【3話】 目標の仮称A子さん
「随分とまあ分かり易い目標だな」
『仮称、A子ってことでヨロー』
「へいへい」
武良は踏みならした足場で身構える。
「おーし、それじゃ、ちゃっちゃと終わらせますか!」
武良は瞬発的にしゃがんだ。そして両足にグッと力を入れて、縮めた全身をバネのように伸ばして跳躍した。
分厚い防護服をバタバタなびかせながら、武良は一瞬にして高所で浮遊するA子の真正面へ到達。武良の跳躍力に驚いたらしく、A子は僅かに眉を開かせていた。
「もらったあ!」
武良は右手刀を作り、それでA子の心臓部を突きに行った。が、そのすぐ手前で……武良の手刀は、約二メートル四方の氷の壁によってガードされた。透明度の高い氷の向こう側で、A子が冷ややかな笑みを浮かべつつ、肩にかかったおさげ髪をサッと後ろへ払う。
(チッ……)
痛みと冷たさがセットになった指先と共に、武良は空中で何回転も宙返りして氷の大地に着地。ガキッと、氷の大地が武良を中心にしてひび割れる。
『息ついてる暇無いよ~』
「わーってるよ!」
武良は腰に刺さったマグナムを右手に取った。それに反応するかの如く、A子が先ほど出した氷の壁を、武良にぶん投げてきた。
手裏剣のように超高速回転しつつ向かってくる氷の壁――それを武良はジャンプしてかわす。氷の壁はホップして、凍結したコンビニの屋根に豪快に突き刺さった。その衝撃によって、近辺で微震が起こる。
「おー、あぶねえあぶね――」
え、と声を出した時には、A子が新たに造り出した氷の壁をぶん投げてきていた。大きさは先ほどと同じ。二メートル四方ぐらいか。しかも一つだけでなく、氷の壁を造り出しては投げ、造り出しては投げを繰り返してくる。
「マジかよクソ!」
高速回転して迫ってくるドデカイ氷の壁を、武良は氷の大地をスパイクでガシガシと削りながら、走り抜けたり、跳んだり、下をくぐり抜けたりと、適した手段でかいくぐってゆく。その度に、凍った街に氷の壁が次々と突き刺さる。
『珍しく防戦一方やね大将! 五秒後に仕掛けるよ!』
「オーケー!」
五、四……と心の中で正確にカウントダウンしながら、武良は氷の壁をかわしてゆく。
(三、二、一……)
ここで、武良は踏ん張って立ち止まり、右手に持つマグナムの銃口をA子に向けた。
〝ゼロ!〟
岡部と声を合わせた。同時、武良は発砲による凄まじい反動をものともせずに、マグナムを片手で撃った。武良が放った銃弾は正面からA子の喉を。そして遙か遠くのビルから放たれた岡部の銃弾は、背後からA子の心臓部へ一直線。
ほぼ同タイミングで二つの銃弾がA子を捕えた。かと思いきや、両方とも同時に、A子が己の前後に造り出した氷の壁によって弾き返されたのだった。それを見て、武良と岡部は「む?」と声を揃える。
「マグナム弾と」
『アタシの特注ライフル弾が、ああも簡単に弾かれた?』
ということは、あの氷の壁は他と違って超固いっちゅうことだ。




