【4話】 もうちょっと反応してくれない?
幽閉されたムイには、とにかく娯楽が少ない。
朝は八時に起きて、八時半に決められた教室で朝食。
朝の九時から昼の十二時まで授業で、十二時から十二時半まで昼食。
そこから昼の一時半まで自由時間だが、学校の敷地内を歩き回れるだけで、テレビやゲームといった娯楽を楽しむことはできない。
だから一日中フリーになる土日祝日といった休日も、そこまで嬉しく思えないのだ。
最新のニュースも得られない。
図書室にある新聞や資料といった類のものは、全て前刀歴二〇一二年までの情報で止まっている。
そのため中井は、ここにオレンジ色のジャージ姿で幽閉されて、新しい情報を得られないまま、もう四年が経とうとしている。
だからムイが取り除かれたあの後の世界がどのようになっているのかさえ、中井には分からない。
知っているのは、ムイが取り除かれたことで世界では故意犯が存在しなくなっていること。
世界が〝もう一つの名前〟を得ていることぐらいだ。
「出たいよなー、こっから」
中井は、図書室の窓から外に向かって呟いた。ここからは学校のグラウンドが見下ろせ、学校を囲う高い壁も見える。灰色の壁は、これでもかと言わんばかりに街の姿を遮断していて鬱陶しい。
「邪魔だよな、あれ……」
壁を見る度に思う。あの壁の向こうには、どのような世界があるのだろうと。
「なあ水尾。あの壁、やっぱ邪魔だよな?」
「そうね」
水尾は気怠い感じで話を流し、本棚から三冊本を抜き取ると、側の席に本を積んだ。その席に水尾は、細い足をセクシーにクロスさせて座りながら、本を読み始める。その姿はまるで、こじゃれた美容室の待合室でファッション雑誌を読むモデルのようだ。
図書室には中井と水尾以外は誰も居らず、水尾がパラッと本のページを捲る音が聞こえてくるほど静まり返っている。
「自由時間だってのに、みんな自室に籠もるしさー。やってらんないっての……」
この学校に幽閉されているムイは四十人。ボール一つさえあれば、グラウンドで楽しく遊べるのだが……。
「みんな無気力なんだよな~。俺とおまえ以外はさ」
「そうね」水尾は本を読みながらクセ毛をいじった。
「てかさ、ドッジボールやりたくないか? みんなでやったら、すんげー楽しいぞ?」
「そうね」水尾は本を読みながらクセ毛をいじった。
「おまえ、そればっかりだな……」
フフッと水尾は冷笑しつつ、本を一ページを捲った。