【第1話】 オレンジ色の少年たち
前刀歴二〇一六年、四月四日。
セカイの中心にあるギフ地区の某所。
二〇一二年まで中学校として使われていた校舎は、ムイを幽閉する施設と化していた。
校舎は、刑務所のように高い壁で囲われている。高さは三十メートルくらい。壁の頂上には、触れたらと考えるだけで『痛い』と知覚してしまうほど、刺々しい有刺鉄線が張り巡らされている。
その灰色の壁が邪魔になって、校舎の窓からも、屋上からも街の姿を見ることができない。見えるのは空に浮かぶ雲か太陽。たま~に飛行機。
外の世界から完全に遮断された校舎の教室で、今日も授業が行われていた。
教壇の前では、スーツを着た若い男が数学の教科書を左手に、右手にはチョークを持って喋っている。彼は普通の人間。授業を受けるのはムイで、男子が二十人で女子も二十人。
ムイたちは皆、上下にオレンジ色のジャージを着て、シャーペンを片手に静かに授業を聞いている。
「え~、では次に――」
スーツの男が先を言おうとしたタイミングで、キーンコーン……とチャイムが鳴り響いた。チャイムが鳴り終わると、男は教科書を勢い良く閉じて足早に教室を出ていった。
直後、教室にゾロゾロとスーツ姿の若い男女が大勢入ってきた。それぞれ食料や飲み物が乗った御盆を手に、それぞれがムイ一人一人の席の前に立つ。
教室では、オレンジ色のジャージに身を包んだムイと、控えめな色のスーツを着た男女。見ただけでハッキリと判る〝選別〟が成されたのであった。
スーツ姿の男女は、生徒たちに温まったコンビニの弁当、割り箸、オシボリ、ペットボトルのお茶(五〇〇ミリリットル)を機械のような動きで配膳していった。無表情で速やかに配り終えると、スーツ姿の男女たちはゾロゾロと足並みを揃えて出ていった。
教室がオレンジ色の軍団だけになった瞬間、中井澄春は大きく笑みを溢した。




