第38話 結び
(よろしくお願いします...!)
開かれた俯瞰の書から出てきたのは、先が二股に分かれた細長い槍だった。
「結びの道具...聖なる槍...」
響はそうつぶやいた。開かれたページに書かれていた言葉である。
「自らの名を貫く...ということは、それをこの石の響くんの名前に挿す、ということでしょうか?」
「そうみたい...だね」
衣央の問いに、永久野は不安そうに返す。
響はその場で立ち上がった。それを見て、4人も同じように起立した。
伊奈瀬は響の頭にポンッと右手を置いた。
「ひっきー。いよいよだね」
「...はい!」
理想の未来を描き 大石に記された自らの名を貫けば 所有者としての生を終え それを実現できるだろう
響は「理想の未来」について、ずっと考えていた。
響の理想は、糸葉とも伊奈瀬たちとも離ればなれにならないこと。
響にすべてを委ねてくれたリリーの理想は、あいりや茶緒とずっと一緒にいること。
しかし、少し前の彼女たちのように、4次元に帰りたいと思うオトナもいるだろう。
そして響の中では、すでに答えは決まっていた。これらを実現する1つの答えだ。
そんな響に、「どんな世界を願うの?」と聞く人はいなかった。
「おにいちゃん!がんば!」
「任せろ、糸葉!」
そして糸葉は響の両肩に手を置いた。伊奈瀬は左手、永久野は右手を掴み...
「って、これじゃ槍挿せないんですけど!!」
響は突っ込んだ。
「ちょっとあい!あんたが離しなさいよ!」
「伊奈瀬ちゃんだって、さっきひーくんの頭にポンッってやってたじゃん!」
この期に及んで響の取り合いである。
「2人とも離してください。響くんの晴れ舞台ですよ!」
そう言って衣央は、伊奈瀬と永久野を響から引き剝がした。
「衣央さんありがとうございます」
「いえいえ!」
そして響は少し離れたインターホンに向かって叫んだ。
「今までありがとうございました、王那さん!これからもよろしくお願いします!」
そして聖なる槍を両手で持ち上げ、Hibiki Kunimiの文字に向かって挿し込んだ。
「えっちょっと、王那さんにこれからもよろしくって、どういうこと!?」と混乱している伊奈瀬たちに構わずに。
小ネタ)
聖なる槍のモデルは「ロンギヌスの槍」です。
ロンギヌスの槍をアナグラムすると...
ろんぎぬすのやり→すぎのやぬりろん→杉野ヤヌ理論
となります。杉野ヤヌ理論帳の名前そのものが、結びの道具の正体につながっていたんですね!




