第39話 新しい未来
~第38話までのあらすじ~
響は「感謝」の気持ちを持つことにより、信仰することに成功した。自然石に出現した俯瞰の占い帳を開いたとき、現れたのは聖なる槍。響は理想の未来を頭に描き、この槍を自然石に記された自分の名前に挿し込んだ。これをもって3つ目の選択肢の手順がすべて完了し、響はオーナーとしての生を終えたのだった。
「うわ~っ、もうこんな時間...て、あれ?寝てたのかな?」
あれから1時間、世界には再びメンテナンスが行われていた。響が記憶になかった、2月28日の午後に行われていたものと同じである。
「ひ~くぅ~ん!」
「ひっきー!」
「響くん!」
「おにいちゃ~ん!」
みんなも同時に起きたようだ。響はまた、とびかかってきたオトナ4人の身体に包まれた。
でもさっきのとは全く違う、さっぱりとした爽やかな気持ちである。
とはいえ、いい天気の日中に、大好きな人たちに物理的に囲まれるのは...
「ちょっと、暑いです!いったん落ち着いて、離してください...あっ!!」
響は思い出した。10時から卒業式があることを。
そして今は8時40分。アパートまで、飛行板で1時間ほどで到着する。
「卒業式行かなきゃ!」
響の言葉に永久野と衣央も続く。
「あと1時間しかないじゃん!」
「急がなきゃ、ですね」
「あ、ひっきー」
響を呼び掛けた伊奈瀬は、自然石を指さしていた。
響が視線を向けると、そこにはこのように書かれていた。
Half of the World
—————————
Yanu Sugino
—————————
Hibiki Kunimi
—————————
(オレの名前の下に、線が増えてる...!)
さっきまでの自然石は、そこに線は書かれていなかった。
響がオーナーとしての生を終えた証が、1本の線として刻まれたのだ。
響は目線を4人に向けた。
「伊奈瀬さん、永久野さん、衣央さん。みんなのおかげで、オーナーとしての役割を果たすことができました。本当に、ありがとうございました」
そして深々と頭を下げた。それに糸葉も続く。
「おにいちゃんを助けてくれて、ありがとうございました!」
「こちらこそありがとうだよ、ひっきーが無事でいてくれて。さ、早く卒業式行くよ!」
「あーそうだった、お願いします!」
そう言って響は飛行板に乗った。もちろん、伊奈瀬の飛行板に。
「それじゃ、飛ばすよ~!」
先頭の永久野に、糸葉、衣央、伊奈瀬と響の順番で続いた。
今日は今年で一番いい天気だ。晴れ晴れした5人の気持ちのように、海もまぶしく輝いている。卒業というおめでたいイベントにぴったりな日だ。
「ねえ、ひっきー」
「なんですか?」
飛行板に乗り、5人でおしゃべりをしながら進むこと1時間と少し。間もなく響のアパートが見えてくるかというところで、伊奈瀬は響に話しかけた。
「やっぱり気になるから...聞いてもいいかな、ひっきーが望んだ理想の未来」
聖なる槍を大石に挿し込んだ時に、響が願ったものだ。
「もちろんですよ!皆さんのおかげで実現できたんですから!オレが望んだのは————」
そして響は胸を張り、声を大にして発表した。
響が理想とした世界。それは、3次元と4次元を自由に行き来できる世界であった。
響の理想は、糸葉とも伊奈瀬たちとも離ればなれにならないこと。
響にすべてを委ねてくれたリリーの理想は、あいりや茶緒とずっと一緒にいること。
そしてオトナの中には、4次元に帰りたいと思っている人もいること。
これをすべて実現するための結論だった。
「えっ、じゃあもしかして...」
永久野がそう言ったときだった。
「遅いぞみんな~!早くしないと始まっちゃうぞ、卒業式~!」
「王那ちゃん!!!」
それは、響のアパートの前で手を振っている、実に豪華な盛装をした王那だった。
バグにより3次元と4次元がつながった神社。本来であれば王那は、響がオーナーを終えた時点で3次元には来ることができなくなった。しかし、響が願ったことにより、王那もこのようにして遊びに来ることができるようになったのだ。神社のことはひとまず美心に任せて。
「話したいことはいろいろあるが、とりあえず早く準備するぞ!」
アパートで瞬時に着替えた響たちは今、いよいよ卒業式が始まる高校に向かって、飛行板を走らせている。
3月上旬、まだ桜は咲いていないようだ。しかし、つぼみは丸々と膨らみ始めている。
これから始まる、新しい未来を見据えて。
定食の代表作「世界のハン分、バグりました。」がついに完結いたしました!
あまたの星の数ほど作品が存在しているなか、本作品をご覧いただけたことに心から感謝いたします。
さて、本作で回収されなかったものとして
・杉野ヤヌの理論帳だけが世界から消去されなかった理由
・美心とヤヌはその後どうなったのか
などがありました。すみません!
スピンオフ的にするかご想像にお任せするかは考え中です。
新たな作品にも挑戦しようかと思います。
皆様の物語のように、きらめく無数の星の1つになれることを願って⭐