【2話】 スマホってやつです
「では次に、これだ」
手のひらサイズで、長方形の黒い物体を権蔵に手渡された。受け取った瞬間、その黒い物体の表面にパソコンのようなモニターがパッと表示された。
「なっ……!」
中井は驚き、黒い物体Xを危うく落としそうになった。黒い物体Xに表示されたモニターには、カラフルな四角い箱(?)が規則正しく並んでいる。
「それは『スマートフォン』という代物だ。見たことぐらいあるだろう?」
「……ああ……。スマートフォンの存在自体、さっきまで忘れてた……」
中井はスマートフォンをひっくり返したりと、様々な角度で確認する。
「使い方は分かるか?」
「いや……」中井はスマートフォンの裏側を見ながら言った。
「まあ、本格的に普及し始めたのはおまえが幽閉された後だからな。使い勝手が分からないのも当然か」
すると、権蔵はスマートフォンを中井からヒョイと奪った。
「世界ではもう、持っていない者は居ない。生活必需品といってもいい」
権蔵はスマートフォンをいじりながら続ける。
「百聞は一見にしかずだ。おまえにはこれから住むマンションへ、このスマートフォンの地図を頼りに行ってもらう。まあ、スマートフォンのレクチャーのようなものだ」
権蔵はスマートフォンを中井に渡した。受け取ったスマートフォンには、地図画面が表示されており、『現在地』と『目的地』が『☆』でマーキングされている。
「その地図を頼りに、これから住むマンションへ行くんだ。訓練と比べたら、どうってことないだろ?」
「……ああ、分かった……」
地図を頼りに歩き出した中井だったが、権蔵が「おい」と呼び止めてきた。
「……何だよ……」
中井は気怠く振り向いた。
「重要なことを一つ言い忘れていた。明日から高校に通うことは、勿論覚えているな?」
「だから何だよ?」
「『ヒダネ』の駆除に忙しくなるだろうが、その忙しさの中で青春を送るのも一つの手かもしれんな」
それを聞いて、中井は思わず吹き出してしまった。
自分の娘を殺しておいて、よくもそういうことが言えるな、と。
「バカじゃねえの?」
思い切り軽蔑の念を込めて中井は言った。
中井はすぐさま権蔵に背を向けて、地図を頼りに歩き出した。