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第六話 掛け違い

ブクマと☆よろしくお願いしてくださったら学校のテストを差し上げます。助けてください。


そろそろ旧編と合流します。まあそのあとすぐに別れるんですけどね。

(ダン視点)

「ふう…」


 溜息をつきながら彼は来客用に館の入口においてあるソファに沈む。


 彼はさっき倒れてしまったアイクを館に急いでおぶってきた所だ。もっとも今は血相を変えたナーナがアイクを連れて行ってしまったので手持ち無沙汰だが。


 彼は今、入口で休んでいる。



 彼は思う。


 まあ多分アイクのことだろうしすぐに復活するだろう。他の人よりも数年早く、学校にはいる前に魔術を教えるのだからこれぐらいはやらねば。きっと数年後には理解をしてもらえるだろう。もっとも今はキツイだろうがな、と見当違いのことを。


 彼は自らの息子が神童であることを疑っておらず、頭の良さも基礎体力に関係すると本気で思っている。

 だが彼の境遇を考えれば無理もあるまい。



 そもそもこの世界では、頭の良い子は体力と生命力も高いと本気で信じられているのだ。



 それにそれ以上に、ダンの頭の中は訓練で一杯なのだ。



 魔術をする上で最も大事なのは、基礎体力だ。魔術の練度も大切だが、それ以上に肉体と体力が重要なのである。


 体に溜まっている魔力。

 その放出には体力と筋力が必要なのである。


 魔力の膨大な放出に耐えられない体のまま攻撃魔術や天候魔術などの大きな規模の魔術を使ってしまうと、肉体が耐えられないのだ。


 現にティルスでも魔力事故が後を絶たない。


 全盛期をとうに過ぎた魔術師が衰えた体で魔術を使用したり、まだ年端もいかない子供が無理をしてその生命を落とすのである。


 それに魔力事故は、アイクの爺さんであるダンの父の命を奪った事件でもある。


 魔術とは、とても危険な術なのだ。


 故に彼の頭の中は、まあ、神童と呼ばれるほど本を読み始めるのは早かったし、これぐらいはなんとかなるだろう。訓練を再開せねば。


 という考えで支配され、もはや他のリソースを割けないでいるのだ。


 彼が魔術で作り出した水を飲んでいると、入口にエリナがやってきた。


 彼は立ち上がり、嬉々として訓練を再開しようとする。


 だが彼は気づく。

 アイクが居ないことに。


 エリナが泣いていることに。


「あれ?アイクはどこに――」


 パアン


 甲高い音が鳴り響く。


 頬に劈く痛みによって、それが彼がビンタされた音であることを理解するのに時間はかからなかった。


「あ?」


 彼は困惑する。なぜ俺は殴られたのか?と。


「何をしているの!アイクを殺すつもり?」

「あ?俺は訓練をしただけだぞ」


 エリナはぼろぼろ涙を流す。

 それもそのはずである。


 旦那を信用して送り出したはずの息子は、旦那の手によって死にかけて帰ってきたのだ。


「何が訓練よ!あれは虐待よ!」

「虐待だって?あれが?」


 彼の宗教はこの世界の人族の中でも最も有名なダーリア教。

 ダーリア教の禁忌と言われる三大大罪は、


 強姦、詐欺、そして虐待の3つ。


 それをしたら一週間、夜の間にしか飯を食べられなくなる。浄水した水分も飲むのを禁止されるのだ。

 しかし今はそんなことどうでもいい。自分の妻が、禁忌を口にしたのだ。


 確かエリナは教徒ではないが、何故?


 あれが、虐待?

 いくらエリナでも言って良いことと悪いことがあるだろう。


 ショックに沈む彼を尻目に、エリナは続ける。


「そうよ!虐待よ!あ、あなたダーリア教でしょ?息子にそんなことをして良いと思っているの?アイクはあのままじゃ危なかったのよ!」

「危ないって、何が?」

「命がよ!アイクの!何?まだわからないの?エドガーが回復魔術を掛けてくれなかったら本当に危なかったのよ!」


 そこで彼は気づく。


 あれ?これ大事じゃね?と。

 そして、神童という言葉に踊らされてとんでもないことをしてしまったと痛感した。


 青くなるダンだが、それを意に介さずにエリナは怒鳴る。


「あなたが調子にのって決闘か何かしたんでしょ?それでアイクをあんな状態にさせておいて、なんでそんなにいけいけしゃあしゃあとしていられるの!?」

「いや待て待て待て待て!俺は決闘なんかしていない!本当に何もしていない!」

「嘘をおっしゃい!何もしていなかったらアイクはあんな状態にならないでしょうが!」


 エリナはなにやらものすごい思い違いをしているらしい。

 それに思い立ったダンは泣くエリナの肩を掴み、揺さぶる。


「俺は本当に決闘でアイクを痛めつけたり、俺が自ら進んで虐待をしたりは絶対にしない。聖ダーリアの元に誓うよ」


 その言葉を聞いたエリナは泣き止む。


「ほ…ほんと?」

「ああ、本当だ。俺はエリナにそんな嘘をついたりはしない」

「じゃ、じゃあなんでアイクは…」

「俺がアイクを山で走らせていたらこうなった。すまない。俺が思い違いをしていたらしい。ついアイクが神童だからって無理をさせてしまったかもしれない」


 彼は一生懸命エリナの目を見つめる。


「で、でも…」

「本当だ。恐らくアイクの魔力は恐らく固まりかけだ。早く詠唱練習を始めなけれれば、闘気を纏えないどころか最悪全ての魔術が使えなくなる。だから俺は父さん直伝の方法で訓練をしたまで。俺は倒れれば倒れるほど魔術師は強くなるって教わったもんだからね。だが年端もいかない子供にそんな運動が耐えられるわけがなかったんだ。それがいけなかったんだろう」

「父さんって、ソリドお義父様?」


 エリナは上目遣いでダンを見上げる。

 ダンはそれを見て、雰囲気を読まずに自分は果報者だなと思うわけである。


 それと同時に、伴侶をここまで心配させ、かつ息子を死にかけさせた自分の弱さを実感する。

 なぜこの2人に俺は訓練内容を事前に話さなかったのか。


 彼の頭の中は後悔で埋め尽くされてしまった。


 だが、今はひとまずエリナに弁解しなくてはならない。


「ああ。そうだ。要するに俺は虐待したつもりはないってことだ」

「それじゃあ、私はそれを知らずにあなたの頬を…」

「いや、いいよ。何も訓練の内容を言っていなかった俺が悪かった。エリナの行動は当然のことだ」

「そ、それでも…ごめんなさい…」


 エリナが露骨にシュンとする。まるで耳を垂れている犬のようだ。


「良いよ。分かってくれるならそれでいい。何度も言うけど俺が悪いんだ。それでアイクはまだ寝ているのか?」

「あ、ええと、そうね。まだ寝ているわ」

「分かった。あいつが起きるまで俺はそばにいるよ」


 彼はそういうと、ゆっくりと館の奥に歩いていった。


 エリナが見た彼の後ろ姿は、沈んでいた。



 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼



(アイザック視点)


「う〜ん…あれ、もう夜か」


 ベッドから起き上がると、あたりはもう暗くなっていた。

 何が起こったんだっけ。


 俺は思慮に耽りながら身を起こす。


「う…いてててて」


 頭がガンガン鳴ってる。ズキズキする。

 ええと、ああ、そうか、俺倒れたのか。


 なんて考えながら前を見つめると、めちゃくちゃ申し訳無さそうなダンが。


 ありゃりゃ?


 流石に敵対トリガー引いたとかでは無いだろうけど、ダンのさっきの態度的に俺が倒れたらすごい起こりそうだけど…


「ア、アイク、無事か?」

「は、はい」


 急に話し始めたって、怖いって。

 何言われるかわからんって。


 ダンが立ち上がる。

 瞬間、俺は反射的に目をつむる。



 施設で上級生と喧嘩した拍子に頭を打って気を失った挙げ句、気がついてベッドで起き上がると先生からの拳が飛んできたのを思い出す。



 結局、こっちの世界も同じか…


 そう思いながら悲壮感に苛まれている俺の頭の上に、ダンは優しく手をおく。


 ぽん。


「すまん。アイク」


 あれ?殴られなかった。


「俺のせいだ。俺のせいでこんな…」


 ダンが、泣いている。

 わけがわからない。


 あんなにさっき、怒鳴って地獄のランを課してきたダンが、泣いている。


「すまない。お前があまりにも頭がいいから、基礎体力訓練にも耐えれるだろうと踏んでいたが、甘かった。本当に申し訳ない」


 ん?会話が成り立ってなくないか?


「そもそも勝手に訓練するって決めたのに直前まで内容を知らせていなかったし、今回は俺の落ち度しか無い。すまない。この罪は必ず償う」


 え?ええ…


「えと、大丈夫ですけど、僕が頭が良いからって基礎体力が他の人と比べてめちゃんこあるわけでは無いですよ?」

「ああ、本当にすまない…」


 ダンは申し訳無さそうに頭を下げる。


 いやでも待て、なんで魔術師なのにあんな訓練をしなきゃ行けねえんだ?てかなんでそもそも俺は魔術をしなくちゃなんないんだ?


「父様」

「なんだ?」

「あの、代わりと言っては何なんですけど、質問していいですか?」

「ああ、もちろんだ。何でも聞いてくれ」


 そういうとダンは胸をどんと叩く。律儀な男だ。俺の生意気な質問にも耳を傾けてくれるなんて。


「なんで僕は魔術の勉強をするんですか?」


 それを聞くと、ダンは目を見開く。

 そしてゆっくりと口を開く。


「そうだね、それを最初に話していない俺は父親失格だ」


 そう前置きし、ダンは俺の目を見ながら、話す。


「アイク、俺の職業はわかるかい?」

「…領主様、ですよね?」

「ああそうだ。俺はティルス領主だ。だからこそ、お前には魔術をしてもらわなくちゃならないんだよ」


「自治区の領主は、非常時には自らが自治区騎士団を率いて戦場に立たなくちゃならないんだ。今の領主は俺だが、ほぼ間違いなく次の領主はお前、アイクだ。だからお前には魔術をしてもらわなくてはならない」

「でも、別に戦場に出るなら魔術師じゃなくても良いのでは?」

「いいや、なにも魔術師になれなんて言っているわけじゃない。騎士にしろ何にしろ、体を硬化させる闘気や身体強化は必ず使用することになる。だから魔術の最低限の習得は絶対なんだ」


 なるほど。魔術を使うことによってフィジカルの強化もできるのか。


「じ、じゃあなんで僕は基礎体力訓練をしなくちゃならないんですか?」


 続けざまの俺の質問にダンは顎に手を当てて考え、口を開く。


「まず、お前の爺さんの話をしようか」

この世界の衛生概念や保険の概念はリアルとは比べ物にならないほど欠如しています。

魔術のせいで考える必要がなかったからです。


とりあえずダンのファンクラブ設立します。イケメンすぎるだろコイツ。

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