【1話】 凍り付いたオーサカにて
オーサカは凍っていた。
単純に、物理的に凍っていた。
道路、橋、車、信号機、ビルやコンビニといった建築物等々……ありとあらゆるモノが、ガラスのように透明度の高い堅氷に覆われている。
某プロ野球球団が優勝したときに人々が飛び込む道頓堀の川の水も、隙間無く凍りついて活動を止めている。
物理的な動きは見事に凍らせてはいるが、信号機の明かりや車のハザード、車道の電光掲示板や建物の明かりといった〝脈〟は止めていなかった。
所々に突起のある綺麗な氷は、アスファルトの地面から平坦と摩擦を奪っており、常人には立つのがやっとだろう。
オーサカの全てを覆い尽くす堅氷は、不思議と冷気を届けてくれない。四月下旬に襲来した季節外れの暑さが鬱陶しいぐらいだ。
確か報告書によると、直接触れれば普通の氷と同様に冷たいのだとか。そしてガラスのように透明度が高くて綺麗……なのは先ほどから嫌と言うほど肉眼で確認している。
「ったく、いっつもウザいぐらいにやかましい地元でも……」
いざ静かになられると、こうも不気味だとは思ってもみなかった。
うるさいオバチャンやオジチャンたちも居ないし、手の銃でバキュンと撃つと『ううっ!』と胸を押さえて倒れてくれるノリの良い人たちも、トラ柄の服を好むご婦人も、今は不在。
いつ何時もワシャワシャ動いている蟹道場のカニのロボットも、ドラムを叩いている縦じまの紅白の服着た喰いすぎ人形も、今日は(物理的に)休業らしい。
『腕輪の効果をきちんと理解して下さい――』
と、ビルにはめ込まれた液晶モニターだけ、氷の向こう側から場の沈黙を閉ざしてくる。モニターでは、今、ある腕輪の効果を、学ラン姿の現役男子高校生アイドルがCMを通して説明している。
『僕たちは腕輪によって××××××です。どうかご理解を。今、セカイが一つになる時です』
キリッと表情を引き締めて言うと、茶髪の高校生アイドル、武良真咲は力強く右拳を握った。そして間もなく、別のCMに移る。
「やっぱキマッてたな……」
顔ちっちゃい、顔立ち綺麗、目パッチリしてる、目キラキラしてる、女の子っぽい、スタイル良いよね等々。十七年間生きてきて、容姿については褒められた覚えしかない。そんな自分のアイドルな容姿に自画自賛せざるを得ず、武良は深く頷いた。
その時だった。