【6話】 オーサカの友人
「これが外れたら、異能の力でバーン! って壁を壊してこっから脱出するんだけど」
な? と同意を求める中井に、水尾は本を読みながら静かに首を振ってくれた。横に。
「悪いけど、もしそうなったとしても一日で捕まるわよ。私たちの情報は全て管理されてるからね。逃げる場所も無いし、指名手配されたら一時間持つかどうか分からないわ」
優しい感じの垂れ目で、冷ややかに言いつつ、水尾は本を一ページ捲った。
「だっからー、異能の力でバーン! ってやれば振り切れるっしょ?」
「あのね……」水尾は呆れ顔で言つつ、足を組み直した。「何度も言うようだけど、君、もう少し現実を見た方がいいわよ」
「へいへい、現実見ます現実見ます。夢が無いねー、水尾は」
口を尖らせながら中井は水尾に歩み寄り、本を覗き込んだ。水尾が読んでいる本は、世界の風景写真が特集されたもの。
(……また風景写真か……)
昼休みになると、水尾は必ず図書室で風景写真が載った本を読み漁るのだ。そういったところ、水尾も外に出たい気持ちが強いのだろう。水尾は決して口には出さないが。
水尾が今開いているページには、赤い蟹のロボットが屋根に貼りついたお店が載っている。その店は世界で有名だ。ここギフから遙か西にあるオーサカの『蟹道場』という料理店である。
因みに蟹のロボットの手足は、何と、驚くことに、ゆっくりと動くのだ!
「あっ、これオーサカの蟹道場じゃんかー」
「ええそうよ」
水尾はうっすらと口元を緩めて、どことなく嬉しそうに言った。
「オーサカに昔の知り合いが居るんだよなー。そいつ、幽閉される前はアイドルの研修生だったんだぜ?」
「へえ。キミにそんな知り合いが居たんだ?」
「まーねー。今度会えたら紹介してやんよ。あー、行ってみてー。たこ焼きも美味いんだよなー、オーサカって」
「お好み焼きもね」
「そーそ。行ってみたい――」
「無理だけどね」
水尾は中井の言葉を綺麗に遮断して、ページを捲った。