第36話 いつもの調子
~第35話までのあらすじ~
響一行はバグ調査組織RGBの施設の近くの混浴温泉へ行き、施設に戻ってからはパーティーを楽しんだ。 みんなが寝静まったあと、伊奈瀬は響と糸葉が寝ているベッドに、我慢できずにそっと入っていった。
「ぁああああっ!」
響の目が覚めたのは、永久野の叫び声が聞こえたからだ。
「ちょっと伊奈瀬ちゃん!なんでひーくんのベッドにいるの!?」
「だって私、ひっきーとずっと一緒にいたいから」
そう言って伊奈瀬は、起きたばかりの響を抱きしめた。彼女はすでに起きていたようだ。
「あわわわ...」
永久野は言葉を失っている。永久野も本当は響と寝たかったのだが、響の糸葉との時間を大切にしてあげたいという思いがあり、自制したのだ。それなのに...!
「今夜は絶対ひーくんもらうんだから!!」
永久野は頬を膨らませている。
「おはようございます...」
「おにいちゃんおはよう」
永久野の声で、糸葉と衣央も起きたようだ。
時間は7時。時間切れまで残り5時間。
響たちは洗顔とあいりが作ってくれていた朝食を済ませ、リリーたちに挨拶をして、飛行板で自然石の場所へ向かった。
「伊奈瀬さん」
「.........」
「あの、伊奈瀬さん?」
「...あっ、どうしたの?ひっきー」
朝から伊奈瀬の様子がおかしいことに、響は気付いていた。表情はいつもより硬く、掴まっている太ももから感じられる体温も、少し熱い。さっきも自然石の場所とずれた方向に飛行しそうになっていた。
思えばそれは伊奈瀬だけではなく、永久野や衣央、そして糸葉もどこかいつもと違うようだった。俯瞰の書にあった手順通りにできなければ、響とまた会える保証はない。うまくいくとは信じていても、みんな、そんなシナリオが頭に浮かんでしまうのだ。
「明日からの春休み、何して遊びますか?」
「...えっ?」
「春休みですよ!今日の卒業式が終わったら、待ちに待った春休みです!オレ近くの大学に進学することが決まってるんで、一緒に遊びたいなって思ってるんです」
「...もしかして私を励ましてくれてるの?」
「えっ!い、いや...だってその...」
伊奈瀬から笑みがこぼれた。
「私、行きたいところがあるんだけど、もしあんたが行きたいならついて行ってあげてもいいわよ」
素直さとツンデレが合わさって一瞬何を言っているかわからなかったが、伊奈瀬の笑顔が見られて、響は安心した。
「行きましょ行きましょ!王那もつれてゲーセンも行きましょ!」
響はハッとした。またほかの女子の名前を挙げてしまった。
「...そうやってまた言う」
「ごめんなさい~!2人きりでお出かけするときは最初は伊奈瀬さんとにするので、許してください~!」
「へー、わかってんじゃん」
少しだけ、いつもの調子に戻ったようだ。
そんな2人の会話を聞いて、
「おにいちゃんたち、何話してるの~?」
と糸葉が飛行板で近づいてきて、
「ずるいよ伊奈瀬ちゃんだけ!」
「私も入れてください!」
と、永久野、衣央も続いた。
響の取り合いになれば、普段とは変わらないみんなであった。
*人物*
・国見響 :物語の主人公で、県内の高校に通う男子高校生。妹とアパートで2人暮らし。
・国見糸葉 :響の妹。県内の中学校に通う女子中学生。
・王那 :3次元世界の神様。第1話で登場した、謎の少女の正体である。
・神楽美心 :神社に仕える巫女。
・角末伊奈瀬:17歳の女子。入れ替わりにより4次元から転移した。
・永久野あい:17歳の女子。伊奈瀬とは幼馴染。
・科戸衣央 :16歳の女子。いつでもどこでも誰にでも敬語で話し、素直な性格。
・杉野ヤヌ :響の前にオーナーをしていた、20代前半の男性。口調は軽め。
・福田あいり:バグ調査組織RGBの副リーダー。
・篝茶緒 :バグ調査RGBのサードリーダー。
・中野旗音 :響と同じクラスの女子高校生。成績・人柄ともに良く、男女どちらからも人気が高い。
・仕立ハルヤ:響と同じクラスの男子高校生。響の仲の良い友達である。
*発生したバグ*
・空白の半日
2028年2月28日の昼12:00~夜24:00までの12時間の記憶を持つ者はいない。
・国見糸葉のオトナ化
国見糸葉は身長およそ230cmのオトナになった。
・中野旗音の消失
2028年2月28日を最後に、中野旗音は姿を消した。
・神社の違和感
3次元と4次元をつなげる神社。
・契約成立
4次元の住人は3次元世界において武力での戦闘を起こすことはできず、これに従い決着をつける。
・言語の統一
バグに直接関係しないものはすべて、日本語に統一された。
・2月30日
存在しない日。響とオトナなどのバグに関する人間以外は、その運動を停止する。
・謎のインターホン
自然石の近くに出現したインターホン。響の呼び出しに応答はなかった。