第30話 なんでここに!?
~第29話までのあらすじ~
響はリリーに俯瞰の書を借り、所有権の譲渡方法を思い出すことにした。しかしその方法は書いておらず、オーナーには第3の選択肢があることを響は知る。理想の未来を叶えられるというその方法を見ようとしたところで、リリーに俯瞰の書を取られてしまったのだった。
時間は夜9時を回っている。おいしいチーズインハンバーグ定食を完食して一休みし、そろそろシャワーに入りたい響が、大広間をさっきとは反対周りで徘徊していた時である。またもや中央付近にポンッと現れたのは、個室のシャワールーム...あれ?誰か入ってる?
響がそろりそろりと近づいていくと、いきなりシャワールームのドアがガラッ!とあいた。
「フフ~ンフ~ン...うわぁっ!!」
鼻歌を歌いながら出てきたのは、王那のいる神社で美心と響と契約成立した、篝茶緒だった。身体にはバスタオルを巻いているが、スタイルの良いくびれが露わになっている。
「茶緒さん!?」
「ぁあ~っ!国見響くん!ってか、私なんでここにいるのぉ!」
空気に質問をしている茶緒をよそに、大広間にはあっという間にシャンプーのいい香りが充満した。
「はぁ~。まあ帰ろうと思えば帰れるけど。せっかくだしさぁ、響くん。体洗ってあげるよ」
(...ぇえええ!)
何という積極性!ぜひ洗ってほしい!でも...。
「...自分で洗えます」
「ぇえ~つまんなぁ~い」
響は今18歳。思春期真っ最中の男子には、ちょっと刺激が強すぎるかな...。
「じゃあ私帰るからね。ばいばい」
「あ、はい。また」
なんで大広間に、茶緒が入っているシャワールームが移動してきたのだろう。茶緒自身が驚いていたのだから、茶緒以外の組織の人の仕業か。でも何のために?
そんなことを考えながら、響はシャワールームの扉を閉め、上着から脱ぎ始めた。
響はシャワーを浴び、15分ほどで全工程を終えた。洋服はあとで洗うとして、それまではバスタオルを巻いておくことにした。そして扉を開けるとそこにいたのは...
「やっほ~響くん!」
まだいたのか、茶緒!
...いや、でも今度はパジャマを着ている。シロクマの耳がついた可愛すぎる真っ白なパジャマである。そして響が着る用のパジャマも持っている!
「茶緒さん、また来ちゃって大丈夫なんですか!?リリーさんに怒られたりとかは...」
「バレなきゃ平気!!さぁ飲も飲も!」
そう言う茶緒の手にはビール...ではなく子供ビールが1本。茶緒も未成年なのだ。
雑談とともに交わされた子供ビールは、なんだかんだで4本空いた。残り3本はどこから湧いて出てきたのか、知るのは茶緒だけである。
2人が思う存分に飲み食いしたあと、「さすがにリリーさんにバレるから」と言い、茶緒は帰っていった。一緒に寝られるかも、とワクワクしていた響は、少し残念そうに彼女を見送った。
どこからともなく湧いて出てきたベッドで響が眠りについたのは、夜の12時前だった。
響の所有権が破棄される時間切れまで、残りは36時間である。
*人物*
・国見響 :物語の主人公で、県内の高校に通う男子高校生。妹とアパートで2人暮らし。
・国見糸葉 :響の妹。県内の中学校に通う女子中学生。
・王那 :3次元世界の神様。第1話で登場した、謎の少女の正体である。
・神楽美心 :神社に仕える巫女。
・角末伊奈瀬:17歳の女子。入れ替わりにより4次元から転移した。
・永久野あい:17歳の女子。伊奈瀬とは幼馴染。
・科戸衣央 :16歳の女子。いつでもどこでも誰にでも敬語で話し、素直な性格。
・杉野ヤヌ(すぎのやぬ) :響の前にオーナーをしていた、20代前半の男性。口調は軽め。
・福田あいり:バグ調査組織RGBの副リーダー。
・篝茶緒 :バグ調査RGBのサードリーダー。
・中野旗音 :響と同じクラスの女子高校生。成績・人柄ともに良く、男女どちらからも人気が高い。
・仕立ハルヤ:響と同じクラスの男子高校生。響の仲の良い友達である。
*発生したバグ*
・空白の半日
2028年2月28日の昼12:00~夜24:00までの12時間の記憶を持つ者はいない。
・国見糸葉のオトナ化
国見糸葉は身長およそ230cmのオトナになった。
・中野旗音の消失
2028年2月28日を最後に、中野旗音は姿を消した。
・神社の違和感
3次元と4次元をつなげる神社。
・契約成立
4次元の住人は3次元世界において武力での戦闘を起こすことはできず、これに従い決着をつける。
・言語の統一
バグに直接関係しないものはすべて、日本語に統一された。
・2月30日
存在しない日。響とオトナなどのバグに関する人間以外は、その運動を停止する。
・謎のインターホン
自然石の近くに出現したインターホン。響の呼び出しに応答はなかった。
小ネタ)
シャワールームを移動させたのは、実は福田あいりです。が、彼女自身も茶緒が入浴中だとは知らずに、響が入りたいであろう時間帯に大広間へ転移させてくれたのでした。




