舌打ちした。


「潮時か……。どんなだ?」


 光壁を破壊しようと猛攻を重ねるユメちゃんを横目に、セイルさんは(かたわ)らのノズさんに尋ねる。


「耐性OK。行動3割、魔法と技能は微妙だけど――」首を振るノズさん。「この有様じゃなあ。ま、対策立てるのには十分なんじゃねえの」

「よし、御の字だな。あとは【白焔】だけ確認して終わろう。皆、お疲れ~」


 ――セイルが【消費具】【天樹の癒しの雫】を使用しました。


 彼を中心として発せられる光と共に、いましがた倒れた3名のプレイヤーが、再び立ち上がる(体力が5割に回復している。復活アイテムだろう)。


 ユメちゃんが、復活したプレイヤーへと標的を移す。

 それを見た光壁内のプレイヤーが、杖を掲げた。


 ――カシューが魔法【強化(リインフォースメント):特殊効果付与確率強化・玖】

 ――カシューが魔法【暗骸の捕縛の枷】を使用しました。


 再び現れる黒球と、そこから(ほとばし)る闇色の鎖。

 その鎖が、駆け出したユメちゃんを捕らえ、彼女はこちらにうつ伏せに倒れ込んだ。


 更に別のプレイヤーが、大杖を振るう。


 ――百舌鳥が魔法【局所因果逆転】を発動しました。

 ――百舌鳥が魔法【白焔のフラッド・オブレプリケ大奔流イテッドホーリーフレイム】を発動しました。


 立て続けに流れるログ。それと共に巨大な白い紋章が地面に描かれ――。


 ――ドッ。


 と、白く輝く炎の壁が天高く立ち昇った。


 ユメちゃんもそれに気づき、「あ……」と声を漏らし、僕に向けて手を伸ばした。


「ま、ますたー……」


 白く輝く炎は、頭上で大きくこちらへとその舳先を(もた)げ、僕たちへと迫る。


 眩い光。


 その逆光で判然としないが、しかしユメちゃんの視線は僕を捉えていた。


 見開かれた目。


 ――にげて。


 呟かれる言葉。

 差し伸べられた手。


 それらがもろとも、白炎の波濤に飲み込まれ。

 彼女の、残り3割の体力ゲージが、一瞬にして削り取られた。



 ――【絶夢】が破損しました。



 そんなログが、視界を流れ、消えた。


 *


 ――ミカンが【領域:決戦の契り】を破壊しました。

 ――ミカンが【領域:精霊王の勅令】を破壊しました。


 白炎の波濤は、ユメちゃんを飲み込んでなお飽き足らず、こちらへと迫りくる。


 死の間際に起こると聞く、思考の加速によるものだろうか。

 僕にはその動きが、スローモーションのように、ひどく緩慢に見えた。


 ゲームのものとは思えない、ひどく恐ろしく、しかし美しい光景。

 それを眼前に、僕は、死んだ、と思った。


 ――ふわふわねこが【銀の戦士の誓い】を発動しました。

 ――ふわふわねこが【強化(リインフォースメント):硬質化】を発動しました。

 ――ミカンが【強化(リインフォースメント):基本属性耐性強化「炎」・剛壱】を発動しました。


 ふいに、ひとりの人影が眼前に立ちふさがる。

 彼は、僕を守るように大盾を構え、白炎の波濤を受け止めた。


 ――ふわふわねこが【ワイド・ガード】を発動しました。


 激しい効果音。

 眩いエフェクト。


 それらが全ての感覚を塗りつぶす中、僕の体を抱え上げる腕の感触があった。


「助けに来た。申請に同意しろ。いま死んだら、持ち物が全体公開(パブリック)でドロップするぞ」


 耳元でそんな言葉が囁かれる。

 同時、視界に表示される、被ハラスメント警告と、――パーティー招待画面。


 ――オルゼットがあなたをパーティーに招待しています。

 ――同意しますか?


 僕は、半ば無意識に、肯定の意思を呟く。


 ――オルゼットのパーティーに参加しました。


「よし。転移するぞ。……きみ、よく耐えたな」


 ――オルゼットがシステムコマンド【拙速な帰還の標イミディエイト・テレポーテーション】を発動しました。


 *


 --------

 0772 名無し

 >>563

 塔たぶん全部で18本 雲の中まで突っ込んでるのがそのうち5本

 いま名前がわかってる塔は4個で、うち折れてないやつがそれ

 【天穿つ塔】

 【天聳える塔】

 【手折れし天屹立する塔】

 【手折れし天昇る塔】

 とりあえず今のところ全部ダンジョン

 【セイレーン】【龍の吐息】あたりが穿つ塔先行してるらしい

 折れてないやつは、魔物のレベル100前後


 0773 名無し

 まとめ感謝


 0774 名無し

 >>772

 サンクス

 レベル100超えはやべー


 0775 名無し

 だいたいダブルかトリプルらしい

 12人集めるのキツすぎw


 0775 名無し

 (´・ω・`)んおお……

 (´・ω・`)クランゲー加速してるわね


 0776 名無し

 あああやってるよシンシャ

 これはひどい

 [動画] [動画]


 0777 名無し

 うっわ ひでえw

 いつもながら最低だなあいつら

 てかなんかすごい死んでないか?


 0778 名無し

 ええ…… ドン引きですわ


 0779

 外道 ユニークNPC始末されてますやん

 初心者くんあわれすぎるだろ


 0780 名無し

 一部始終見てた

 8人もってったのは【死王の裁きの代行】って魔法

 相手が【陰狼】で【大罪人】だったから特効決まったくさいかな?

 じゃないとレベル100越え8人もってくのはありえん

 他のはなんかよくわからん

 動画解析たのんだ


 0780 名無し

 うわー くそつえー

 死王ってのも初出?


 0781 名無し

 初出な気がする

 『代行』はいくつか既知かな?


 0782 名無し

 (´・ω・`)はえ~ 新要素どんどこ出てくるわね

 (´・ω・`)スレオンが捗っちゃう


 0783 名無し

 てか普通に物理で3人持っていってて笑った

 火力おかしすぎ


 0784 名無し

 初心者ちゃん……

 これ、普通に引退あるよな…… ちょっとかわいそう


 0785 名無し

 ひでえ 白焔まで出してんじゃん

 トラウマなるわこんなん


 0786 名無し

 うーん、同情しかない

 運営は反省してくれ

 保護してた払暁がメンタルケアしてくれてることを祈る


 0787 名無し

 まあないだろ……w

 弱肉強食 しょうがないね


 0788 名無し

 スレオンしか勝たん

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