【17話】 これで終わり?
「それで? 何か話があるんでしょ?」
「ああ……」
中井は一呼吸入れた後、水尾としっかりと目を合わせた。
「ここから出るんだ」
中井がそう言うと、水尾は心底から呆れたような表情をした。今まで見せた呆れ顔とは違い、軽蔑するような眼差しを浮かべている。
「無理よ」
「無理じゃないって! 権蔵とか、スーツ組とか、あの高い壁とか、全て俺がなぎ倒して、おまえを外に連れてってやるからさ!」
無理よ、と水尾は冷静に首を横に振った。
「無駄にあがいて君も死刑になるのがオチね。君さ、そろそろ現実を見た方がいいわよ」
水尾の思想に矛盾するその発言に、中井は思わず「は?」と声を漏らした。
「おまえこそ何言ってるんだ? あの時、言ってたじゃないか! 人は常に、魂の火を絶やしてはならないって! 足掻けば人はやがてどうなるか解らないって! 諦めたら『終わる』ことが解ってつまらないって! じいちゃんが言ってたことの意味、俺のお陰で解ったって言ってくれたこと、嘘だったのかよ!」
「嘘じゃないわ!」
水尾も負けじと叫んだ。
「だったら何でそんなに消極的なんだよ! 色々な情報を抜き取ったのも、俺の『火』を見て、水尾も諦めずにここから出ようとしたからなんだろ?」
「それは……」
水尾は逃げるように顔を伏せた。それが図星をつかれたことによる反応だということは、確認するまでもないことであった。
「言いたいことはそれだけ?」
水尾は背を向けながら、静かに言った。
「それだけって……何だよ?」
「ここから出るとか、そういう絵空事ならもう止めて。私も最後の時間を無駄にはしたくないの」
そそくさと、水尾は部屋の中に消えていった。
「……は? 何だそれ? 水尾……おまえはこれで……終わりなのか?」
中井は部屋の中に呼び掛けたが、水尾からの返事は無い。
「終わり……なのかよ? ホントに終わりなのか? なあ?」
部屋から返事は無い。
「中井清春。もう諦めて、さっさと部屋に帰るんだな」
言うと、権蔵はこの場から去っていった。先ほどまで勢いのあった場は、シンと静まり返っている。
「何なんだよ……」
呟いてから、中井は水尾の部屋の扉を思いっきり蹴飛ばした。ガンッ! という轟音が、廊下に虚しく響き渡った。
そして翌日……教室に水尾葵の姿は無かった。