【20話】 腕輪
「では、これもあえて言っておこう。世界の地区ごとに一人ずつ……つまりおまえを含む四十七人のムイが、地区の代表者としておまえのように選出されている。丁度今、おまえと同じ説明を受けているだろうな」
あの時も、そして今も権蔵が言った『あえて』に繋がる内容が少し気がかりだが、中井にはそれを深く考える気力など無かった。
「ヒダネの第二形態が出てくる数がピークに達するのは、今から一年後と予想されている。おまえにはこれから一年間、戦闘訓練を受けてもらう。そして一年後……第一形態のヒダネを駆除しつつ、第二形態となったヒダネを駆除することになる。いいな?」
「……ああ……だからいいって……」
「そうか」
権蔵は強く頷いた後、ふところから銀色の鍵を取り出した。銀色の鍵は、とても複雑な構造をしている。
「中井清春。右か左、どちらか捲って腕を出せ」
特に考えることなく、中井は利き手の右手を捲って差しだした。その右手首には、翡翠色の腕輪がはめられている。消失する中井とは対照的に、腕輪の至る所で、白光が電子回路のような模様の上を元気良く駆け巡っている。
「右か」
権蔵は中井の右手首に着けられた翡翠色の腕輪の鍵穴に、銀色の鍵を差した。カチッと音がし、腕輪は二つに分かれるようにして外れた。床に落ちた腕輪からは、模様の上を元気良く走っていた白光が消え去る。
「……は? 何して……」
中井は右手首と権蔵の顔を交互に見て戸惑う。
「半解放だ。本来持つ一騎当億の『異能の力』こそ取り戻せないが、半解放されたムイは、常人を超絶した身体能力を得られる。その状態で一年間訓練を重ねれば、ヒダネの第二形態であっても、難なく駆除できるほど強くなるだろう」
四年ぶりにスッキリした右手を、中井は開いたり閉じたりを繰り返す。
彼女さえ居れば、叫ぶほど嬉しかったのだろうが……。
今となっては虚しささえ感じていた。