【5話】 闘いは……爆発だ
『主だから消すのも自由ってかー』
「出来ることを学習したんだろうな、今さっき!」
A子が投じた氷の壁を一つ、二つ飛び跳ねてかわしながら、武良は慌ただしく言った。
「わりい岡部! 本気出す前に、ちょっとアレやってみる!」
『オッケー。サポートなら任せて』
タアン! とライフルが放たれ、A子がそれを氷の壁で防御する。それによって生じた刹那の隙に、武良は瞬間的に跳躍して、A子の真正面で右手刀を作った。
手刀でA子の心臓部を突きにいった武良だったが、A子は空中で木の葉のようにヒラリと動いて回避した。その拍子に、A子は己の右拳を一気に凍らせて、武良の顎にアッパーを放った。それを武良は咄嗟に両腕をクロスさせてガードする。
防護服が機能してくれたお陰で、アッパーを受けた両腕には微弱な衝撃が走るだけに留まった。しかし思いの外A子のアッパーは強力で、武良を更なる上空へ吹き飛ばしたのだった。
気付いた時には、A子が豆粒の大きさに見えるほど上空まで武良は吹き飛ばされていた。
(なかなかやるな……。けど、アレをやるには好都合ってやつだ……)
真っ逆さまに落下する中、武良は親指を立てた状態で、A子を右手の人差し指で差す。
(奴の心臓を……内部から……)
落下が進み、次第に大きくなってゆくA子の姿。ハッキリと見られる距離まで到達した時、真っ逆さまのまま、武良はA子の心臓部だけに集中して、それを正確に指差す。
熱源……多分それに気付いたのだと思う。A子は慌ただしい様子で両手に氷の壁を造り出して、落下する武良に投じてきた。かわしにいきたいところだが、アレをやるにはこのままA子の心臓部だけに集中しなければならない。
「岡部!」落下してゆく中、武良はA子の心臓部を指差した状態のまま叫んだ。
『分かってるよ!』
高速回転しつつ向かってくる氷の壁を、岡部がタンタアン! とライフルを連射……いや、岡部の特注ライフルは連射できない旧式仕様だったか。咄嗟に側のビルまで移動し、素早く連射可能な銃に持ち変えて連射して、氷の壁の軌道を変えてくれたのだろう。銃声は先ほどより近くから聞こえてきたし。
プライベートはさておき、戦いの場においては武良と岡部の信頼関係は厚い。岡部は必ず、A子が投じた氷の壁の軌道を変えてくれる。(アイドルの)自分がかすり傷すら負わない軌道に変えてくれる。武良はそう信じきっていた。だからA子の心臓部だけに集中して指を差し続けることができていた。
A子が投じた氷の壁は、武良の左頬と右腰にかすった。防塵マスクと防護服はえぐれるも、武良にはかすり傷すら付かない。
(よし……このまま……)
武良が人差し指で差し続けるA子の心臓部。
そこからキイイイイイ! と、耳を塞ぎたくなるほどの不快な高音が鳴り出した。すると間もなく、A子の心臓部に赤い光が外から内へ集約し、ピカリと眩い白光を放った。
瞬間、
ゴウッッッッッッッッッッッッッッッ!
大地を揺るがすほどの爆発が、A子を中心として起こった。超巨大な火球が、凍結した街の空を埋め尽くして、朱色に染めた。周辺に立ち並ぶ建造物のガラスが、凄まじい爆風に耐えられず次々と割れていく。しかし爆発の〝主〟である武良は、爆発の影響を、任意で一切受けないようにすることができていた。
(……成功っと……)
火球の側で、武良は宙返りをして体勢を整えてから、地面に着地した。超巨大な火球は内にしぼむようにして消滅し、ほんの一瞬だけ場を完全なる沈黙へと誘った。
まもなく、パキィン! というシャープな音と共に、街を凍結していた全ての氷が砕かれた。砂粒以下の粒子と化した氷の破片が、キラキラと街中に舞い降りる。その様はまるで、ダイヤモンドダストのようであった。
地面を覆い尽くしていた氷も無くなっており、足場は平坦なアスファルトへと戻って安定する。
「……どや?」
『A子は塵も残らず消滅したね。お疲れ』
それを聞いて、体の力が抜けた。武良はスクランブル交差点のど真ん中で座り込む。