表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
極東の神国  作者: 灰色坊や
【第1章】 外に出たいオレンジの少年
16/31

【9話】 最後の忠告


「失礼しまーす」


 適当な挨拶と共に、中井(なかい)は職員室に入った。職員室には沢山のデスクが立ち並んでおり、それぞれのデスクでは、丁寧にスーツを着こなした男女がカタカタとパソコンを操作している。

 彼らは外からの物資供給、授業、衛生班等を受け持つ『スーツ組』と呼ばれる人たちだ(中井が勝手にそう呼んでいるだけだが)。その生態は大人しく、仏頂面で警棒を振り回してくることはない。


 権蔵(ごんぞう)のように、迷彩服を着た自衛隊のような男たちには呼称が無い。彼らの気性は荒く、すぐに警棒を振り回してくる。まあ、そういった気性の荒さを見せたのは現時点では権蔵しか居ないが、壁付近を徘徊している者たちも、きっと権蔵のように仏頂面で警棒を振り回してくるに違いない。

 基本、迷彩服を着た男たちは常に壁付近を徘徊しているが、権蔵だけはずっと校内に居る。中井のようなムイに『指導』する要員として、であろう。


「おい、こっちだ中井清春(すみはる)


 職員室に足を踏み入れた瞬間、迷彩服を着た権蔵に呼ばれて、中井は職員室の応接間に向かった。応接間のソファーでは権蔵が相変わらず仏頂面で座っており、中井に向かい側のソファーに座れと顎を使って促した。


「何の用だよ、権蔵サン?」


 中井は権蔵の向かい側のソファーにドスッと腰をかけた。

 迷彩柄と、オレンジ色が、正面から向かい合う。


「話は単純だ」権蔵はしっかりと口を開いた。「もう、よせ」


 権蔵の言っていることが解らず、中井は黙る他無かった。


「聞こえなかったのか? 自分の身が可愛ければ、もうよすんだ」


「は? あんた何言ってんの?」


「そのままの意味だ」


 権蔵は無精ヒゲの生えた顎を擦ることで、独特な間を空けた。


「いいか? もう、野望を持つのはよすんだ。おまえの考えていることは分かっている。ここから出たいと思っているのだろ?」


「公言してることを『考えていることは分かっている』なんて偉そうに言われてもな」


 中井は頭を掻きながら、権蔵から視線を逸らした。


「どのみちおまえの足掻きは全て無駄に終わる」


「勝手に言ってろ。悪いけど、それで止まるようなタマじゃねーよ。知ってんだろ?」


「……そうか……ならば仕方あるまい……」


 言うと、権蔵は仏頂面のまま眉間にシワを寄せた。


(何だこいつ……。いつもと様子が……)


 しばらくの間、スーツ組がカタカタとパソコンを操作する音が場を支配した。


「いいからもう、明日からは大人しくしろよ、中井清春」


 権蔵は静かに立ち上がり、その流れのまま職員室から出ていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ