第5話 神社と謎の組織
~第4話までのあらすじ~
2028年2月29日。ベッドに飛び込んできた糸葉(妹)に起こされた響(兄)は、妹の身体が大きくなっていることと、昨日の午後からの記憶がないことに気付く。糸葉に勧められいつも通り学校に行った響は、「オトナ」と呼ばれる人々が出現したことを知り、好きだったクラスメイトである中野旗音がいないことに大きな衝撃を受ける。
結局その日は1日中、突然起きた異変について考えていたので、学校からの家路につくのは日没となった。3年間通り続けた、見慣れた帰り道。しかし響は、ある場所の前で足を止めた。
(こんな神社、あったっけ)
いや、神社自体は確かにここにあったのだ。大きな杉の木がある神社だ。が、響はかすかな違和感を覚えた。そして考えるより先に、境内へつながる階段を上り始めた。
階段を上っていくと、見えてきたのは大きな鳥居であった。ここをくぐれば、神様のお社である。最上段に足をかけたその時だった。
(......!!)
響のとなりには、先ほどまでいなかったはずのオトナが立っていた。突然のことに声すら出ない響は、ゆっくりと視線を相手に向けた。とはいっても、自分の目線が相手の腰のくびれあたりであるうえ、相手は名前も人柄もまるで知らないオトナ。恐怖心から顔を見ることができず、50cm先にあるへそのあたりを眼中におさめるので精一杯だった。
「キミが国見響くん?」
頭の上から聞こえてきたのは、少しチャラそうな軽いノリの声だった。
「そう、ですけど...」
「よかった~!早速のお仕事だったからぁ、会えなかったらどうしようかと思ったよ~!
あ、そうだ。私はバグ調査組織RGBのサードリーダー、篝茶緒ね!よろしく~」
(お仕事?RGB?何の話だ?)
茶緒は独特の間がある話し方で、簡潔に自己紹介を終えた。
良い人なのか悪い人なのか、響にはさっぱりわからなかった。
「じゃあ行こっか~!」
(...どこへ?)
響の心の問いに答えるように茶緒は言った。
「RGBの施設へ!」
自己紹介が終わったと思ったら、待っていたのは謎の施設への連行である。響は思った。
(...絶対悪い人だ~!)
「いや、ちょっと待っ...」
響が抵抗しようとしたその時だった。茶緒が空をつかみ持ち上げる動作をしたと思ったら、次の瞬間、響の体は70cmほど浮いていた。ここではじめて、茶緒と目が合った。
「俯瞰の手。私たち4次元の住人は、3次元世界にあるものを自由に操作できるんだよ~。」
茶緒は何やら説明を始めた。
体が宙に浮いている...。俯瞰の手?なんだ、それは。それに、この人が4次元の住人??
「例えば3次元に住むキミたちは、紙、つまり2次元に自由に書いたり消したりできるでしょ?一部分を切り取って別の場所に貼り付けたりもね!それと同じこと。」
茶緒の説明を聞いて、響は抵抗をやめた。対面している人物が持つ力は、文字通り異次元なのである。これでは、どれだけもがいて逃げようとしても、無理だろう。そこで響は作戦を変えた。
「RGBとかいう場所に連れて行ってどうするんですか?」
時間稼ぎである。次元を超えて有効な作戦。自分で解決できない問題は助けがくるのを待てば良いのだ。
「う~ん、それはボスに聞かないとわからないな~。まずぅ、RGBっていうのは———」
掛かった。作戦は順調だ。あとは助けがくるのみ。茶緒は続ける。
「えーと...R、R...なんだっけ。なんかの略だったと思うんだけど...忘れちゃった!さっきも言ったけどバグ調査組織ね!私たちは今日から組織に所属することになったから、私も良くわからないの!」
私たち?今日から所属?新しい組織なのか?
響はいくつか疑問を抱いたが、その疑問はすぐに吹き飛んだ。
視界の隅に、オトナの巫女が映ったからである。
*人物*
・篝茶緒 :バグ調査組織RGBのサードリーダー。チャラめな16歳女子。
・国見響 :物語の主人公で、県内の高校に通う男子高校生。妹とアパートで2人暮らし。
・国見糸葉 :響の妹。県内の中学校に通う女子中学生。
・謎の少女 :10歳前後のお菓子好きな少女。
・中野旗音 :響と同じクラスの女子高校生。成績・人柄ともに良く、男女どちらからも人気が高い。
・仕立ハルヤ:響と同じクラスの男子高校生。響の仲の良い友達である。
*発生したバグ*
・空白の半日
2028年2月28日の昼12:00~夜24:00までの12時間の記憶を持つ者はいない。
・国見糸葉のオトナ化
国見糸葉は身長およそ230cmのオトナになった。
・中野旗音の消失
2028年2月28日を最後に、中野旗音は姿を消した。
糸葉以来、2人目のオトナと遭遇した響。
絶体絶命の状況で響の視界に入ってきた、巫女の正体とは?
小ネタ)
篝茶緒の身長は240cm。大人の中では小さめなほうである。
金髪で見た目はチャラめ、話し方もギャルい16歳である。
篝茶緒をアナグラムすると
かがりちゃお→おちゃがかり→お茶係
となる。サードリーダーと言っていたが、組織の位置づけとしてはそんな感じである。