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極東の神国  作者: 灰色坊や
【第1章】 外に出たいオレンジの少年
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【3話】  迷彩柄の男


「何だよ水尾(みずお)。おまえも相変わらず夢が無いな~」


 大声で言いつつ、中井は唐揚げが刺さった割り箸で水尾を指した。水尾は呆れ顔で、何度も小さく頷く。


「……そうかもしれないわね」


 気怠~く、冷ややかに言うと、水尾は目を瞑りながら静かにペットボトルのお茶を飲んだ。

 目が閉じられた水尾の横顔は、氷の彫刻で作られた女神のように透き通った美しさがあった。

 艶やかな唇をペットボトルにつけてお茶を飲む水尾の姿に、中井は唐揚げが突き刺さった割り箸を片手にボーッと見とれてしまった。水尾の喉の動きにも見とれてしまっていると、教室に迷彩服を着た男が入ってきた。


「また騒いでいたようだな、中井(なかい)清春(すみはる)


 と、迷彩服を着た男は、仏頂面でズカズカと中井に歩み寄る。精悍な顔立ちで、顎に無精ヒゲを生やしたその男は権蔵(ごんぞう)

 名字は不明。年も不明。パッと見で三十代後半ぐらい。権蔵はどんなときにも仏頂面を保っているため、表情が全く読めない。


「食事中は私語厳禁だぞ、中井澄春。破ったら暴行されても文句を言えない『ルール』があるのを知っているだろう?」


 仏頂面のまま、権蔵は中井の真横に立った。

 ルール……。そう。彼らはただ、ムイを合法的に傷付けたいがために、この檻の中で自分たちのルールを作っているのだ。


「中井清春、おまえという奴は、何度言えば分かるんだ?」


 仏頂面で言い、権蔵は腰に差した警棒を手に取って、それを中井に見せ示した。その時に、水尾は優しい垂れ目でキッと権蔵を睨み付けていた。


「まーた暴力かよ。『スーツ組』とは違って血気盛んだね、あんたは」


 中井は割り箸に突き刺さった唐揚げを口に放った後、両手を上げた。唐揚げを良く噛んで飲み込んでから、中井は仏頂面の権蔵を含みのある笑みで突き刺す。


「で? 今日は背中? 足? どこでもいいからさっさとやってくんないかな?」


 権蔵は眉間にシワを寄せ、警棒を振り上げた。そのまま振り下ろされた警棒は、中井の背中にヒット。ピシッと鋭く当たったが、もう何千と受けていて耐性があるため『ちょっと痛い』程度であった。


「早く懲りろよ、中井清春」


 ふん、と権蔵は鼻を鳴らした。権蔵は警棒を腰に差しつつ反転して、立ち去っていく。


「全然痛くないけどな」


 中井はボソッと呟いた。それが届いたらしく、権蔵はすぐさま反転して速足で中井のもとへ戻ってきた。

 仏頂面で中井を見下ろして、じっくりと睨みつけてから、権蔵は警棒を腰から抜いて大きく振り上げた。振り下ろされた警棒は、先ほどと同じ部位にヒット。蓄積された痛みに、中井は思わず顔を歪める。


(いったぁ~……)


 声に出すことなく、中井は苦悶の表情を浮かべて背中を擦った。権蔵はまたも鼻を鳴らした後、素早く背を向けて教室を出ていったのだった。


「へっへっへ、効かぬわ……」


 強がりながら、中井は唐揚げをヒョイと口の中に放った。


「うん、うまーっ!」


 痛みを忘れてモリモリと弁当を食べ進めていると、隣から水尾のため息が漏れてきた。


「何だよ水尾。ため息吐くと、幸せが逃げるって言うぞ?」


「ため息の原因になってる人に言われたくないんだけど……」


 水尾はクセのある髪の毛をいじることで、独特の間を空けた。


「とにかく、あまり無茶はしないでよね」


 静かに言うと、水尾は弁当を食べ進めた。

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