【15話】 死の唇
「ちょっと待てよ……『嘘』って答える約束だろ? なあ水尾――」
「本当なのよ……」
中井の言葉を遮るように、水尾は答え直した。その声は、とても震えていた。
「……誰から聞いたの?」
声を震わせたまま、背中を向けたまま、水尾は言った。
「昨日……権蔵と誰かが話してるのが『偶然』聞こえたんだよ……。水尾が色んな情報を盗んで、死刑になるって話……」
「そう……」
水尾はこちらに振り向いた。水尾は、うっすらと笑みを浮かべている。
「……何だよその無理してるって顔……止めろって……」
水尾の顔を見るに堪えず、中井は思わず水尾から目を逸らした。
「仕方ないのよ、もう……」
言うと、水尾は窓から外を眺めた。
「あーあ……。あまり良いこと無かったな、私の人生……」
フフッと、水尾は強引な笑みを付け足した。
「もう少しで十六才だったのに……。でも十五年……そう、十五年も生きたんだから、良いわよね」
「……良くないだろ……」
中井は近くの壁を右拳で思いっきり殴りつけた。
「良くないだろ! 全然! 折角……折角みんなが反応見せてくれて、これからって時に何なんだよ!」
壁を殴った反動で、中井の右拳から血が流れてきた。気持ちが高ぶっているため、痛みは全く感じない。
「何なんだよ! おまえ、ホントにそれでいいのかよ!」
「いいのよ……」
水尾は表情を暗く下げ、とても冷たい口調で言った。
「もう、どうしようもないの……。足掻いたって無駄よ……もう……」
ゴメンね、と水尾は物憂げに微笑み、中井と距離を縮めた。水尾はすがるような表情で、中井の顔を真正面からジッと見つめる。
「ねえ中井くん、キスしたことある? 無いわよね?」
言いつつ、水尾は中井に顔を近づけた。
「私も無いの……。だから、せめて、死ぬ前に一度……」
水尾がこれから何をしようとしているのかなど、中井にでもすぐに解った。
吐息がかかるほど顔が近づいた時、このまま水尾を受け入れると、水尾の死を受け入れることになり、全てが終わってしまうのではないか……。そんな恐怖心が中井を襲った。
「止めろ!」
気付けば、中井は水尾を拒絶していた。
「私とじゃ、嫌だった?」
水尾はとても悲しげに言った。
「違う……そうじゃない……」
大きく動揺したことによって、中井の視界はグルンと歪み、気付いた時には床に倒れ込んでいた。そのまま中井の視界は、フッと暗転した。




