【2話】 アイドルが怪我しないように配慮する相棒と……
右耳のイヤホンに通信が入った。
『ちょっと武良くーん。なに自分の顔に見とれてんの?』
元気の良い女子の声が、武良の右耳をつんざいた。やかましいなと武良は心の中でツッコム。
『武良くんが格好いいのは分かったからさ~。とっとと駆除してよー。寒いんやから、こっちはー』
「はあ? 寒さは感じねーべ?」武良は凍結した街中を見渡して、「街が凍結してるって視覚に捕われて寒く感じてるだけだろ? むしろ日差しがウザいくらいあっちい」
『ちーがうって武良くん。ウチは凍ったビルの屋上で腹ばいになっとるんやからさー。ライフル構えて。お腹が寒いんやって』
「あー、そういや直接触れたら冷たかったっけ」
凍った足場を雪山登山用のスパイクでゲシゲシ踏みならしながら、武良は答えた。小さく散らばった氷の破片は、クリアな美しさを保ったまま、太陽の熱を受けて溶けていった。
「つーか岡部。まず一つ訊いてもいいか?」
『えー? ナニ~? さっさと済ませてよ?』
あー、お腹が寒い、と岡部は付け足す。
「何でこんな格好なんだよ、俺」
全身には迷彩柄の分厚い防護服。着ぶくれして自慢の細マッチョが台無しだし、素材がゴワゴワしていて非常に動きづらい。
顔には、頭部まで覆い尽くすタイプのゴーグル付き防塵マスクを装着。自慢のアイドルな顔立ちと、苦労して肩まで伸ばしたキューティクルな茶髪が隠れて台無し。
靴は雪山登山用のスパイクで、腰には警棒一本とリボルバーマグナムが一丁刺さっている。
指の繊細な動きを可能にするためか、手だけは裸。
「ただでさえ暑いって日に……。顔も身体も蒸し暑いし……」
『アイドルの武良くんの体を考えてのチョイスだよ。怪我でもされたらヤバイっしょ?』
「……その配慮はありがたいけどさ……」
『いーじゃんいーじゃん、似合っとるで?』
「……動きづらいんだっつの……」
分厚く武装された動きづらい体で準備運動しつつ、武良は言った。
『えーと、住人は彼らの〝アレ〟で全員避難してるから、存分に暴れてねー』
「例の瞬間移動か。ホント、便利だな」
ここで、武良の準備運動が完了。
「じゃっ、岡部の腹が風邪引く前に終わらせるか」
広ーいスクランブル交差点のど真ん中で、武良はキッと空を睨み付けた。
十階建てのビルと同じぐらいの高さに、セーラー服を着た、どこにでも居そうな容姿の女子が浮いている。その、おさげ髪の女子は武良と目が合うと、冷ややかに微笑んだのであった。