【7話】 人は火を絶やしてはいけない
「ホント、夢の無い奴……」
ボソッと言ってから中井は窓際まで行き、学校を囲う高い壁を眺めた。いくら目をこらしても、壁が邪魔してその先にある外の世界は見えない。壊しても外の世界が見えないような気さえするほど、壁の存在感は厚い。
「……なあ、ホントにあの壁の向こうって、街があるのか?」
「中井くんらしくないネガティブな発言ね。流石に諦めた?」
いや、と中井は首を横に振る。
「逆だ。ああやってドデカく構えてる壁を見直したら尚更やる気出た……ってやつかな」
水尾は何も言わずに中井の続きを待つ。
「俺は絶対、ここから出てやる。そりゃ、現実的に考えたら無理かもしんないけど……俺は最後まで足掻いて、最終的にはここから出てやる。どんな手段を使ってもな」
「そうね……」
水尾は極めて小さな声で言うと、スッと立ち上がった。そして、静かな歩調で中井に歩み寄る。真正面まで来ると、水尾はそのまま吐息がかかるほど顔を近づけてきた。
「な、何だよ急に……」
フワッと水尾の良い匂いがしたと同時、中井は後退りをして、発熱した顔を横に逸らした。その心中を察したのだろうか、水尾は邪険に微笑んだ。後に、水尾はクルリと反転して図書室に極小の竜巻を起こした。
「中井くんの言うとおりよ」水尾は中井から少し離れて、窓から外の方を見つめた。「他のみんなはもっと必死になるべきだわ」
そう言った水尾の焦点が、学校を囲う高い壁に合っていることを、中井は不思議と感じとっていた。
「人は、火を失ったら終わりよ。己の火をね」
「己の……火?」
ええ、と水尾は静かに答えながら、流れるように中井の方を向いた。
「己の火とは、魂の火。人は常に、魂の火を絶やしてはならない……。小さい頃、私のおじいちゃんがいつもそう言っていたわ。小さい頃は解らなかったけど、今なら解る。君のお陰よ?」
「俺の?」中井は己を指差した。
「ええ。この学校に幽閉されて、君の『火』を見て解ったの」
ふーん、と理解したように振る舞ったが、中井は全く解っていない。
「足掻けば、人はやがて……どうなるか解らないのに、諦めたら『終わる』ことが解ってしまう。そんなのつまらないわ」
水尾はクセ毛をいじりながら、外の方に視線を移した。
「ま、よく解らんけど、水尾も『火』を絶やしてないってわけ?」
水尾はフッと吹き出してから、
「それなりにね」