01 【天貫く塔】
初めまして!
楽しんでいただけたら嬉しいです!♪
ドロップアイテムの山だ。
ドロップアイテムが、山のようになっていた。
【伝説級】の魔物【天貫く塔の黒龍】レベル135。
いま倒したこの魔物は、このゲーム【パラドックス・オンライン】の中で、現在明らかになっているうちでも1、2を争う最強格のボスであると思われた。
数えてみると、ドロップしたアイテムの数は、優に30個を超えていた。
「ハァ、ハァ……」
僕は、しばらく呼吸を整える。
VRMMOであるこのゲームにおいて、ふつう、息切れするということはない。
けれども、この【天貫く塔の黒龍】を倒すにあたって、僕は、ゆうに数時間もの間、いうなれば数百の針の穴に糸を通し続けるような集中を維持し続けていたのだ。現実の体はベッドに横たわっているだけなのだが、心持ちとしては、フルマラソンを走り切ったような、そんな恐ろしい疲労感である。
マジで疲れたあ……。
そんな風にぼやきたくもなる。
なぜ僕がこんな集中を維持し続けなければならなかったのか?
それは、単に【天貫く塔の黒龍】レベル135が恐ろしく強かったというだけではない(もちろんそれも多分にあるけどね)。
というのも、僕はといえば、このゲームを始めたてホヤホヤ。
まだ、たったのレベル18の状態なのだ。
なんという数奇だろうか? 改めて、僕は天を振り仰ぎ、今日の事を思い返してみる。
いつものように、会社から帰ってきて。
コンビニ弁当を胃に詰め込んで、意気揚々とVRアプリを起動し、このゲームにログイン。
そして、初心者向けのデイリークエストを消化しようとフィールドに出て――その矢先に、頭上から急に眩しい光が降ってきたのだ。
体を包む光。
次に気がついたら、僕はここ【拡張パーティーダンジョン:天貫く塔】という、全く知らないフィールドに飛ばされていた。
ダンジョンを構成するのは、黒くツヤ掛かった、ガラスにも似た材質。
それは今まで見たことのない高級感のあるもので。
巨大な柱の立ち並び、ところどころ緑が茂り、天高く伸びる塔は霧が掛かっていて、そんなとても美しい景色に感嘆の声をあげたのもつかの間だった。
メニューから、最初の町に帰ろうとしたところ、なんと、システムコマンド【帰還の標】――訪れたことのある町や村にテレポートできるコマンド――が使えないではないか。
そして、なんならフィールドマップも『真っ白』だった。
マップが『真っ白』――つまり、ここはもと居た場所から遠すぎて、既存のプレイヤーによる開拓も行き届いておらず、地図を見ることさえできない場所ということである。
僕は唖然とした。
何かの間違いかな?
しばらく現実逃避にボーっとしてしまったのもむべなるかな。
さて、気を取り直して、徘徊する魔物たちの目を忍んで、しばらくコソコソと歩き回り。
そのすえに、僕が思い至ったのは『死に戻り』という選択肢だ。
他にも、ログアウトしてログイン。
色々試したのだが、結論から言うと、全部ダメでした。
泣きたい。
まぁ、とにかくひたすらコソコソとして、魔物に見つかっては一撃で倒され、最初の地点で目が覚める。
どれくらいそうしてさまよっただろうか?
やがて、セーブポイントがあった後に、広い空間に行き当たったのだった。
だだっ広い空間。
ところどころ、崩れた柱が横たわっていたりしている。
どうやら、塔の最上階にたどり着いたようだった。
床の黒い材質には、何やらキレイな紋章らしきものが描かれている。
遠くの空は、夕暮れに沈みかけた太陽から鮮やかな西日が射しこんでいて、とても幻想的だ。
そして……はあ、余り思い出したくないのだけれど、そんな幻想的な景色から、ポツンと黒い影が染み出してきて。
にわかに近づいてくるそれは、巨大なドラゴンだったのだ……。