九条アリス
不景気真っ只中。若いと言うだけで仕事がなる訳でもなく、先進国だった日本ですら掃いて捨てるほどにホームレスが溢れてしまった。
馬鹿な私には結局なにがどうしてこうなったのかは分からない。
そして、私もその掃き溜めの中に片足を突っ込んでいる。
18。一般的な家庭で育ち、特に秀でた才能は持ち合わせず、頭も並。決して裕福では無いから高校を出たら直ぐに就職して、どうにか生きていかなければならないのに、その就職が出来ずもう桜が散る。
今や大学とは金持ちだけが通うような特権のようになってしまっている。
娯楽も減った。
一昔前はどんな人でも夢を追いかけることは出来たそう。音楽、絵画等の芸術や動画などを作るクリエイターも多かったという。
それらも消費する人が居たから成り立っていたけれど、人々はそれらを消費するどころか手に取ることすら困難になってしまった。
見た目が良ければモデルという仕事もあったらしいが、残念ながら私は生まれる時代を人世代遅れてしまったらしい。
美醜なんて関係ない時代なのだから。
私は人から好意を貰うことが多かったけれど、それは顔が良かったから。それの恩恵も学生の間だけで社会にはなんのステータスになりはしなかった。
「はぁ、どうしよう」
感触の良くなかった面接が終わり、スーツを着たまま街を歩く。
家に帰ったところで窮屈な空気と、言葉にして言われはしないが、「またか」「まだなの」という言葉が聞こえてくる。
私ではどうしようもない事じゃない!そう叫んでしまいたいし、叫べたら楽になるかもしれないが、家は追い出されるだろう。
「苦しいなぁ」
「あら、それは大変ね」
河川敷へ続く石階段に座り込み、働いていない事、これから先の未来の暗さに私自身がどんどんと蝕まれていく。
そんな感覚に押しつぶされて思わず出た言葉に凛と有象無象の声とは一線を画す声がした。
私はそれを声と認識できずに、ゆっくりと音のした方へ向く。
そこに居たのは、およそ人とは思えない………じゃなくてもう1人の私が居た。