表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
極東の神国  作者: 灰色坊や
【第1章】 外に出たいオレンジの少年
26/31

【19話】 ヒダネ


「『ヒダネ』を駆除するための訓練だ」


「……ヒダネ?」


 中井(なかい)が顔を上げると、丁度向かいの位置で権蔵(ごんぞう)がパイプ椅子に座っていた。


「おまえは知らないだろう。ここ四年間の世界を」


「……ずっと学校の中だったから当たり前だろ……」


 力無く答えてから、中井は再び床に顔を向けた。


「知っての通り、世界はムイが取り除かれたことで、過失犯を除くと犯罪は存在し得ない。人による汚れが一切無い『極東の神国』となっているのだ」


 ところが、と権蔵は繋げる。


「その代償がある。大きな代償がな」


 何となく、中井は察している。先ほど権蔵が口に出した『ヒダネ』というキーワードが関連していることを。


「世界では前刀(なぎ)(れき)二〇一三年以降……ヒダネという有害生物が湧くようになっているんだ。世界が汚れ無き大地を手に入れた代償らしい」


 すると、権蔵は一枚の写真を手渡してきた。

 その写真には、全身がぼんやりとした人の影を立体化させて、それを緑色に塗り上げたようなCGが写っている。緑色で人型のCGは、全体的に柔らかそうな丸みを帯びている。

 人型のCGは、何処かの浜辺でやや前屈みになって立っている。


「予めいっておくが、CGではないぞ」


 は? と中井は声を漏らした。


「それがヒダネだ。まあ一見、無害に見えるだろうが、接触してきた人間を襲う有害生物だ」


 何度見ても、ぼんやりとした人影を立体化させて、それを緑色に塗り上げたCGにしか見えない。


「今の世界では『ヒダネを目撃したら接触せず、速やかに警察に連絡すること』と忠告されている。どこから自信が出てくるのか、その忠告を無視してヒダネに挑戦して大けがを負う若者も居るが――」


 おっと、と権蔵は先の言葉を飲み込んだ。


「そういったことに関しては追々話してやる。今は置いておこう」


 権蔵は咳払いを挟んだ。


「通常のヒダネはセカイの警察でも対処できる強さだが、ヒダネは第二形態まで成長する。成長速度は人間の五倍。三年経つと……つまり人間で言うところの十五才になると、ヒダネはこのようになる」


 権蔵はもう一枚、写真を渡してきた。写真には一人の男子が映っている。虫さえ殺しそうにない、おっとりとした顔立ちの男子だ。人の顔が描かれた紫色のTシャツに、下はベージュ色のパンツといった格好だ。ぱっと見、中井と同年代ぐらいだろう。


「それも見たとおりの男子ではない。成長したヒダネの姿だ。そいつは前刀歴二〇一三年に誕生したヒダネだな」


 権蔵は一息入れた。


「第一形態のまま、全て駆除できればいいのだがな……。ヒダネは山の奥だったり、川の中だったり海の中だったりと、あらゆる場所に出現する。しかも少し放っておけば、人の居ない場所へ移動し続けるらしい。この広大なセカイで、な。そう考えると、全て駆除することは不可能に近い」


 そして、と権蔵は繋げる。


「第二形態へと進化したヒダネは厄介だ。何故なら人と同じレベルの知能を持ち、人智を超えた強力な力を持っているからな。その写真の少年も、駆除するのに相当手こずったらしい。そしてこれから、第二形態へと進化したヒダネがどんどん出てくることになる。そうなると、警察だけでは……そう、並のスペックしか持ち合わせていない人間では対処できなくなってくる。ここまで言えば、もう解るな?」


「……なるほどな……」


 中井は二枚の写真を権蔵に返した。権蔵は、写真をふところにしまう。


「要するに、これからどんどん出てくるヒダネの進化形とやらの駆除を、俺に頼もうってわけか……」


 中井は床に向かってため息を吐いた。


「分かった……やるよ……もう何でもいいって……」


 中井は投げやりに手をブラブラ振った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ